七支刀って剣? その2 ― 鑓と鉾の違い
まず「七支刀」は日本書紀にも「七枝刀」の記述があり、「六叉の鉾」との伝承があるにせよ、日本に来た当初から「刀(剣)」であった可能性が高いと私も思います。
そこであえて七支刀が長い柄のついた実用的な武器だったと主張しようとすると次の二つの場合が考えられると思います。
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説 1 については仮にそうだったとしても、元の鉾がよほど七支刀に似ていたり、何がしかの変化に関する物語がなければ、「七支刀はもともと刀だった」という説と大差はありません。こちらの説を追及するのが実り多い作業とは思えませんので、説の披露のみに留めます。
説 2 についてはいくら数が少ないといっても、ソケット状でない長い柄の付いた武器がなければ説得力がありません。そこで、そのような武器がないか調べてみることにしました。
まず、フォークのように短い鉾先であれば、ソケット状で十分間に合うはずです。鋳造ですからわざわざ差し込む形にする必要もありません。
もし、刀のように長い鉾先や鎌状やハンマー状ではない重い大きな鉾先を付けるなら、大きな慣性モーメントに耐えるために鉾先を柄と一体となるよう強く固定する必要があります。
この場合、細長い中空のソケット状を作ったり、鋳造後に後から曲げたりすぼめたりして柄に強く固定するのは当時の技術としてかなり難しいのではないでしょうか?おそらく、柄に差し込むと同時に先を柄で挟むように固定するほうが作り易いはずです。
このような武器としては、わかりやすいところでいうと、七支刀とは大きく形が異なりますが、ゲームなどに出てくる大斧や方天戟、時代的には後漢の呂布が使ったとされる方天画戟が相当するでしょう。
当然、呂布の方天画戟は後代の創作でしょうが、戟や鉾(矛)として残っているものの中に似たものがないかと思って Google のイメージ検索をしてみました。
……どうも、長い中空を作るというのは青銅器では普通にあるようです。そういえば、青銅器の剣も強度を出すために(柄を差すためという説もあり)中空にしていましたね。
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次に鉄矛です。北部九州からだけ15点出土しています。鉄剣などに比べて鉄矛の出土例が少ないのは、従来鉄剣とされていたものの中に長い柄をつけて槍としたものがあるのではないかという見方もあります
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ただ、これも仮説の域を出ませんし、剣と間違われるぐらいですから別に変な形もしていないでしょう。
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結論
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「鉄剣を槍のように使っていた」という仮説があるだけで、宋代の方天戟と古代の戟の中間にあるような鉄器の存在すら確認できませんでした。「不存在」を示すのはそもそもかなり難しいことなので、説 2 についてはまったくありえないわけではない……といった感じでしょうか。
ただ、上の仮説を認めた場合は、ソケット状でなくても鉾という認識を当時の日本人ができるはずですから、説 2' は否定されるでしょう。すると、なぜ「六叉の鉾」が「七支刀」になったのかという謎が残ることになります。……う゛ーん。逆に「七支刀」として受けとったけど「六叉の鉾」だろうと名付けなおしたとかね。まぁ、それはないか。
更新: | 2006-03-24 |
初公開: | 2006年03月24日 15:02:52 |
最新版: | 2006年03月24日 16:52:38 |
2006-03-24 15:02:51 (JST) in 歴史 | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (1)
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七支刀(または六叉鉾)にたまたま関心を持ち、いくつか記事を書いた(その1、その2)。そこでは六叉鉾は実用的なものだったのではという方向を示唆したが、その後、世界的なシンボルとして「六叉」の槍状のものがあることを知り、今度は(主に王権の)シンボルとしての意味に関心を向けた記事も書いてみることにした。また 7 でありかつ 6 であるというテーマに神秘的なものを感じ、それについて絵というか図を創作してみ... 続きを読む
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