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2010年11月16日 (火)

IT 革命と私――神学の忌避の向こう

私の上の世代、または、インターネット(WWW)以前の世代の人々の見解として、「神学論争」は実りのない議論の比喩であり、神学そのものが近代理性を知らないアヤしげな宗教的実践であるとみなされていたと思う。そのため、神学は、誠実でありながら、そういった常識にあえて反抗できる…というかなり人を選ぶ学問だと、例えば私は感じていた。

「近代理性」の発展は、「神」という概念を使わずに「社会」と「個人」の関りを説明し、その理性の働きはそこに権限や責任さえ見出させると信じる運動であった…と私は要約するが、その「神」学の忌避は、宗教的対立の超克や呪術的操作への拒絶といったこと以上に、あらゆる時代の若年世代に普遍的に存在した旧世代への反感を基礎にしていた…と考える。

そのような考えに私が至ったのは、私がインターネット黎明期に、コンピュータによる定理証明の研究をしていたことの影響も大きい。
つまり、まず、コンピュータによる定理証明が、他の定理証明よりも厳密であると主張できることは、その時代までの「証明」はそれ以降「不完全な証明でしかなかった」という評価に堕さしめる可能性を秘めていた。そして、さらに、それがネットに結びつくと、これまでのような査読による秩序とは違う、よりパーソナルでありながら、しかし強固な真実の伝幡が可能となることを私に予想させた。それは同時に、その秩序から恩恵を引き出していた者との衝突を当然予想させる。

この予想は、しかし未来に対してだけでなく、過去に同じことがあったのではないかという空想ももたらした。すなわち、活版印刷の普及以降、教会に所属しなくても、情報にアクセスする可能性が増すと同時に、限られた人間だけに理解されることよりも、安価な教育により「一般理性」に働きかけて理論の証明を得る方法が開かれるようになったとき、旧秩序の中で特に神学が、その大きな割を食ったのではないか…という空想である。神学の中には、有用なテーマでありながら、「不完全な証明でしかなかった」と葬られたものも多々あったのではないか?

そういった視点から現代の、例えば、論文誌の電子化と囲い込みを見ると、旧秩序の側も比較した優位を際だたせる必要のために、若年層による「研究の実践」に距離を置いていると(私には)見えるが、それは過去に神学が、半ば保身のため若年層を情報から疎外すると同時に、若年層が神学の忌避を享受して旧世代の成果に似たものでも自分の成果となしえた…ということを踏襲することになっているのではないか。(なお、「理性」への反感を宗教側が選択して導くために、神「学」は宗教側からも否定される面があったかもしれない。)

その「反発」は構造的で、あらゆる時代の若年世代にある程度、普遍的に存在しているものだが、若年世代が主となってそれを表明するに都合のよいメディアが力を持つかは、その時代の巡り合わせであろう。

そして巡り合わせと考えると、情報の途絶の先に戦乱があるがあるのかもしれない。戦乱はそんなこととは関係なしに起こるものかもしれないが、しかし、漫然と戦乱まで踏襲しないように考えるのが市民的責務だろうとも信じる。その知恵を(旧秩序としても反動秩序としても)「神学」から辿ろうとするのは、インターネット以降の若年世代の私には、それほど不思議ではないように思え、それを独学することとなった。


更新: 2010-11-16
初公開: 2010年11月16日 20:13:41
最新版: 2010年11月16日 20:28:34

2010-11-16 20:13:39 (JST) in 論理学 自己紹介 情報工学・コンピュータ科学 | | コメント (0) | トラックバック (0)

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