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2006年8月 3日 (木)

『新約聖書』ひろい読み − 神殿とハト

マルコ 11:15 (マタイ 21:12, ルカ 19:45, ヨハネ 02:13) ではイエスは唯一とも言える実力行使をし、それにより律法学者達が殺意をいだくまでになる。

11:15
それから、一行はエルサレムに来た。イエスは神殿の境内に入り、そこで売り買いしていた人々を追い出し始め、両替人の台や鳩を売る者の腰掛けをひっくり返された。
11:16
また、境内を通って物を運ぶこともお許しにならなかった。


ポイントは「両替人」と「鳩を売る者」を並んで批判したことである。
古代の発明』(p.215)によると、地中海文明圏では伝書鳩を使った神殿間のハト通信が発達していたらしい。

そこまで発達したシステムを何に利用したか、伝書鳩が届けられる文の量はそう多くない。私は、金と貨弊の兌換率や人口動向などの経済データであったのではないかと推測する。

地中海世界ではフェニキアなどのように神殿が銀行機能を担っている場合があったようである。貨弊信用の維持のために神殿への信頼を利用したのである。

しかし、神殿の直接的な関与はインフレなどで貨弊の信用が低下するとき、同時に神殿の信用を低下させることが容易に想像できる。神殿と(中央)銀行の機能がつかず離れずの形となり、一般信者の目からは見えにくくなっていたほうが有利だっただろう。

新約聖書略解』はこう書く。

>
...また神殿での献金には、日常生活での貨弊はふさわしくないとされ、両替をせねばならなかった。


近代までの硬貨は、その流通というか両替商のところでその一部がこそげとられ、同じ額の硬貨でもその重さは一定ではないことが多かった。

ここではそのような硬貨が「キレイな硬貨」つまり元の重さの硬貨へと両替しなければならなかった。

おそらく平均流通貨弊の金や銀への兌換率が両替商=神殿によって決められているというのがローマ統制下のシステムだったのだろう。

さらに注意すべきは売られていた鳩は略解が示唆するような「犠牲用の鳩」ではなく「伝書鳩」だったのではないだろうか。

商人達は神殿へと帰巣する「伝書鳩」を買って、各地の重要商品の入出荷情報をやりとりしていたのではないだろうか?

それらの情報は神殿へと集る。自然と中央銀行的な両替商とつるめない同業者は廃業においこまれただろう。そこには自然と寡占による利潤が生じていただろう。


イエスが単に信仰心からこのような「暴行」に及んだとしても、背後には自国に貨幣自主権を取り戻したいというグループや、伝書鳩の自由な利用による市場自由化を模索するグループの支持があったのかもしれない。

これは単なる神殿の正常化に留まる主張ではなく、神殿を含むローマなどの体制への重大な挑戦であった。

11:18
祭司長たちや律法学者たちはこれを聞いて、イエスをどのようにして殺そうかと謀った。群衆が皆その教えに打たれていたので、彼らはイエスを恐れたからである。


裁判などの記述を見る限り、神殿の破壊というような言葉はあっても、そのような体制への攻撃という批判はないようである。しかし、この行為がローマ側の書類上でも、イエスの大きな罪になった可能性があると私は考える。

参考
古代の発明』(ピーター・ジェームス and ニック・ソープ, 矢島文夫 監訳, 東洋書林, 2005年12月)
更新: 2006-08-03
初公開: 2006年08月03日 21:29:55
最新版: 2006年08月03日 21:29:55

2006-08-03 21:29:55 (JST) in 新約聖書ひろい読み, 経済的動機付け | | コメント (0) | トラックバック (0)

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