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2007年11月23日 (金)

デジタル著作権の報酬請求権化に向けて

版を造れば、いくらでもコピーができる。コピーの価格が劇的に下がった時代があった。それは結局、著作者がパトロンや他の収入により支えられるという形から、版の独占を認めそこから著作者が対価を得る形に、転換がなされることにつながった。

しかし、独占権のように強い権利は必要なく、著作者の収入は基本的にはパトロン等に頼る形にして、あとは報酬請求権のような弱い権利を認めれば十分だったのではないだろうか?
テレビや雑誌は広告収入を大きな柱としており、広告主は現在のパトロンといってよい。「知識階級」が書くような本は通常、他の収入により支えられている者が書いている。一定の補償金が支払われれば、特に直接の許諾をもらわなくても利用ができる運用も実際にある。

他の独占権がなくなっていく中、なぜ、著作権は独占権としてずっと守られてきたのだろうか?

私はその大きな理由が紙幣制度にあるのではないかと思っている。

紙幣制度を維持するためには印刷工場をおさえられないといけない。ニセの版による「出版物」が出たとき報酬請求権があるとか悠長なことはいってられない。結局、独占権は必要とされるのだから、民間でもそれを認めてお互い監視させたほうがいいということになる。そういや最近紙幣に載せられるホログラムってDVDやCDのデータ面みたいな感じだよね……。

重要なのは紙幣に載せられた「データ」は数値でしかないということだ。データ自体に価値はない。メディアの製造をコントロールできることが、その価値を決めているのである。実は独占したいのはメディアの製造である。


現在、ネットを介したデータだけの流通がはじまっている。データだけで流通できるならメディアの製造をコントロールするための独占権は意味がなくなる。紙幣は流通量が減ってもこの先も必要だから、著作権を独占権とする枠組は変わらないだろうが、デジタルなデータに関してはパトロン等+報酬請求権という構成に限りなく近づいていくのではないだろうか。


この一ヶ月ほど「私的複製を考えるシリーズ」と称していくつかの記事を書いてきた。パトロン等+報酬請求権という方向にいくという見立てから、これらの記事を見ることもできる。

文化祭と著作権の問題から私的翻案を考える》では、私的利用によって独占権に対抗することを述べた。しかし、デジタルデータの場合、版の作成もコピーもほぼゼロ円でできる。そのときにゼロ円でなく適当な価格で購入するというのは、結局、支払う側の意志に期待する「申告納税」に近い形をとることにするということである。

違法サイトからのダウンロード違法化に「反対」する》で「応分の負担」があればよいとするのはまさにその方向を狙っている。そしてその方向に行くなら複製から報酬を得ることに依存したモデルからの脱却も必要だろうということで、「翻案権」なども柱に据えていくべきではないかと私は考えている。

私は上のように直接的な支払いを機軸にしていくべきだと考えているが、強制的な「間接税」で収入の安定化をはかりたいという思いも理解できないでもない。《消費者保護としての私的複製の骨抜き案に反対する》では補償金をこれまでより広くとれるようにすることも否定せず、補償金の根拠となりえる間接侵害も認めていくべきだと述べた。ダウンロード違法化の「反対」が消極的なのも間接侵害の範囲を広くし、補償金の根拠を広くすることにある程度の必要性を感じるからだ。

ただ、現在の私的録音録画補償金は、恣意的な運用になりがちな物品税と、これまた恣意的かつ財政的効果の薄い直接給付の組み合わせで、私もあまり良いシステムだとは思っていない。

では、申告に基づく「直接税」を安定的にする方法はあるのか、と問われると私は答えに窮する。ただ、記録は残るようにしておき、民間人も(政府も)金で証拠を買えるようにしておくことは、いずれにせよ必要ではないかとも想う。《無コピーの占有デジタルコピーの譲渡の自由》はその方向に沿うものである。

こう考えてみると、「間接税」である補償金からの報酬請求により基礎的収入を支え、薄く広い「直接税」によるパトロネージュで儲けを出すという昔とは逆転したような形が、これからの著作権周辺の在り方なのかもしれない。


シリーズの結びに代えて私信


このブログのタイトルを見ればおわかりのように、私には税を中心にした関心がもともとある。それがネットに触れることで電子マネーを大きなテーマとして考えるようになり、それが電子的に取引が完結するものとしてデジタル著作物への関心へと広がった。だが、ブログをはじめるまでは、著作権は多くある関心の一つという位置付けでしかなかった。

それが昨年来ブログを書くようになり、自分でも「著作者」という意識が芽生え、さらに「二次創作者」となることも選択し、著作権が関心領域としてどんどん大きくなっていった。

特にP2Pファイル共有に関する「稚拙」な議論に義憤が大きく、P2Pファイル共有を認めたうえで著作者達も納得できるような方向性を打ち出せないかといろいろ考え、少し大きい記事を書こうと図った。

それがいけなかった。思い返せば、あまりにも身にあまる野望だったのだろう。私も「稚拙」な一人に過ぎなかったというわけだ。

記事をまとめようと思考するもなかなかまとまらず、それでもニュースはほぼ毎日のようにあり、時間ばかりが過ぎて、気が付けば他のことがまったく手についてないという状況になった。

どこかでキリをつけなければならないと思っていたところ、私的複製に関するパブコメについてこれは何か書かないといけない気になり、さらに文化祭と著作権に関する報道を通じて思いのほか二次創作に関する意見がまとまったことから、この機に書きたいことをエイヤッとばかり書いてしまった。

他にも書きたいことがないわけではないが、このシリーズが私の今の到達点と言ってよい。私のそれ以外の論はこれらからだいたい派生できる。

著作権関連のブログ等を読みながら、主にはてなブックマークを通じていろいろ書き散らしてきた。しかし、この記事を区切りとして、当分、著作権に関する話題からは意識して離れていこうと思う。今は別のことに取りかかりたい気持ちでいっぱいである。


これまでブクマやシリーズを読んで下さった方へ


特に名前を上げることはありませんが、これまで私のような匿名の人間を相手にしていただき、ありがとうございます。ひとまずお礼だけはさせてください。様々な活動については陰ながら応援しています。もちろん、私がいなくなるわけではないので、またいつか、著作権に関する記事は書くことがあるかもしれません。そのときにたまたま出あうことがあれば、よろしくお願いします。


関連サイト

2007年11月15日のパブコメ締切に向けて私的複製を考えるシリーズ。

報酬請求権化の方向は様々な人が示している。有名な方では:《池田信夫 blog:著作権は財産権ではない》。

補償金規定の国際比較はこのページからサイトやカテゴリを辿ると良い。:《無名の一知財政策ウォッチャーの独言:第12回:著作権国際動向その2:欧州連合(補償金制度改革)》。

最近の著作権一般に関するオススメ参考文献。

著作権法』(中山 信弘, 有斐閣, 2007年10月)。
CONTENT'S FUTURE』(小寺 信良 and 津田 大介, 翔泳社, 2007年8月)。
インターネットの法と慣習』 (白田 秀彰, ソフトバンク新書 015, 2006年7月)。
情報の私有・共有・公有』(名和 小太郎, NTT出版, 2006年6月)。
Free Culture』 (ローレンス・レッシグ, 山形 浩生 and 守岡 桜 訳, 翔泳社, 2004年7月)。


更新: 2007-11-16--2007-11-23
初公開: 2007年11月23日 00:18:16
最新版: 2007年11月23日 00:47:27

2007-11-23 00:18:12 (JST) in 知的財産, 租税制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

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