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2011年7月17日 (日)

海外ダウンロード購入にまつわる私のトラブルに関する法的検討

先日、ゲーム機での海外ダウンロード購入に関してトラブルに見舞われた。海外ダウンロードを禁ずるのはそもそも「法の下の平等」に照らして間違いであり、「市民的不服従」と「反知性主義」の葛藤[かっとう]の中、公正に補償を要求せねばならない……。本稿は、トラブルの解決に致るまでの私のそういった「法的検討」を書き留めたものである。
用語と略称


略称を用いるのは本稿では少しでも抽象度を上げたいと考えたからで、 [aboutme:139168] などでは実名で書いている。用語も略称も網羅的ではなく、一般的な説明でもないかもしれないが、当事者たる私の偏見を理解するのには役立つと思う。


M 社
最大シェアの OS を牛耳る世界企業。本稿は、そこが販売するゲーム機の国際通信機能にからむトラブルに関するものである。

MJ 社
M 社日本支店。サポートはとても丁寧。

MC 社
M 社カナダ支店。

C 社
対戦格闘ゲームの草分けで、今もその分野のリーディングカンパニー。「昭和の日本」で戦争を題材にするアーケードゲームを作っていた。

ゲーム機 X
M 社のゲーム機。世界的に大きなシェアを持つが、日本でのシェアは世界でのシェアに比すると小さい。

ゲーム S
C 社がゲーム機 X で出している対戦格闘ゲーム。ネット対戦も可能で、コンピュータ相手に練習しながら、対戦相手がネット越しに「乱入」するのを待つ機能がある。C 社は、M 社の競合他社ゲーム機でも同じゲームを出している。

ゲーム拡張 AE
ゲーム S の有料の拡張機能。対戦格闘ゲームのキャラクターを追加する機能などを持つ。

ネット対戦
ゲーム機 X におけるネット対戦は、ネット設備のほかに、M 社発行の会員証を買うことが必要だが、それ以外の料金、例えば利用者が C 社に対戦ごとに別途料金を支払う必要はない。競合他社ゲーム機では会員証を買う必要すらないが、たまたま、ゲーム拡張 AE が出てしばらくの間、ネット対戦できなくなっていた。

ゲイツ
M 社がゲームなどを買うために発行するポイントの単位(俗称)。定価では 1ゲイツ = 1.5円だが、プリペイドカードはもう少し安く買える。国が違っても同じゲームは同じゲイツで買えることが多い。

パッケージ
ゲームは DVD や CD などのメディアが入ったパッケージにより売られることが多かった。後述のダウンロード購入に比べれば、著作物に物権的機能を付与するのがパッケージだったと言えよう。

ダウンロード購入
ゲームをネットを通じた DRM を用いて購入する。パッケージでは必要なメディアの入れ替えを必要とせず、 PC でアイコンをクリックするような感覚でゲームをはじめられる。ただし、この方法で買うと、パッケージなら問題なくできる他者への譲渡等が実質不可能になる。

DRM
Digital Rights Management。電算的権利管理。ソフトウェアの所有権等を管理するための仕組みの総称。下手な実装だとプライバシーの漏洩につながったりする。一般に消費者契約において消費者に不利な条項が入ることがあるが、強い DRM ではそういった不利がコンピュータプログラムとして起きるためやっかいになる。

アカウント
ゲーム機を管理するサーバーへの利用者登録。

地域制限
メディアやファイルの「リージョンコード」を利用して、特定の国向けに販売しているハードでしか、そのソフトを使用できないようにする措置が近年とられている。

VPN
Virtual Private Network。架空私設線。ホストからのデータを別のホストに「トンネル」を作って渡し、最初のホストのアクセスがまるでトンネル先のホストからのアクセスのように「偽装」するための仕組み。システム担当者は「偽装」のためと言わず、セキュリティ向上のため、職員のアクセスを監視するためと説明する。



客観的事実


私のトラブルに関する事実を私なりに客観的に述べてみたい。

まず主観的なポリシーとして、私は、電子著作権に関心を持ち、ゲーム機 X においては、DRM の問題を実感するために、つとめてダウンロード購入を選択してきた。

ゲーム S は、以前から続くシリーズの新しいバージョンとしての側面を持ち、ゲーム S のパッケージの発売後、私は前のバージョンにあたるゲームのパッケージを中古で購入し、気に入っていたため、新しいゲーム S はぜひダウンロード購入したいと考えた。パッケージが発売になったからと言ってダウンロード購入が必ずできるようになるとは限らない。私は C 社と M 社のサポートに、ゲーム S、または、私がすでに持っている前のバージョンでもいいから、ダウンロード購入できるようにして欲しいと要望を出していた。


2011年1月28日、ゲーム S が海外ではダウンロード購入できるようになったことを知った。前のバージョンが海外でダウンロード購入できることはそれ以前に知っていたが、私は、その報に業を煮やして海外アカウントをとってダウンロード購入をすることを決意した。

表向きは海外からの移住者などのための対策だろうか、ゲーム機 X では、海外住所者のアカウントを国内のゲーム機上でも持つことができ、海外アカウントを使えば、海外での販売情報などを見ることができ、さらに海外住所のクレジットカードがあれば、海外からのダウンロード購入も可能だった。

さらに、このころは、公式には「バグ」とされていたらしい公知の事実として、同じプリペイドカード額面がある国であれば、その額面のプリペイドカードを使って、海外でのダウンロード購入が可能だった。(後述のようにその後この「バグ」が封じられる。)

私は海外住所としてネットで適当に検索したホテルの住所を使って(つまり一部虚偽の情報で)海外アカウントを作成し、プリペイドカードを使ってゲーム Sを海外からダウンロード購入した。(2800ゲイツ。最初、正直に日本の住所を入力しようとしたが、受け付けられなかった。)

海外からダウンロードした「海外版」のゲームが日本のゲーム機 X で使える保証もなく、当然、日本語は普通使えないものだが、ゲーム S の場合は、日本のゲーム機 X で、日本のアカウントで起動し、日本語で遊ぶことができた。


ダウンロード購入のメディアの入れ替えが不要という特徴は、汚損を心配する必要がないことも意味し、それは、操作さえ覚えてもらえば、子供に、より安心してゲーム機をまかせられることを意味している。私には配偶者も子供もいないが、甥が二人いる。私は、私の家を訪れた甥とゲーム S やゲーム S の前のバージョンで遊び、(ネット対戦はできないよう設定したうえで、)甥たちは二人で対戦したり、甥の一人は技が出せるようしばらく一人でゲームで遊んでいたりした。


2011年6月8日、ゲーム拡張 AE が(日本で)ダウンロード購入できるようになったため早速購入した(1200ゲイツ)。ゲーム拡張 AE は、おそらくゲーム機 X でははじめてだと思うが、ゲーム拡張 AE を含むゲーム S のパッケージが「限定」の付録を付けてすぐあとに発売することを告げた上で、先にダウンロード購入ができるというスケジュールがとられた。

主観に少し戻るが、この売り方であれば、ダウンロード購入で買った者がパッケージを予約購入した場合、ダウンロード購入に気に入らなければ、限定パッケージの予約販売分が減るというリスクを負うことになる。

これまでのパッケージ発売のあとダウンロード購入ができるようになるという形式は、ゲームをやったことのない者がパッケージを買い、気に入ったものがダウンロード購入して、パッケージを中古に出すようになれば、パッケージの価値は下がるしかなく、中古が広まりダウンロードが広まることで人気が出ても、報われるのはゲームをやりこんだ者ではなく、新品状態を保ったゲームをやっていない者であった。

しかし、ゲーム拡張 AE の売り方は、早く手に入れたいものはダウンロード購入をするため、気に入った者のみがパッケージを記念に購入することを促す形式と言え、ゲームをやってその良さをわかる者が、これまでに比べ得をしやすい形式となっていると言える。

私はその趣旨に参同し、ダウンロード購入の前に、パッケージの予約を入れておいた。そしてゲームの出来がどのようなものであろうと、そのパッケージを記念に保持するつもりでいた。

(ただし、ゲームをやっていない者を排除するというのは、ゲーム市場にとって幸せなことではない。株式市場や先物市場を見れば明らかだが、現代では商品そのものの需給者だけでは必要な投資が集まらない。上の売り方は発展の大事な一歩だと思うが、[aboutme:130416][aboutme:131981] で書いたような転売のためにパッケージを購入する者もゲームをやり込む者も得をする方向が今後模索されるのではないか。)


しかし、6月8日のダウンロード後、私にトラブルが発生する。通常、ゲーム S を起動するとゲーム拡張の認識がまず行われるが、そこでゲーム拡張 AE が認識されず、新しいキャラクターの追加などがなされなかった。(なお、警告が出て拡張がない状態のままだが、ゲーム S 自体はプレイ可能であった。)

ゲーム S は海外でのダウンロード購入で、ゲーム拡張 AE は日本でダウンロード購入している。海外のゲームであれば海外のゲーム拡張を用いるのが自然だが、ゲーム拡張 AE 以前の有料のゲーム拡張のいくつかも私は日本でダウンロード購入しており、それはゲーム S で認識されていた。

ただし、ゲーム拡張 AE はそれまでのゲーム拡張と違い、プログラムの大きな変更をともなう拡張で、これのみ海外のゲーム拡張を使わねばならないという可能性を私は考えた。

ゲーム拡張 AE には、お試し版に相当するものがあり、それは無料で海外からダウンロードできる。ゲーム拡張 AE を削除してそれをダウンロードしてみたが、やはり同じようにその無料の拡張も認識されない。


ゲーム機 X では、ハードディスク容量を節約するなどの目的で、ゲームのハードディスクからの削除を認め、替わりに再ダウンロードをいつでも認めるという施策をとっており、ゲームに不具合が起こったときは、全削除を試みることも「標準的な手順」の一つと公知されていた。

上記のほかにも、いろいろな方法を試したあと、ゲームのセーブデータを別に移した上で、最後にゲームの全削除を行って、再ダウンロードを行った。しかし、海外アカウントを使った再ダウンロードが失敗する。

つまり、ゲーム拡張 AE を使わなければゲーム S 自体は起動できたのに、今度は、ゲーム S 自体起動できないという状態になった。不具合に対する「標準的な手順」を行ったところ、その手順の前への「原状回復」も不能となったのである。

大きなファイルということもあり、当初は回線事情でプロバイダに途中切断されたかと考えて、何度か試すと、ダウンロードできたパーセント表示を観察する限り、どうもダウンロードはできているが認識がされないと考えるべきであるという結論にいたった。


この段階で、私は自力での解決が不可能であると判断し、MJ 社のサポートに連絡をし、海外アカウントの取得時の住所がホテルのものであることも含め、正直に事情を説明した。そこで私が知らなかった不具合に対する「標準的な手段」である、「キャッシュの削除」という方法があることを知った。そのときは、それを試しても「原状回復」はできなかった。

ところで、後の解決や後に集めた情報から類推すると、実は、そもそもゲーム拡張 AE が認識されなかったのは、海外と日本の差によるものではなく、海外では(その国で)ゲーム S をダウンロード購入した場合にしばしば発生していた不具合であったらしい。(パッケージで発生していたかは定かではない。)そして、その不具合への修正が私が全削除と再ダウンロードを試したころに出ていたらしく、その修正に必要な操作が「キャッシュの削除」だった。だから、全削除の前に「キャッシュの削除」を試していれば解決した可能性が高い。

サポートによればゲーム S の原状回復すら期待できない状況となり、ゲーム自体に不満がなかったので心苦しかったが、しっぺ返し戦略も必要だから、限定パッケージの予約はキャンセルし、直接の関係はないが、サポートにもそう伝えた。

何度かサポートに連絡するうちに私の考えも整理され、私はサポートに、再ダウンロードができなかったことは諦めてもよいが、ゲーム拡張 AE の購入は錯誤に基づくため、これを無効にし、そのポイントを返還して欲しいと申し出た。

しかし、その申し出は断られたので、ゲーム機 X を今後も使いたいので友好を保つが、あたり前のこと(標順的な手順)として、国民生活センター等へ連絡すること、同じ商品に二度支払いをすることになってもかまわないから、ゲーム S を日本でダウンロードできるよう要望することを述べて、この件についてのサポートを求めるのは終了するという意思を告げた。


その言葉どおり、2011年6月17日に国民生活センターの「消費者トラブルメール箱」に(実名で)投書した。一通 1000 文字の制限があり、三通のメールとして送った。

さらに、2011年6月19日、MC 社に英文でメールを送り、もし "intentionally"(意図的)に行ったなら、"you deceived me to buy another eventually destructive add-on" (私をだまして結果的に破壊的なゲーム拡張を購入させた)という状態、すなわちある種の詐欺に相当するのではないかという表現を使った。

返答は、その点については特に言及なく、"It is playable, but the thing is, you would not be able to download it as the Canada version due to license restrictions" (ゲーム S は使用可能だが、事情は、ライセンス制限のためカナダのものはダウンロードできません。)とあったので、さらにその返答として、"I know the constituition of some countries including Japan has stated to prohibit discrimination even over economic treatment.(…)Region restriction over the net can affect every games on the net immediately. How do you think game providers can assure that treatment, even when I buy and import Xbox 360 from Canada?" (日本を含む国の憲法では経済的にも差別が禁じられていたと覚える。ネットでの地域制限はネットにつながったあらゆるゲームに即座に適用しうる。仮にゲーム機 X をカナダから輸入したとして、ゲーム供給者は無差別をどう保証するのか。)と書き送った。

ただし、同時に私の返信では "I withdraw my request and you don't need to reply." (私は要求を取り下げる。返答は不要である。)と書いたためか、次の返信はなかった。


2011年6月24日、6月8日からこの日までの間に、ネットで検索して見つかる海外ダウンロードの方法が、プリペイドカードを使った説明は見つけにくくなり、 VPN を使った説明が行われていることを知った。6月24日に、試しにプリペイドカードを登録し、いくつかダウンロード購入を試みたがことごとく失敗した。 (その後試したところ、ゲームのダウンロードができなくても、ゲーム拡張の海外ダウンロード購入はできることがあった。)


2011年7月2日、私は、海外でクレジットカードを使うのを要し、また設定が複雑になる VPN を使った方法を敬遠していたが、この日、意を決して、海外の VPN 業者のサービスを購入し(3ドル弱)、VPN を通じて再ダウンロードを行ったところ、ゲーム S が再び起動できるようになったばかりか、ゲーム拡張 AE も正常に動作した。

7月4日から数日に分け、MC 社、国民生活センター、MJ 社にそれぞれ、相談したときに使った通信手段を用いて、解決した旨を報告した。


法的検討:経済上の扱いの平等と税


「法の下の平等」をうたう日本国憲法 第14条1項には、「経済的」にも「差別されない」とある。もちろん、お得意様への割り引きまで「差別」ということにはしがたいから、経済的自由とのかねあいがあり、ある種の「差別」をなしたから即、憲法に反するわけではない。

憲法第14条1項
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。


通常の努力をすれば得られる関係なら、それがある程度の長い期間かかるものでも「差別」とはならず、長期的な関係に基づき商品の卸売り先を絞ることは是認されることが多いだろう。一方、一定の学歴を必要とするようなものはアウトだが、試験による有資格者のみに試供的に販売するというのは認められうるだろう。

滞在する外国人に国籍が違うという理由で商品を売らないのは差別である。同じ国内に住む者が、言語が違うから、遠くに住んでいるから保証等が難しいという理由があっても、取引から排除されてはならない。一時的に滞在する外国人だから販売できないという理由はない。

しかし、商品が(外国人とともに)国境を越える際には安全保障上の理由、相手国内の規制(猥褻[わいせつ]物の規制など)で輸出入が禁じられることはありえる。

ただ、少し踏み込んでいうと、輸出入が禁じられるとわかっているからという理由で売らないというのも差別だろう。禁じられているのをわかった上で、一時滞在者が買うことを止めてはならない。それが日本国憲法がコミットする自由主義の大事な政治的プロトコル(手順)であろう。


さて、今回の問題はネットを通じた著作物の「海外ダウンロード」に関して起きている。

「海外ダウンロード」の問題を考える前に、まず、その前段階である著作物のメディア(DVD 等)での「リージョンコード」について検討しておく必要があるだろう。

「リージョンコード」は、販売時にメディアに同時に記録されるもので、メディア再生機機等での再生(や書込)のときに、そのコードがチェックされ、機器の仕様に合わないと判断されたものは再生(や書込)を行わないようにする仕組みで、これにより、メディアの流通する地域(リージョン)を規制しようとするものである。

当然、あるところでしか買えない商品というのがあり、しかもそれを家に持って帰ると再生できなかった(事実上再生を禁じられていた)ということがありえるわけで、これが「法の下の平等」に反しないというのはとても疑わしいと私は思う。

ただ、なるだけ好意的に解釈すると、再生機器の個人輸入まで規制されてはおらず、別の地域の再生機器を(ある意味重複して)買うことは可能で、他の機器でもよくある電源等の見直しだけでそれが動くから、再生を禁じているとまでは言えないのかもしれない。

しかし、他の機器と違って、再生をできなくしている行為こそが明らかな意思に基づき、その迂回者は、商品購入者の愛好コミュニティにおいて、先取的応援者としての優越的地位ではなく、対立的逸脱者として劣後することをはじめから余儀なくされる。

また、別の地域のものも再生できるというのが「機能」として認められ、同じ売場でその市場価値に基づき販売されるという形にならないのは、再生機器メーカーが上で書いた「長期的な関係に基づき商品の卸売り先を絞る」という戦略をとっているからに違いない。一歩譲ってそれは「差別」にならないとしても、とくに法的根拠がないはずなのに、すべての企業がそれに参加しているのは、独占禁止法上の疑いがあるところである。

私自身は、意思主義の日本法下であれば行為に規制の「明らかな意思」がある時点で、知識のある者にはその迂回手段が残されていても、海外商品流入流出規制などのための「リージョンコード」を設ける商売方法は憲法違反としていくべきだと考えている。


そういう主張を私は持っているが、ここではとりあえずそれは脇において「海外ダウンロード」の話に移ろう。

ダウンロードしたソフトを容易にコピーして使用できるようであれば、商売として成り立ちにくい。ゲーム機 X に限らず「ダウンロード購入」では DRM が用いられることが多い。

ただし、再生機器に選択の幅のある音楽では、消費者の選択の結果ということになるかと思うが、強い DRM を付けるのは世界的には難しくなった。

一方、ゲーム機の世界ではパッケージ販売のころから、パッケージが「再生」できるゲーム機は独占的に作られるモデルが定着しており、他社がそれより安く提供できない(はずの)ハードウェアで、ネット常時接続を前提とし、ネットとハードウェアを組み合わせた強力な DRM をかけられるという方向に進んでいるように見える。まるで、ゲームという「拘束時間」の長い非生産的娯楽を、製造者が「掛け金」を受け取っていない者に誤って配布するのを恐れるかのように。


「海外ダウンロード」に「リージョンコード」のようなものをかけたい場合、方法はいくつかある。

一つには、ダウンロードしたソフトにリージョンコードを付す方法で、DRM で管理する一つの属性がそれであるといえるだろう。もう一つは、ダウンロード購入を決定する段階で、ネットの状況(IP アドレス等)から購入者の国・地域を割り出し、それに応じて禁止するという方法である。それに似た方法だが、購入通貨の制限も同様の効果を持ちうる。

本件のゲーム機 X の場合、パッケージ購入についてはリージョンコードが機能していたが、ダウンロード購入については、当初は、最後の「購入通貨の制限」、つまり、プリペイドカードの額面が国ごとに違うという制限のみで、海外ダウンロードを禁止する……要するにほぼ禁じていない状況だった。

しかし、現在は、購入決定の段階でのチェックはなされているし、本件のトラブルを見る限りダウンロード購入についてもリージョンコードが機能しているようにも見える。ただし、本件の解決を見る限り、正常にダウンロードしたソフトにはリージョンコードが機能していない。解決前のように「国外」に出るもののみダウンロードが最後で失敗したのは、途中でリージョンコードを付けるような準備はできていることを示威しているのかもしれない。


これを「法の下の平等」に照らして、相手国でも同様の憲法的規範があるとして、考えてみる。「海外ダウンロード購入」が上の DVD のパッケージの輸出入と大きく違うのは、その基礎にネットを使った DRM があることにある。

つまり、パッケージ購入では、リージョンコードが機能していなければならないという意思に対して迂回方法が存在していたが、ネットに接続することが前提のサービスの場合、ネットを通じてリージョンコードの迂回がなされていないかチェックでき、なされていればネットから即時に使用不可にしても、その意思行為が合法だったというなら、問題がないはずである。

要するに、再生機器たるゲーム機を国内用と海外用に二台所持することを、いつでも無意味にできる。国外に出た者は、ある著作物について、言語が違うとか、保証がないとか、特別な変換器が必要であるというのを越えて、その使用を禁じる意思に服従するしかないところまで「海外ダウンロード購入」は可能性を持つ。ここに致れば経済上の「法の下の平等」は意味をなさなくなる。

国際法または自然法上の人権として、同意なくネットを通じてプログラムやデータを(たとえ非合法なものであっても)いきなり使用不能にするようなことをなしてはならないし、通信を拒絶されてもある程度動くように保証される……といった権利がぜひ確立されるべきだと私は想っているが、ソフトウェアに財産権を主張するのも難しいのが日本の現状である。


本件の解決を見るかぎり、今のところ確かに「抜け道」は存在した。しかし、それも「法の下の平等」の変形である税の平等の論理から言えば、大変なことになっていると言わざるを得ない。

通関税を取るのは国家の専権のようなもので、それを実力を持って私的団体が徴収するのは、山賊・海賊行為に近い。

有料の VPN による解決は、海外の「出島」を PC や LAN 内に作り、そこにゲーム機を「着岸」させることで、海外でのダウンロードだったとするという様式とみなせるだろう。国家などから、実力をもって「出島」の安全を保つための料金を徴収をしていると見たてれば、ある種の「海賊行為」の類型とみなすのがかなり適当なように私は考える。

ある人間からは税を徴収し、ある人間からは税を徴収しない、または、徴収額に差を付けたり国家と戝に二度払いするような者が出てくる……といったようなことを禁じるのが「法の下の平等」の大事な一側面で、そこに国家が機能できないというのは本来なら主権の問題になるというのが私の理解である。

リージョンコードは私的企業による制限で、それを回避する VPN も私的企業のサービスに過ぎない。しかし、取引は国境を越え、強い DRM は必然的に国家の監視を難しくしているが、誰も監視できないのでは決してなく、国民はそれが (自国でも相手国でも)国内取引であれば必要のないものを海外取引のためだけに支払うことになるのを納得させられている。

私はリージョンコードという仕組みがそもそもの癌だと考えたい。それに対抗するには、リージョンを自力で衛ることをコストと認めるのはおかしいというとことから論を持っていってはどうだろう。

民主的国家において、「自衛するもの」はむしろ「武装解除」していけるよう導くのが国家の論理で、国境での自衛のコストがかかっているから、税負担を減らすという論理は通常出てきにくい。まず、民主的国家上でのリージョンコードの自衛のコストを区別させ、国境に関する「争い」が国家意思ではないことを明確にするために、それを税法上損金と認めないような措置がまず必要ではないだろうか?

もし、どうしても国境で価格差を作りたいというのであれば、正直に通関税を導入すべきで、それができないからと抜け道を空けていては、「不正」「差別」がはびこるばかりになるだろう。


ただ、ことここに致ると、私はもう一歩、状況を進めるのに加担したくなる。

本件の解決には、私はクレジットカードで支払いをすることになったが、元はプリペイドカードだけで「海外ダウンロード購入」はできたのだから、クレジットカードを使えない者で、本件と同じ問題にあって、解決ができない者もいるかもしれない。「法の下の平等」を重視するなら、私の解決で終りとせず、ここへの救済を、少なくとも、検討するぐらいはしたい。

ゲーム機 X には USB メモリへのゲームの「コピー」の機能がある。ところが、この「コピー」機能、これを使って他者のところに持って行って他者がゲームをできるようになるわけではない。特定の ID に紐づけされたゲームをやりたいというのであれば、ID だけ持っていって再ダウンロードをすればよかったので、(私にとっては)意味不明の機能だった。

しかし、本件の再ダウンロードのかわりにこの「コピー」が使えるとすれば、クレジットカードがない者への救済としての意味を見出せる。

ゲームのライセンスを持つ者で、VPN 接続ができる者、または、全削除を行わなかった者が、USB メモリに「コピー」し、全削除を行ってしまった同じライセンスを持つ友人に「コピー」をすればゲームが復活できればよい。または、私のように近くに同じゲーム機を持った友人のない者は、コミュニティ誌に「買います」で、ライセンスがない者は実行できない「コピー」を買えるようにしても良いだろう。

現在でもすでにできるのかもしれないが、私は試せないのでわからない。MJ 社のサポートに尋ねたが、「できる」とも「できない」ともお返事をいただけなかった。

これをサポートが堂々と、ホームページに解決策として載せることができるようになるためには、この USB メモリの中では「外国」になっている、ある種の「飛び地」であると解釈できれば良いのではないだろうか。

「USB メモリ」のデバイス自体にセキュリティ通信機能を付加し、PC 等(含むゲーム機)がネットにつながっていなくても、PC 等のコントロール下には入らず、むしろ、PC 等が「USB メモリ」に一部コントロールされることを余儀なくされ、ひとたび、PC 等がネットにつながれば、PC 等の所有者には秘匿された内容を海外と送受信できるようになるかもしれない。

そういった「飛び地」に対して「コピー」等を行うとき、それが海外のものであるという特徴を使って保証等の責任を回避したいならば、それが「法の下の平等」に服すようそこからの「コピー」も「海外ダウンロード」と同等のものとして扱わねばならない……などとできないだろうか。

例えば、ゲーム機が「USB メモリ」にゲームを移動して本体にゲームがなくなった状態であっても、その管理が国内に続くものであるならば、それにかかる税などの責任を逃れることができないが、本体にあるものが海外のもので手が出せないから責任は取れない、すなわち、内国税を払えないというときに、その移動を元に戻すときに国内の管理と違うといってはじけるようならば、それはそもそも「海外のもので手が出せない」のが嘘であることの証明であるとみなす……などとするのである。

今の時代、省資源をにらんだ人間活動のバーチャル化という観点も大事で、海外に直接行かなくても、PC 等の内でバーチャルにはそこに訪れていれば「出島」「飛び地」としてその法制(税制)下にあるとみなすというような方向を模索するのも必要なことなのかもしれない。



法的検討:意思の理論と外観法理に基づく消費者保護または反知性主義


次に、私が対抗して取った法に対して逸脱的ともいえる行為を擁護しよう。


私は「市民的不服従」という言葉を通常とはやや違う意味で使うことが多いかもしれない。私にとって「市民的不服従」は憲法に根拠法を持つ。

憲法第12条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。


通常、「公共の福祉」が問題とされる条文だが、私は、この中で英文 vigilance の訳語として登場した「不断の努力」という言葉に積極的意義を見出す。

「不断の努力によって…保持しなければならない」とは単に行政を監視するというのではなく、政治の限界として常にある法令・秩序の不充分さを、自らの市民的信念で補い、また、それを改めるための行動ないし改めることが必要なことを示すための行動を起こす責務があることまで述べていると私は捉える。

市民的信念とは、同じ理念を共有する者が、その理念に殉ずることを求め、自らも受け容れるべきだとしたとき立ち現れる信念とでもできるだろうが、確かに普通の個人がその根拠として提示できるものは、ときに薄弱で論理性・現実性に欠けたものになるかもしれない。

だから信念があるなら、憲法的な自由・人権に立脚して、「濫用」に致るのに注意しながら、個別法令・私的規則に書かれたことを敢えて越えることもなさねばならない。もちろん、市民には他に仕事があるものだから、運動も限られようから、「不断」に「努力」し続けるぐらいはやっておく必要がある。……と私は解釈する。

当然、市民的「不服従」である以上、法を越える、つまり、法を破る部分があるのだから、刑罰の対象となることは覚悟すべきだが、日本の裁判所は違憲審査まで踏み込めるとされているので、そこに一縷の希望を託すのである。

本件は海外取引にからむもので、日本国憲法の後ろ立てが有効でない面もあるかもしれないが、「不服従」する私は日本におり、何より、「市民的不服従」という概念は広く民主主義を信奉する市民・国家に普遍的な価値を持つと信じたい。


一方、私が「市民的不服従」を振り上げ争う相手は「悪」なのかというと、実はそう考えず私はある種の必要性さえ感じることがある。この感覚を言葉にすると、やや誤解を招きやすい不適切な表現かもしれないが、「反知性主義」あたりになろう。

私の言葉としての「反知性主義」は、知識を与え啓蒙することで市民を作るのではなく、専門家が敢えて問題を残すことで、消費者がシステムの「操作的外観」からその示唆を学び、まったく知らない何者かが専門を再構築することまで許すことをよしとするものである。閉じていきがちな専門家集団に対する、教えられた者でない者の僭上[せんしょう]に期待を残すのである。その帰結として、知識を必要としない使っていればわかるシステムを理想とする。

もちろん、知識があることが不利になるべきではないが、知識があるところに責任を認めたいというのは消費者が社会に求める当然の理であろう。だまされることに責任がなく、知識がなくてもだまされない社会が良いならば、なぜ知識をもつことが良いことなのだろう?……それは社会としてだまされないためには個人が知識をもちあう必要があるからである。

この「反知性主義」は英米法の約因論と親和性があると思う。大陸法の意思表示論の場合は、契約に書いてあった・そう言ったという時点で、消費者に伝わったとしがちであろう。しかし、「操作的外観」で伝えることまで要求するというとき、それは意思があるというだけでは不十分だからという認識があるからで、ちょうどそれは「約因(consideration)」を求めるのと同じ作用を与えると私は考える。

「法の下の平等」のところで「試験による有資格者のみに試供的に販売する」のは是認されるだろうと書いたが、それと「反知性主義」は、試験で知識をみるよりも、後者は失敗の可能性を認めて学ぶ経験を重視するという点で、対極にある考え方であると言える。約因論に立つと、意思があっても約因がないばかりに「失敗」が起こることが当然ある。意思表示論にも外観法理があるが、なかなか「失敗」まで求めるには致らない。


「市民的不服従」によってなす危険負担は言わば「マイナスの約因」で、消費者が通常の契約からはずれた危険を受け容れたことがわかる操作的外観をつくる。

私が必要だとして、外観上は M 社の意図にない「海外ダウンロード」を行ったのは私の言葉でいうところの「市民的不服従」にあたろう。私にとって必要なことに対し、そのとき海外の住所という虚偽の情報を書かざるを得なくさせた (心理留保を強制させた)ことは典型的な差別の形態だが、しかし、それは私という消費者が危険負担をなそうとしていることの操作的外観を作ったとは言えるだろう。

逆に言えば、日本の住所の登録で済んでいたのなら、または、普通に英語を使うだけで済んでいたのなら、後日通告なくシステムを換え再ダウンロードができなくなった時点で、すぐに錯誤が成り立ち、消費者に保証する必要があると私は主張したかもしれない。そして、自分はそれまでの行為を危険とすら思ってなかったのだから、結果として認容できた VPN という別の危険負担の方法を試すことすらしなかったかもしれない。


プリペイドカードを使った海外ダウンロード方法を紹介するサイトがあって、その情報を私も参考にしたが、私は、上記のようにネットを通じたリージョンコード、地域制限の危険を重々承知していたので、そのサイトに書かれたままの「虚偽の住所」とは別の住所を使い、そのサイト所有者だけが「虚偽の住所」を書かせた責任を感じずに済むよう心掛けた。

しかし、多くの消費者はとくにそういう危険までは感じず、「市民的不服従」の義務感もなく、海外ダウンロードを行ったことだろう。

先のサイト所有者や私のような「リーディングな消費者」は、「フォロー消費者」というべき者があとに続けるかどうかも見定めようとしてリスクを承知で行動し、ある種の名声を得るために冒険を楽しんでいる面があると見ることもできる。そういったリーディングな消費者は、仮にリージョンコードにどこかで引っかかったとしても、そのコストを「勉強料」「冒険料」として払う覚悟があると見ていいと私は思う。

議論を先にもう一歩進めて言えば、仮にリージョンコードに引っかかるなどして財が破壊されたとしても、それによって得た「名声」の原資があるならそういった人間の「経営」にとってはプラスであり、「原状回復」がなされるのは、むしろ、せっかくの危険負担を意味の無いものにする行為とさえなる。

もし、市民的不服従が安定して利益を生み出しえるなら、「不服従」はすぐにマジョリティ(社会的多数)になり通常の民主主義的手続きが有効に機能すると期待できる。また、利益もないのにリスクだけ負う者を、隷属を否定する社会が求めるわけにもいかない。マジョリティが利益と思わない「名声」のようなものに価値を見出しリスクをとる者がいるからこそ、市民的不服従が民主主義下でも意義を持つのである。


一方、リーディングな消費者の後につづいて、その記述等を参考に購入したフォロー消費者については、そこまでのコストを払うつもりがないと見るべきである。当然、リーディングな消費者も、フォロー消費者の損失まで責任を持つ気はないだろう。

リーディングな消費者に騙すつもりはもちろんなくても、その誘いに引っかかったことになるフォロー消費者については、リージョンコードを突然変えるなどしたメーカーは、フォロー消費者が取引を通常のものと同じとみなしたことを「錯誤」と認め、使ったポイント等を返還するよう定めるべきだ。

おそらく、そういった姿勢は消費者に安心感を与えてその後の購入を促し、海外のメーカーにとっても利益になるはずである。問題があるとすれば、日本側で販売権を獲得した者の利益を損うといった点だろう。

しかし、この場合、使ったポイント等の返還ではなく、日本側で販売権を持つ者による「原状回復」を選択肢として加えることを特別に認めるといった対応もできるはずだ。ポイント等の返還の替わりに、または、選択肢として、日本での同じソフトのダウンロード権を与えるのである。消費者にしてみれば、国内でサポートを受けられるようになるのだから、ポイント等の返還よりもそのほうが有利とすべきだろう。

そういった対応も、まず「錯誤による返還」が権利として認められてなければありえない。産業保護の観点も重要だろうが、不公正を見過ごすことで逆に産業の可能性をつぶしている例も確実にあるにちがいない。


ここで、ポイント返還の手順について注意を促す必要があろう。錯誤等を認めて商品に支払ったポイントを返還するという以上、場合によっては商品が未使用の状態であることを確かめたり、「返品」処理(すなわちコピーの削除)を行ったりすることが求められることがあるのは当然である。

それらをネット越しに行えるとは、上で「ネットを通じてプログラムやデータをいきなり使用不能にするようなことをなしてはならない」と書いたことに反する結果となりかねない。つまり、普通の PC であれば、商品の未使用のチェックができるということは、ソフトやデータの利用の監視が常時行われていることを意味するし、「返品」処理を確実に行うには、コピーの監視が行われ、ネットからコピー先の削除(使用不能化)もできねならないことを意味する。

しかし、ゲーム機 X の場合、強い DRM の管理があることから、普通の PC であればできないような管理方法もとることができる。もちろん、ネットから直接使用不能にすることには、あいかわらず私は反対するが、一方で、消費者側が、同意のもとに協力して特定のプログラムを実行し、未使用・未コピー・データ削除済であることを証明し、ネットからはライセンス部分のみ未購入の状態に戻すといったこともできるはずで、それは支持したい。

このあたりどういう場合に何がよくて何がいけないかというのがデリケートなので、まず法令化しようとしても難しいと思う。私の上に挙げた方法だとネットから直接使用不能にするより確かにだいぶ手順が増えるが、ここは「反知性主義」に立って、専門家的(職業的)良心で、妥当な実装例・判例・和解例を積み上げていっていただきたい。


さて、ここまでは、ある意味、本件より以前からあった一般的な問題で、中核となる検討の前振りのようなものである。ここから先は、私が出会った具体的なトラブルについての検討になる。

本件のトラブルの核と私が考えるのは次の部分である。

ゲーム拡張の導入に不具合があり、使用できなかった。

不具合に対する「標準的な手順」を行ったところ、その手順の前への「原状回復」も不能となった。

ゲーム拡張の購入に錯誤を主張し、ポイント返還を求めたが認められなかった。


意図してこのようなことがなされたという認識は私にはないが、客観的には「ソーシャルハック」を用い「ネットからの使用不能化」を行った事例と見ることができる。「ソーシャルハック」とは、社会規範等も一つのプログラムとみなし、プログラムの裏技を使うかのように、社会規範の本来意図されない作用を生み出すことで何事かをなす技巧のことである。

ちょうど最近、日本で「ウィルス作成罪」ができたが、ウィルスが、コンピュータプログラムだけでなくソーシャルハックを含んで構成されていた場合、どうなるのかという論点も視野に入ってくる。


M 社は海外からの再ダウンロードができないことを知っていたはずで、もし、海外からダウンロード購入した人間がゲーム拡張の導入に失敗して、ゲームの削除まで行い、その後使用不能になるのは当然の報いだと考えていたならば、ゲームの破壊について未必の故意があり、さらに、正常に動作すると騙して結果として「ウィルス」的なゲーム拡張を買わせたことになる。……これがもっとも厳しい観方だろう。

ただし、再ダウンロードができなくなったことにつき告知をしていたとすればどうだろう。私は日本で通常のゲーム機 X の使い方をしていて、そのような告知に出会わなかったと断言するが、しかし、私はカナダのホテルの住所を登録して使っていた。もしかすると、カナダでは郵送で何らかの告知があったかもしれない。

もしそうならゲームの破壊に「未必の故意」まで認めるのは難しいだろう。その場合でも、こちらがその告知を読んでない可能性もあるし、以前購入できたものまで再ダウンロードができなくなるとは思ってない可能性もある。こちらが再ダウンロードできると判断していたことに重大な過失まではあるまい。こちらのゲーム拡張購入については錯誤は成立するはずである。

ゲーム拡張 AE 自体は通常は正常に動作するものである。解決から見ると事実とは異なるが、仮に、海外からゲーム S をダウンロード購入した場合は、日本のゲーム拡張 AE は正常に動作しないものだとしても、ゲーム S の削除までは意図していないはずである。結果としてゲーム S を削除したことについては、メーカー側にゲーム拡張の「機能」の錯誤があったというべきだ。

販売者・購入者ともに錯誤があり、購入者には追認の意思はない。しかし、販売者は、取引を無効とせず、販売者はポイントを得て利益があるが、購入者は使用できないばかりか破壊されたものまであるという状態を放置することを宣言した。そう私は解釈した。


この時点で、この取引は敵対的とは言わないまでも対立的なものに移行した。それは例えば、M 社の知らないところで合理的な範囲で原状回復を行うという場合に必要な賠償額(例えばアカウント主である私がカナダに直接渡行してダウンロードする費用)を請求しても、恐喝・脅迫の罪に問われないという状態と私は考える。

なぜなら、同じような対立的立場に立たされた者がいたとすると、M 社が自由に原状回復を行って対立がいつでも解消されるなら、M 社は選択的に手ごわい対立のみを解消することで、対立者の連帯を阻害することができるからである。

M 社の「規則通り」という優越的な宣言によって汚された名誉のようなものを回復するためには、必要な市民の活動である以上、裁判費用やその間に給与の立て替えを求めないにしろ、「彼らの勝手なルール」が自分達の所有権を回復するのにさえ課している余計な費用を彼らに払わせ、その非が明らかにならねばならない……という観方もできよう。

(このような対立においてさらに不当な妨害があれば、M 社は「敵対」行為までしたと見なすべきで、そうなれば、裁判費用等も請求すべきなのだろう。今度は、ゲームの破壊からの回復のためには、ゲームの販売ライセンスの譲渡が必要で、そのゲームの販売ライセンスを他者が取得する権利を得ることができると主張し、その権利が得られるかもしれないという「オプション」を何者かに売る。その代金が、得られるべき旅行代などと釣り合うと便宜的にすればよい。……などという妄想もしていた。)

ただし、私は MJ 社と MC 社の考えが異なる可能性も考慮し、MC 社のみで解決できる方法も提案した。しかし、それは拒絶されるばかりか、悪びれることもなく、再ダウンロードを禁じたのは意思によるものだと断定するようなメールが来た。そこで MC 社のみによる解決を私は拒絶し、M 社は、私と MJ 社の解決によらねばその地位が不安定になるように置いた。……と私は強がって思うことにした。


ただ、思い返すに、対立的なのはこちらのポジションの取り方からすればはじめからだと言えるかもしれない。ポリシーとしてダウンロード購入を重視していたと書いたが、ぶっちゃけて書けば、こういうポリシーなら、P2P ファイル共有などでの「海戝版」のダウンロードを、パッケージの購入さえする意思があったなら、擁護できるのではないかという願望が私にあるからだ。

一人の IT 関係者として「違法コピー」を許せない感情は大いに理解するが、 DRM などでソフトウェアやネットの自由が奪われること、旧型のゲーム機が作られなくなりエミュレータも使えなくされることへの危機感が私にはあり、 P2P ファイル共有と並んで、DRM などの「管理」の破壊も、何とか条件を付けて合法化できる道筋はないかとときどき思案している。

そこから本件を見るに、今回は、DRM を使っている側が、消費者の「管理幻想」を破壊した事例なのかなと想う。

消費者には十分技術がないことが多いので、誰かの力を使って「管理」が破壊されたものを、そういう管理があったことや P2P ファイル共有が法律で規制されてることを知らないふりして、手に入れて使うのが建前である。そしてパッケージという「権利」さえあれば、どう手に入れたかに関係なくハードディスクインストールの利益を享受していいと考えているものだ。

ダウンロード購入の利点は、一台のハードディスクに複数のソフトがインストールされることにあり、上で少し書いたメディアの取り換えによりそれを損傷する心配がないほかに、特定のソフトを重視する必要のない操作感すなわち「管理幻想」をもたらすのがよいという観方も不可能ではないだろう。

本件は、消費者の意思には本来ない手順を消費者の力で実行させその「管理幻想」を破壊したことにつき、メーカー側は錯誤でないかどうかも曖眛にしながら利益を得た事例と私は無理に解釈してしまう。


本件解決直前までは、確かに、サポートの対応こそとても誠実であったが、結果としてみると、こちらの持ち出しだけに終って、向こうが実質的に働いた形跡は私の側には残っていなかった。ただ、直上のように、これまで消費者側がなしたことを思えば、今回は、一方的に向こうが利益を得てもいいのかなと、実は、かなり早くから考えていた。

ところが解決に致ってみると、M 社側からのサービスはほぼ正常に受け取れ、他社へのわずかな持ち出しで終ったことに、むしろ、落胆というか少しひょうし抜けしたというのが本件解決の正直な感想である。


関連

民法(1)総則 第4版』(1996年, 有斐閣)。木下毅『英米契約法の理論 第2版』(1985年、東京大学出版会)。法学の基礎的な考え方については、当然いろいろなものを参考にしていてそこに負うところは大きい。左記はその代表として挙げた。ただし、本稿では、私の独自の主張というか素人考えの部分が多分にあり、そういった「独創」の責をこれら参考書に求めるのは筋違いである。

「日銀カード(仮称)」構想》。そもそもネットで購入するのに名前が必要なのはやめて欲しいというのは、私はずっと以前から書いてきた。マネーロンダリング等の問題があるというなら、完全匿名ではないような方法(Privacy Provider API)も提案してきた。もちろん、これらも素人考えなので十全なものではないだろうが。

ゲーム機 X のプリペイドカードを使った海外ダウンロードの方法の紹介は、例えば→《Xbox360 カナダタグの作り方(日本の1400MSPが使えます) ついでに「Perfect Dark」(日本未配信)買ってみた》。VPN を使った方法の紹介は例えば→《イカむす.me:Xbox360のVPN接続による海外コンテンツダウンロード》。

経済産業省:国境を越える電子商取引の環境整備》。もちろん、国の動きはある。

最近の海外著作権法関連のブログ記事では、例えば《米上院議員、PROTECT IP法は言論の自由、イノベーションと米国経済の脅威であるとして反対を表明:P2Pとかその辺のお話》では「インターネットは21世紀の大洋航路」という発言を紹介している。《第251回:ウィキリークスで公開された模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)関連アメリカ公電:無名の一知財政策ウォッチャーの独言》の ACTA が対象とするような「海戝」は、ヤクザな印象が強かった。私の見立てでは、今では VPN が代表するよりスマートなものへと変質しているように思う。

特に P2P ファイル共有を許した場合に関心を持ち、将来、著作権絡みをどうするかについて、私は以前からいろいろ考察している。本ブログの《知的財産カテゴリ》の記事がそうだし、読み辛いと思うが《ひとこと》でも何度も言及がある(例えば《間接侵害の三類型》)。その部分の「主著」としての記事は現在準備中だが、ときどき書いては中断してずいぶん(3年以上)時間がたっている。
更新: 2011-07-07--2011-07-17
初公開: 2011年07月17日 05:37:37
最新版: 2011年07月18日 00:52:46

2011-07-17 05:37:28 (JST) in 租税制度 知的財産 国際法 | | コメント (5) | トラックバック (1)

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» JRF の私見:税・経済・法:海外ダウンロード購入にまつわる私のトラブルに関する法的検討 (この記事)

» こんばんわ from 朝方に・・・

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受信: 2011-07-30 12:58:50 (JST)

コメント

興味深い考察ですね。二度読みして私自身もいろいろリージョン規制について考えてみましたが、一つの疑問があります。

私の見解では「日本に居住している日本人が、リージョン規制のかかっているデジタルコンテンツを購入する行為」の参照法律(権利の保護)は日本国内法ではなくアメリカの法律の適用を受けるのではないか?ということです。

今回の事例の場合はUS/CAアカウントを作成した段階で、アメリカの法律下において契約する旨のEULAが提示されており、すべての紛争解決はおそらくワシントン州の連邦裁判所なりに設定されているはずですが、日本アカウントはMS日本支社により日本国内法によって利用許諾契約が提示されており、その管轄は東京の裁判所になっていると思います。

ですから、そもそも別々の契約であり、その契約をまたいでサービスの利用が出来る旨の特約が付いていないのであれば、今回のようにUSでスト4を購入して、日本でAEを購入したものが適用できない、というのは私契約上のお話としては正しいと思います。

極論するとアメリカのトヨタ・アメリカで購入した車を日本のトヨタに持ち込んでアフターパーツを取り付けろ、と要求していることと同意義ではないでしょうか。
物理的には可能でしょうけれども、製造と販売・サポートが分離している近代的な事業会社ではままある話ですが、今回のお話も同様にHWの製造元であるマイクロソフトとの契約と、そのHWにおいて提供されるゲームを提供するマイクロソフトとの契約、さらに言えばそのサービスを何処の国において受けるのかという契約は、似ていますが全部別のものではないでしょうか。

ただ、気分的な問題としては同じHWで同じソフトが動くのに、無意味なリージョン規制でこちらの利便性が著しく制限されているという現状については大いなる不満があります。
しかし一方で、文中で指摘されているように仮に日本においてわいせつ物等と認定されうるものが販売されてしまった場合それによって罰せられるのはMSですし、さらに言えば宗教的なものが絡めば国家を敵にまわすことになりかねません。

仮に「このサービスはアメリカの国内法によって提供されるものであるが、US国外の居住者がこの契約によって得られるサービスについての適法判断は現地政府に委ねられ、その責任は利用者が負うものとする」という一文があれば事足りますけどね。というかMSやEAとかのEULAには同種の文言がはっきり記載されていますので、現状でもそうなっているんですが。

投稿: 通りすがり | 2011-07-17 16:34:23 (JST)

「気分的な問題」ではなく、やはり(憲)法的問題としていかねばならない……と思っているのですが、現実的には EULA (End User License Agreement) を基礎として「契約」がどうなっているかという話になっていくのはおっしゃる通りで、Microsoft ぐらいの大手になれば、そのあたり著しく消費者に不利な(または有利な)契約を書いてしまう失態もないでしょう。

実際のところ私も、カナダ支社にはカナダでダウンロードしたゲーム S の原状回復の「お願い」までしかしませんでしたし、日本支社には日本でダウンロードしたゲーム拡張 AE の取引を無効にして欲しいとしか主張していません。つまり、ゲーム S が原状回復できなくてもゲーム拡張のポイント返還がなされれば良いと主張していたわけです。

言ってみれば、日本トヨタから買った車の衝突回避システムの故障がネットワーク機能の障害でアメリカで起こったときに、どこが原因かわからないので、日本トヨタに直せないかシグナルを送るのは問題ないと思います。故障があったため使う予定だったのに使えなかったトヨタ・アメリカの交換パーツについては、トヨタ・アメリカに返品に応じて欲しいと述べているようなものです。ただし、そういう穏やかな対応は、「故障」が意図したものでない場合のみですよ…返品に応じないということはトヨタ全体として意図を認めたことになるかもしれませんよ…ということです。

(でも、車みたいな高価なものだと「原状回復を諦める」というオプションは取りにくいですよね。逆に本件では、すでにシステムが整っていなければ「ポイント返還」が Microsoft にとってとても高価なものだった可能性はあります。)

ただ、こういった対応は私が「リーディングな消費者」だからという面が強いです。普通の消費者が個人輸入をバンバンやっている…例えば、カナダからアメリカに行って買い物するようにバンバン輸入が行われている…という状況だと、もう少し消費者保護を前面に出すべきでしょうね。

で、その「消費者保護」の結果がリージョンコードやレーティングというパターナリズムなのだから泣きたくなるのですが。

上の DRM の用語解説とちょっと似ていますが、イニシエーションつまり儀式的なものにコンピュータプログラムの厳密さを持って来る形に現状なってしまっているわけで、一方で、錯誤や相続といった市民法的基本はプログラム化されてない。プログラマがプログラムしやすい象徴哲学・グノーシス主義にはまっていると言われてもしかたないような気がします。

上の本文にもありますが、不公正が逆に産業の可能性を縮めることがあるわけで、市民法的な消費者保護が成り立っていれば、普通の人がトラブルに普通の労力を払うだけでよくなり、私のようなけったいな者が難クセを付けることもなく、メーカーが対策にコストをかけるのが合理的になるので、メーカーが知らない間に市民の間で解決……例えば、「USB メモリ」からのコピーで救済が終るようなことが増え、問題が大きくなることも減ることでしょう。

なんか、私のコメントは途中で本件とあまりにも関係のないグチになってしまった気もしますが、「通りすがり」様のおかげで、少し考察を進められたように思います。

コメントありがとうございました。

投稿: JRF | 2011-07-17 23:41:50 (JST)

更新:気づいた typo を直したのと、「客観的事実」の節に「限定パッケージの予約はキャンセルし」た旨の段落を追加した。

投稿: JRF | 2011-07-18 00:55:35 (JST)

Hack again?!

匿名投稿 | 2011-07-28 21:19:25 (JST)

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

投稿: 株の買い方 | 2011-11-13 12:46:30 (JST)

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