cocolog:85220789
Raphael Patai 著『The Hebrew Goddess』を読んだ。アシェラやアシュタルテーに興味があったがそこは期待外れで、この本はむしろユダヤ教の特定の概念について詳しかった。ただ、「悪魔」リリスに関しての説明は詳しく参考になった。 (JRF 4093)
JRF 2016年5月23日 (月)
いちいち辞書を引いてゆっくり読んでいったのだが、文法が難しかったり、長い文の中にわからない単語がポツポツ出てきて混乱したりして、「読んだ」とは言え、理解できなかった部分も多い。今の時代、私の「学習辞書」に載ってない単語は Nintendo 3DS のウェブブラウザでググったりできて、大変助かったが、文法がうまくつかめないのはいかんともしがたかった。
JRF2016/5/238653
『The Hebrew Goddess』(Raphael Patai 著, Wayne, 1967, 1990 3rd enlarged edition)
https://www.amazon.co.jp/dp/B00KB4E21I
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JRF2016/5/232160
Merlin Stone の前書きに顕著だが、この本は、フェミニズムにからめて話題になっていたようだ。
JRF2016/5/235087
私はフェミニズムに関係なく、聖書にもフェニキア史にも関心があるという文脈からアシェラ(Asherah)やアシュタルテー(Astarte-Anath)に興味を持って読んだのだが、それらは史料が少ないためかあまり目新しい知識はなく、そこでは著者も内容が薄いのを意識してか、うっすらフェニミズム風の味付けにしているのかなと思った。
JRF2016/5/236999
が、それ以降の大部分は、ユダヤ教における「神の現れ」、シェキナ(The Shekhina)が大きくクローズアップされ、そのおもしろさに引っ張られて読んだ。シェキナがある種「女神」の性格を持っていたという論調であるが、むしろユダヤ神秘主義=カバラ的な概念の説明が詳しく、興味深かった。
JRF2016/5/233824
ユダヤ教のシェキナの説明のあとに読む「悪魔」リリス(Lilith)についての説明は読みごたえがあった。リリスの名は、ゲーム(『女神転生』など)を通じて親しみがあった。
JRF2016/5/235507
「安息日」(The Sabath)も女神のように扱われてきたらしい。ユダヤ教の学者は、安息日の前の晩に妻とセックスするのが義務だったことなどが、ゴシップ風に興味をひくことを意識してか、述べられる。
JRF2016/5/233718
……。
ヘブライ人の宗教、つまりユダヤ教の神は唯一神だが、旧約聖書を読めばわかるように、イスラエル王国・ユダ王国の時代は、アシェラ(Asherah)などの女神崇拝なども排除できなかった。Patai は史料などから、アシェラはヤハウェの配偶神で(も)あったと結論付けているようだ。
JRF2016/5/237914
聖書を引きながら、アシェラが(ときどき復活しながら)ゆっくり排除されていく様が論証される。
JRF2016/5/232565
エレミア書44章などで「天の女王」として参照されるアナト(Anath)=アシュタルテー(Astarte)は、聖書ではアシェラとしばしば混同されるが、むしろ中東ではイシュタル(Ishtar)やイナンナ(Inanna)やアナヒタ(Anahita)と同一視される女神で、四つの基礎的な性質、すなわち、処女性(chastity)、乱交性(promiscuity)、母性(motherliness)、戦争好き(bloodthirstiness)を同時にかねそろえることで知られる。
JRF2016/5/235337
ユダヤ神秘主義であるカバラの書、ゾーハル(Zohar)では、「神の現れ」であるシェキナ(The Shekhina)が人格化され、The Matronit とも呼ばれるようになったが、その「女神」はアナトと同じ、chastity, promiscuity, motherliness, bloodthirstiness を備えているそうだ。
JRF2016/5/237751
女性名詞である The Shekhina という位格は男性名詞である The King という位格と対になって考えられるが、エルサレムの神殿破壊のおりに、The Shekhina と The King は離ればなれになってしまって、The King は The Shekhina のかわりに Lilith とまじわるようになってしまったという。
そして、今もユダヤ教では一般に(神秘主義的背景を忘れて)、The King たる "the Holy One, blessed be He" と "His Shekhina" の単一化(Yihudim)を取り戻すことが祈りとしてささげられる。
JRF2016/5/235206
……。
心に引っ掛かった部分を、少しだけ、抜き書きする。
JRF2016/5/233782
……。
The Shekhina は「神の現れ」であるが、モーセが天幕で出会っていたのも The Shekhina である。それは、何か霊的なもの…天上的な何かか…または、人の心の中にしかないもの…のように考えてしまうことがあるかもしれないが、そのどちらでもないという。
JRF2016/5/235479
>A simile: Like unto a cave on the seashore: when the waves rise, it fills with water, yet the sea is in no way diminished. Thus it was with the Tent of Meeting: it became filled with the glory of the Shekhina, but the world was in no way diminished.<(p.100)
JRF2016/5/239313
ユダヤ人は、The Shekhina が一つの神として扱われるのを嫌う。ユダヤ教の神は唯一神であるからだ。ただ、Patai は、それがほとんど女神として扱われてきたことを論証していく。
JRF2016/5/234430
……。
ユダヤのグノーシス主義(Jewish Gnostics)では知恵(Wisdom)が重要な位置を占める。
JRF2016/5/230479
イブがサタンと関係を持ったため産まれたのがカインとアベルだという。
JRF2016/5/236101
>Satan, in the shape of the serpent, had intercourse with Eve who there upon bore Cain and Abel. Thus sexuality became the original sin. After the Fall, the sons of Seth fought the sons of Cain. When the daughters of Cain seduced the sons of Seth, Wisdom brought the flood upon the earth.<(p.98)
JRF2016/5/236486
カインが「サタンの子」というのは驚きだが、ゾーハルによればそうなるようだ。
>Naamah and her brother Tubal-Cain were descendants of Cain, and the latter was, of course, the son of Satan by Eve:<(p.242)
JRF2016/5/235252
Wisdom は女性名詞だが、あえて Patai は、「女神」として取り扱わなかったようだ。
JRF2016/5/239870
……。
The Shekhina が The King とわかれたのはエルサレム陥落のときなのだが、それはアダムの罪として運命付けられてもいたようである。
JRF2016/5/236622
>No sooner did Adam become a sentient being than he began to contemplate the physical and spiritual worlds into which he was placed, and committed a grave sin that ever since has dogged the steps of man.
JRF2016/5/231883
(…)
God's spiritual being was comprised of ten Sefirot (emanations or aspects), but in contemplating God Adam mistook the tenth and lowest Sefira, that of Malkhut, or Kingdom, which was the Shekhina, the female manifestation of God, for the totality of Godhead.
<(p.158)
JRF2016/5/238692
逆にそうだからこそ、人間が The King と The Shekhina の単一化に貢献できる。
JRF2016/5/236309
……。
エリートの思考とそうでない人々の思考は違う。でも、エリートの思考に影響された人々もある意味において正しくならなければならない。それがエリートの責任みたいなものだ。
JRF2016/5/230903
>The complexity of the quoted passage is a good example of the nature of many Kabbalistic doctrines that require considerable mental effort to grasp their import.
JRF2016/5/232961
(…)
However, it is a safe guess that the less versed a person was or is in the mystical doctrines of the Kabbala the more he was or is inclined to consider the relationship between God and the Shekhina as analogous to that of flesh-and-blood husband and wife.
<(p.165)
JRF2016/5/234333
The Shekinna はイスラエルの共同体(the Community of Israel)も指すという。ユダヤ人の何百万人かに支えられて、二・三百人の「聖人」の活動・勉学が可能になる。(p.200) ある意味無知なユダヤ一般人が単一化(yihudim)を祈るその伝統は、勉学活動を通じて神とイスラエル共同体を一致の方向に常に導いているのかもしれない。
JRF2016/5/237212
>This belief made him in his own eyes a factor in the mysterious goings-on in Heaven, and thus gave him a sense of importance and value far beyond that which appeared on the surface of things.<(p.201)
JRF2016/5/233805
……。
リリス(Lilith)はヘブライ語の lilh (ライラ) すなわち「夜」から名前を取ったんだと思ったら、そうでないらしい。
JRF2016/5/238872
>Originally these were storm-demons, but because of a mistaken etymology they came to be regarded as night-demons.<(p.222)
JRF2016/5/236680
リリスはアダムの最初の妻、イブの前の妻であるという神話がある。
>Lilith, we learn, was Adam's first wife.<(p.223)
JRF2016/5/232317
リリスの「本来の夫」は悪魔 Samael である。
JRF2016/5/230674
>For, they maintained, just as on earth below Lilith and Samael procreated demons and spirits with Adam and Eve, so in the Upper Realm "a spirit of seduction issued forth from Lilith and seduced God the King, while Samael managed to have his will on the Shekhina."<(p.250)
JRF2016/5/236151
リリスという名は↓で出している。False-Odin が Samael にあたるのだろうか? でも、False-Odin が「偽の神」の座を引き受けたのは、「神の現れ」の代わりが必要だと考えたその責任感からだという妄想が私にはある。むしろ、「偽の神」だがその性質は善なのだという理解が私にはある。
JRF2016/5/232071
《ソウルキャリバー4 キャラクリ バビル2世 編》
http://jrf.cocolog-nifty.com/column/2010/10/post-1.html
JRF2016/5/239985
リリスも、赤ん坊と遊んでいて、それをいずれ殺してしまう、というのや、アダムに対してプライドを持ち続け処女的なのにモテない男の相手をさせられるというのは、何かの呪いを私は感じてしまう。彼女も本性は善なのではないかと疑ってしまう。
JRF2016/5/236366
こういう「悪」も全部救われるべきだみたいな発想は、「悪魔崇拝」になるのかな、やっぱり? でも、その奥に「真の悪」があるともしたくないんだよね。マイナスの領域では多神教的視点を持つことで、それを参照する一般人がより幸せな自己を持てるとできないのかなぁ? (それがゲーム『女神転生』や『ペルソナ』シリーズの世界観ってこと?)
JRF2016/5/238614
……。
……。
英語の本は難しい。宗教書だからなおさら。ただ、Patai の書き方が難しいというわけではないと思う。彼は論文をたくさん書いているらしいので、文章に凝ってるわけでもないはず。でも、英語力のない私には難しかった。
ユダヤ教の教えは興味深く、もう少し学んでみたいと思った。次は、昔読んだユダヤ教に関する本を再読しようか、別に買ってある英語の本を読むか…またはこのところずっと言ってるような黙示録的小説を書きはじめるか…。
でも、こういうことをしても虚しいという思いはずっとベースにあるんだよな…。
JRF2016/5/231051
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英語の本。技術書やプログラミングに関する Web などは英語で読むことはあるが、こういう文系の学術書を英語で読むのははじめてだった。実は私、小説も、短編小説は英語で読んだことがあるが、長編小説を英語で読み通したことは確かなかったはずで、その点でも慣れがなくて読むのにすごい時間がかかった。
JRF2016/5/237542