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栗本薫『魔界水滸伝』(全20巻)(ハルキ文庫版)を読んだ。物語の構想の大きさ、文章の装飾はみごとだが、キャラクター個々の死には納得いかないことも多かった。 (JRF 1643)

JRF 2016年9月10日 (土)

『魔界水滸伝 (全20巻)』(栗本 薫 著, ハルキ・ホラー文庫, 2000年-2004年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4894567970 (ハルキ文庫, 第一巻)
http://7net.omni7.jp/detail/5110241051 (P+D BOOKS, 第一巻, 電子書籍)

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元は角川の新書(カドカワノベルズ)で全20巻だったもの。Wikipedia によると 1981年からはじまって1991年に第20巻が出たらしい。のちに文庫化(角川文庫)されて、やはり全20巻となり、さらにのちにハルキ文庫から(角川文庫を底本として)再出版されて、これも全20巻だった。そして、最近、小学館から P+D BOOKS として電子書籍として刊行されている。

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私は子供のころ、カドカワノベルズで数巻、読んで、その後、角川文庫で数巻読んだと記憶している。そのころの表紙・口絵・挿絵は永井豪で、永井豪が絵を描いていることも私がこの本を読んだ大きな一因だったように思う。よく覚えていないが…。

しかし、残念ながら今回読んだハルキ文庫版は、永井豪の絵は一切取り除かれ、ノベルズにはあったらしい、あとがきも一切、割愛されていた。表紙にはかろうじて、その巻の内容を思わせる絵があって、もりおかしんいち氏によるものらしい。

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小説本体は、同じ全20巻だが、私の拙い記憶によると、ノベルズ版と角川文庫版は少し差異があったように記憶している。それがハルキ文庫でさらに変更・割愛があったかどうかはわからない。ただ、ハルキ文庫のときには栗本薫氏がご存命であったため、変更があったとしても著者の許しを得ているのだろうと思う。

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……。

以下、ネタバレを恐れずに書く。

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……。

内容は、『水滸伝』と名乗るだけあって群像劇であり、物語が進むにつれ力を増す安西雄介を主人公とするヒロイック・ファンタジーであり、同性愛も含めた愛を説明の大きな柱とする愛の物語であると言えよう。そして、題のとおり「魔界」の妖怪やクトゥルー神話の怪物達が物語を色どる「ホラー」ということになろうが、「ホラー」と言ってもあまり怖いものではなく、むしろ超能力戦記・伝奇ファンタジー・伝奇ロマンというジャンルになろう。

JRF2016/9/109421

物語の構想は大きく、実は、全20巻といいながら『新・魔界水滸伝』に続いているという点で未完の物語としての性格も持っている。著者死去のため、そういう意味ではもう完結しないことが確定した物語だが、いちおう、全20巻の範囲のラスボスの意外な「死」やライバルの「消滅」というものは最後の20巻にあるので、完結感はもの足りないわけではない。18巻で、禍津神がスサノオウや釈迦やジーザスになる、いってみれば過去に転生する…かのような展開は、クライマックスとして読みごたえもあった。

JRF2016/9/100348

しかし、細部というか、物語の中核となるキャラクターの死には納得のいかないことが多かった。呉秀英と王玲林は中国人ということで使いにくかったのかあっさり死んでしまうし、白鳥夏姫と藤原華子はせっかくはじめのほうから出てきたキャラなのに、「なかったこと」にするかのように虚無の海に沈むのはあっさりしすぎるように思う。死の描写で唯一納得のいくのは生島耕平のものぐらいのように私は思った。最後のラスボスの死もあっさりと言えばあっさりだし。…恨みがあまり感じられないということかな? まぁ、戦いの中で死ぬというのはそういうことだという著者のメッセージなのかもしれないが。

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回収されなかった伏線も気になる。伊吹涼が安西雄介の兄弟だというダゴンの発言とか、橘安生を許さないはずの藤原華子とか。セイヤ関連は『新・魔界水滸伝』につながるということなのだろうけど…。

JRF2016/9/105731

ただ、さらに細部、文章力ということに関しては、「さすがプロ」という感じで、たとえば、第2巻の葛城アキ子の描写は、その死も含めて絶世の美女を文章で表すにはこうするんだというお手本のようだった。私も自分で(拙い)小説を書くことがあるが、とてもマネできないなと思った。

JRF2016/9/108371

……。

ヒマにあかせて、もうちょっと早いペースで読めるかと思ったが結構、読むのに時間がかかった。一日二冊ちょいのペースだった。

JRF2016/9/103781

小説読んでていいのかなぁ…とは思うものの、他にやることのない今。『魔界水滸伝』の主要なキャラは、20代から30代で、私より年下で、働き盛りの年齢。そこを狙った栗本薫は何をしたかったのだろう…それは私ごときにはわからないが、私が何もやっていないことが対称的に思い出されて辛かった。[cocolog:84101572]で紹介した↓…

JRF2016/9/105721

《青木潤太朗(三日目 東 プ 49)さん:Twitter:2015-12-07》
https://twitter.com/aokijuntarou/status/673786657103982592
>「異世界モノ流行ってるけど、あれべつ異世界いかなくても『ある時からモテるようになって仕事で必要とされる人材になれた』じゃダメなんすかね?」 「それああいうの読む人にとって異世界にとばされるよりリアリティがないですよ」 「ああ」 って会話を前に出版社のフリースペースで聞いてな・・・<

JRF2016/9/102678

…今の自分が立派に働くようになるよりは、妖しい力に目覚めて何かができるようになるほうがリアリティがあるから、楽しめる…という人もあるのかもしれないが、私の場合はここまで異世界過ぎるとどうも楽しめなくなっているようだった。

JRF2016/9/105262

『魔界水滸伝』は中古で買い求めた。『魔界水滸伝』は今ではライトノベルの区分になるらしい。そのついでに他にもライトノベルを買い求めたので、しばらくはそれらの小説を読む生活を続ける予定。まともに働いている人には申し訳ないと思いつつ…。何とか新しいこと、稼げるようなことをやりたいと思いながらも、何もできないと迷いつつ…だけど。

JRF2016/9/102449

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