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森真『入門 確率解析とルベーグ積分』をザッと読んだ。数学は手を動かしてナンボのもので、ただ式を眺めるだけで「読んだ」とは言えない。だから、まぁ、目を通した。 (JRF 9380)
JRF 2016年11月12日 (土)
定理証明システムの Mizar だったか。確かバナッハ空間などの確率解析をコンピュータによる証明チェックにかけようという目的が当初あったとかなんとか…。
定理証明システムに関心を持っていた私はそれに乗っかるわけではないが、「あいまい」と思われがちな確率に関する部分をコンピュータ定理証明でできたらカッコイイし、確率モデルというもう一つの私の関心につながるということで、「確率解析」に興味を持ってきた。
JRF2016/11/126792
1990年代後半に工学系の大学院で定理証明システムをいじっていたころからずいぶんたったが、そうやってできたコンプレックスみたいなのがあって、この本を見つけ、買った。普通に「積ん読」になっていたのを、読む本がなくなってきたのを機に読んでみた。
数理ファイナンスへの言及を「売り」にするような宣伝もあって、文系読者を意識していそうだが、複素解析も出てくるこの本を文系読者が読めるとすれば、私は驚く。ひょっとして私が大学を出てから「文系読者」のレベルが上がったなんてことがないとは限らないが…。
JRF2016/11/121384
特性関数(フーリエ変換)を用いるのに複素解析なんて私だって忘却の彼方で、留数定理なんて言葉だけで懐かしかったが、当然、そこを検算する気持ちは起きない。複素解析以外も私が大学院を出たてのころなら、検算して読破することもひょっとすると可能かも?…ぐらいのレベルにあったかもしれないが、今は、手を動かすのがおっくうで、導出を目で追うのがやっとといったところ。
JRF2016/11/120380
それでも、この本は、練習問題といって解答を載せず読者に投げっぱなしにするようなことはせず、いちいち丁寧な解答・証明を載せてくれているので、目で追うだけの私にも読みごたえがあった。
JRF2016/11/127260
検算などをしていないから「理解」にはほど遠く、「読んだ」と胸を張って言えないが、目で追う読み方で気付いた点なども多少あったので、それをちょっと書き出したい。
著者のホームページ(↓)はあったが、「正誤表」は見つからなかったので、私なりにおかしいと思う部分も少し書き出す。
《published books - 森真》
http://www.math.chs.nihon-u.ac.jp/~mori/book/publish.html
JRF2016/11/121542
……。
p.60 の「発展への問題 4.6」において、有理数全体について集合和を取ると極限的に実数全体について言えてることになる…みたいな論理に驚く。上限を有理数で決めていれば、その極限は無理数を含むものになる…といったところか。でも、有理数全体は実数全体とは違う集合で、この先の積分の議論では有理数全体の「面積」は 0 で無理数全体のは 1 になる…みたいなのが出てくるのに、こんなことが言えるのか。他の定理なしでこう言ってしまうのって違和感が残った。
JRF2016/11/127058
……。
p.105 で、「ロピタルの定理」ってググらないと知らなかった。ここでは理解するために検算してしまった。
JRF2016/11/125852
……。
p.133 の「補題 7.3」の (1) の証明で、m^*(A) = 0 のとき、m^*(A^c \cap E) <= m^*(A) = 0 という書き振りが納得できない。A がゼロっぽいときなのだから、A^c は Ω に近く、m^*(E) が問題になるはずで、それは = 0 かどうかはわからないと思う。もしかすると、E の任意性よりそれが出るのかもしれないが…。ただ、こんな基本的なところで間違いがあるはずもない。私には理解できなかった。
JRF2016/11/126549
……。
p.139 「定理 7.7 ホップの拡張定理 (変形)」の説明で、A \subset \mathcal A と部分集合(族)のように書かれているのは間違いだと思う。
ただの誤植だと思う。この本、ここには書かないが日本語の誤植もけっこうある。
JRF2016/11/128510
……。
p.144 「定理 7.11 有界収束定理」の証明のしょっぱな、「|X_n(ω)| <= M とする。X_n(ω) - M >= 0 であるから」がわからない。「M - X_n >= 0」はわかる。私、頭悪いです。
JRF2016/11/127498
……。
p.148-150 の「定理 7.15 ハーンの分解定理」について、p.149 の「第三段階」がよくわからない。「A の定義に矛盾する」って、どの「A の定義」なんだ? 「\mathcal M の定義に矛盾する」ではないのか?
そもそも p.125 の \mathcal M の議論もよくわからない。
JRF2016/11/128846
……。
p.154 「発展への問題 7.4」の証明のところ A_i \cap N は A_i \cap N^c の間違いではないか? よくわからない。
この辺、ちゃんと検算やっている人なら、「間違いだ」と断言できるんだろうけど、私は「そうじゃないかなぁ」ぐらいにあたりをつけることしかできない。orz
JRF2016/11/125343
……。
p.160 「例 7.2 収束の概念の差」の説明がよくわからない。収束の概念が難しい。収束の定義の説明では X_n が問題になっていたのに、ここでは f_n が問題になるのが話をややこしくする。f_n は P といっしょになって、収束するから何が X_n にあたるんだ? 最初にルベーグ測度と書いてるから P じゃなく λ について言っているのか? (2) の確率収束・概収束の説明なんか、まったくわからない!orz
JRF2016/11/122968
……。
p.169-170 「定理 8.3 確率測度のコンパクト性」の証明のところ、p.170 で、「対角線をとって、n_k = n_k^k とすると、、F_{n_k}(q_n) はすべての q_n について収束することになる」って納得できない。そのあとの F の上に山が付いてる記号も定義されてないし。
JRF2016/11/120621
そもそも対角線論法って、定理証明システムでは結局、帰納法で示すものだった(ことが多い)ので、私は眉唾に思ってるんだよね。それで、感覚的にどうも信じれないというのもあるのかもしれない。
JRF2016/11/122330
……。
p.171 「定理 8.4 確率分布の収束と特性関数の収束」の証明について。まず、(1) が定理 8.3 でコンパクト性を使っていけるという理屈がわからない。
あと、(2) のところ、不等号の向きが間違っているところがある気がする。
JRF2016/11/124960
……。
p.175-177 「定理 8.6 中心極限定理」の証明の p.176 で、「対数のテイラー展開」と書いてるところ、カッコの数があってないし、式が間違っているように思う…。その後の展開は合ってるように思うけど。ここも私のカン違いだろうか…。
JRF2016/11/120227
……。
第9章、第10章は議論が難しくて目で追うのもほとんどできなかった。ブラウン運動に関する議論がこみ入っているという印象。
p.181 のブラック=ショールズ式からしてついていけない。p.182 の「…より大きい値をとる確率を…に掛けたものに近い」とか、何を言ってるかわからない…。
JRF2016/11/129363
……。
p.203 「確認の問題 10.1」の解のところ、最後の変形で exp の中、1/2 かけるのを忘れているように思う。第9章、第10章は、こういう誤植みたいなのしか、もう指摘できそうにない。
JRF2016/11/126411
……。
p.204 「発展への問題 10.2」。「右連続」や「左連続」という言葉からしてわからない…。要は、右端は [0,∞) において発散していく方向だから、マズイことがあるってこと?
JRF2016/11/129146
……。
p.210 「公式 10.1 確率積分の性質」の証明の (5) において、p.210 の最後から二番目の行の数式のカッコの中 B_{s_{i+1}}(ω) - X_{s_i}(ω) は、B_{s_{i+1}}(ω) - B_{s_i}(ω) の間違いじゃなかろうか…。自信ないけど。
JRF2016/11/126534
……。
p.221 「補題 10.6 マルチンゲール不等式」の証明、シュワルツの不等式を使っていると書いてるのに、そこが不等号になっていないのは誤植と思われる。
JRF2016/11/128093
……。
p.227 「10.3.2 のブラック=ショールズ方程式」の説明において、この本の最後の「メインディッシュ」となるところで、ここまで読んできてそこの文が理解できないのがトホホなところなのだが、特に、「\mathcal F_t で条件をつけていますので X_t は定数とみなせます」の一文がわからない。
条件付き確率が理解できていないということだと思う。おそらく「t までのすべての情報を知った上で」といった意味がこめられているのだろうが、だからといって、その後の対数正規分布の積分になおすところがわけがわからない。私はホント理解力がないなぁ…。
JRF2016/11/123107
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……。
keyword: Isabelle
私は、この本に載るような証明は、Isabelle などの定理証明システム上で証明されるべきだと思っていたことがあった。だから証明を確認するのは、定理証明システム上でチェックできるかどうかを確認すれば充分であり、その入力時に本当に証明できるような書き振りであることさえ読み取ればいい…という考え方に毒されていた。
JRF2016/11/124330
でも、私は、この本を定理証明システムを使って検証するような人生を選ばなかった。私は定理証明システムをそこまで使いこなせるようにならなかった。定理証明システムと縁のない人生になった。ならば、定理証明システムに載せることではなく、自分が理解すること(手で計算・証明できること)を優先して本を読まねばならない。…にもかかわらず、私はそれができていない。ちょっとした苦悩がある。
JRF2016/11/121993
そして 40歳を過ぎたら新しい数学は無理だと言われることがあるが、もう私は 40歳を過ぎていて、そこを大きな制限だという実感は少ないが、やはり、気力などの点で辛いものがある。もうこういう本は読みこなせないのかな…と思った。
仮にこの本を「読めた」としても、今の私の生活を延長してその先に何かあるわけでもなし、その上「読めない」のだから、一層、無意味でしかない。本をザッと読み終えたところでむなしさしかなかった。
JRF2016/11/127018
こういう読書でもしばらく続けるしかないのだろうか…。他にできることはないのだろうか…。
JRF2016/11/122799
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……。
追記。
本で、大事な間違いを書こうと思っていて忘れていた。
p.181 の例 9.1のブラック=ショールズ式の導出において、本では>リスクを含む株券を S_n = X_1 + … + X_n で考えましょう。<と書いているが、これはその後の計算などからすると、「S_n = S_0 ・ X_1 ・ … ・X_n」の間違いであろうと思われる。ただ、文脈としては、積ではなく和のブラウン運動が出てくるべきところなので、log を取ったものを考えるべきなのかもしれないが。
JRF2017/9/242300
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受信: 2016-12-28 17:21:20 (JST)
『入門 確率解析とルベーグ積分』(森 真 著, 東京図書, 2012年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4489021291
http://7net.omni7.jp/detail/1106177311
JRF2016/11/128266