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cocolog:86465092

長沼伸一郎『経済数学の直観的方法』を読んだ。この本で、確率微分方程式の伊藤の補題(レンマ)の意味とスゴさが、恥ずかしながら、はじめてわかった。最適制御理論から出た動的マクロ経済学についても初めてその内容に触れることができた。ためになった。 (JRF 5813)

JRF 2016年12月 8日 (木)

『経済学の直観的方法』は、二冊からなる。元は、電子出版された『現代経済学の直観的方法』だと思うが、はっきりそう書いてるところは今のところ見つからないので、違うかもしれない。なお、私は直前に、長沼氏の別の著書『物理数学の直観的方法』を読んでいた([cocolog:86442412])。

JRF2016/12/86267

『経済学の直観的方法 マクロ経済学 編』(長沼 伸一郎 著, 講談社ブルーバックス, 2016年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4062579847
http://7net.omni7.jp/detail/1106691952

『経済学の直観的方法 確率・統計 編』(長沼 伸一郎 著, 講談社ブルーバックス, 2016年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4062579855
http://7net.omni7.jp/detail/1106712889

JRF2016/12/87716

著者のホームページ(↓)には正誤表やあとがきなどがある。

《長沼伸一郎 presents パスファインダー物理学チーム 本部》
http://pathfind.motion.ne.jp/

JRF2016/12/81552

……。

……。

まず、「マクロ経済学 編」から。

JRF2016/12/87757

……。

p.49 で乗数効果の説明がある。そこで等比級数の和を使うのがかつてのマクロ経済学の勘所(の一つ)だったということ。で、私もそう思っていたのだが、[cocolog:85747644] で信用創造のようなことを考えたとき、乗数効果の計算で使う項が、現金の融通のためにしか出て来ないことに違和感を持った。乗数効果って本当にあるんだろうか?…と今では疑問に思っている。

JRF2016/12/89318

……。

「ルーカス批判」について…

>(…)経済社会では誰もが人より先読みして動こうとするため、期待や思惑の部分が大きくなり、その期待と現在の間に生じる「変化率」が重要なファクターとなるというわけで、この話はインフレ以外の問題にも一般化できることになる。<(p.131-132)

>(…)「ルーカス批判」ではこの話が一般化され、この「期待」と変化率の話はインフレ現象だけでなく、経済社会のあらゆる部分で大なり小なり見られることだ、という形に拡張されたのである。<(p.126-127)

JRF2016/12/85332

私はリフレやインフレターゲット(インタゲ)論について、2009年ぐらいにはそもそも(マイルド)インフレにならない状況で、ターゲットを導入しても、日銀の責任を追及することにつながるだけだみたいな論を持っていた([aboutme:108296])。2016年、現にインフレターゲットが機能しなかったが、責任論にはつながっていない。それを見て気になるのは、インフレターゲットが「うまくいかない」ことを先読みして、その「変化率」をうまく使えた者がいるだろうかということ。そこが何がしか経済を引っ張ったというとき、でも、それは「日本経済」を引き上げないのが織り込み済みだったとなるのでは?

JRF2016/12/82771

>なお余談だが、量子力学との関連ということから言うと、理系側の人間には先ほどのルーカス批判での「理論の結論が政策として公表されてしまうと、それが理論の前提となるデータを変えてしまう」という話が、量子力学の「不確定性原理」での「観測が実験対象を変えてしまう」という話に何か似ているという印象がある(…)。<(p.138-139)

JRF2016/12/81672

ラグランジュアンを使った「動的均衡理論」は、解析力学の数学に似ていて、解析力学は量子力学につながった。そこからの類推が「ルーカス批判」にはこめられている…と。経済学にラグランジュアンが使えるとなったのが「期待と変化率」を強調した「ルーカス批判」の影響によると著者は見ていて、元々の「ルーカス批判」からしてそこからさらに量子力学のほうを意識していたかもしれない…ということらしい。

JRF2016/12/89024

……。

「リアル景気循環モデル=RBCモデル」(p.173)について…。

先日、目を通したCampbell & Viceira『Strategic Asset Allocation』([cocolog:86393544])で余暇を考えたりしたモデルが、似ている。あれは、ここに影響されていた(影響していた)のか。もう一度、その本を読み返したらわらるところが増えるかもしれないなぁ…と思った。

JRF2016/12/89702

……。

また「ニュー IS-LM モデル」も説明があった(p.198)。この辺は過去にマクロ経済学を学んだ方は特に気になるところではないか。

「帰納法的だったケインズのマクロ経済学を、ミクロ原理から演驛的に制圧する」のがこれによってなされた。これは「ハーモニック・コスモス信仰」のアメリカ経済学の悲願だった…とのこと。

ただ、この本は式の導出を直観的に示しながら、パラメータの解釈等は他の教科書にまかせるというスタンスで、この本だけしか読んでない私にはいささか不満が残る内容だった。

JRF2016/12/80438

……。

動的マクロ経済学はラグランジュアンを使い、今のところハミルトニアンはあまり使わない。ハミルトニアンは「保存量」に関する方法だが…

>しかし将来「持続可能な経済」という考え方が支配的になってきた場合には、むしろラグランジュアンよりハミルトニアンのこういう使い方の方が、マクロ経済学の主力になってくるかもしれない。(…)つまり現在、環境の経済学と国際ビジネスの経済学は、水と油で接点をみつけにくいのだが、これをうまく使えば現場で両者を融合させることが比較的容易にできるかもしれないということである。<(p.226)

JRF2016/12/88854

……。

p.266 で 2 x 2 の回転行列を対角化しているのには、虚をつかれた。私は、行列は、回転と拡大にわけられるみたいな考え方をしていたが、むしろ対角化一本のほうが自然なんだね。

JRF2016/12/87853

……。

ポトリャーギン理論…「最大値原理」について。対空ミサイルの誘道装置などを作ることを考えたとき、左右に動く物を追いかけるということを考えるが…

>(…)操縦桿を右や左に倒して最短時間で目標にたどり着こうとする際には、操縦桿は左右いずれの方向であれ、とにかく「目一杯倒す」ことが必要だということである。<(p.303)

JRF2016/12/81306

Xbox 360 に『Pinball FX (2)』というピンボールのゲームがある。なんで「FX」なんだろう…外国為替証拠金取引の FX ともかけているのかな…と考えたことがある。金融の FX も結局はピンボールで遊んでるみたいなものだ…という示唆があるのかな…と。

それは結局どうかわからないが、ポトリャーギン理論というのは、ピンボールみたいなものなのかな…と私は思った。

JRF2016/12/80831

……。

……。

「確率・統計 編」について。

JRF2016/12/88291

……。

p.72 ぐらいの議論で、標準偏差を求める式に「1/n」が付いていない。正誤表にも間違いとして載ってないしそういう流儀もあるんだろうか?

JRF2016/12/86598

……。

著者は、確率分布をバイアス部分とジグザグ部分とに分ける考え方をする。そして p.110 ぐらいで、中心極限定理を説明するとき、右にバイアスがあるものと左にバイアスがあるものが相殺されて正規分布が現れるという説明をする。

しかし、中心極限定理というのは、右にバイアスがかかっているものどうしを足した場合も、少しばかり正規分布に近づくという定理でなかったか?

JRF2016/12/87429

……。

p.170 ぐらいで、ブラック=ショールズ理論の「本質」について説明がある。

正規分布を重ねていくと、√n で標準偏差が大きくなる。ブラウン運動のような連続的な変化だと√t に比例して大きくなる。普通、偏差はプラス・マイナスが打ち消し合うが、そうではなく「ボラティリティ」が高いと得をする「絶対値ゲーム」にできるなら、√t の二乗つまり t に比例して利益を益を得ることができる。そう持ち込んだものの一つがブラック=ショールズ式である。

…とのことだった。

JRF2016/12/81870

……。

日本の江戸時代の経済について

>(…)米の収穫量を基準に国内の力関係のバランス体系が作られていたが、もし被支配者階級である商人層の経済力が上昇して多くの富を手にすると、相対的に経済全体の中で農業経済の部分が占める割合が小さくなり、それは結果として武士層の貧困をもたらすことになる。つまりこの体制を維持するためには、商業による経済成長はむしろ無い方が望ましく、そのため政権側は、進歩やイノベーションそのものを危険視して、「トレンド」への投資が行われない停滞的な経済を作ろうとしたのである。<(p.195)

JRF2016/12/87665

ただ、そういう「トレンド」を否定した経済でも「ボラティリティ」から利益を得ることができた。…という。

JRF2016/12/83697

そして、

>(…)従来の、トレンドに巨額の投資を行う伝統的な資本主義経済では、経済成長も金融も、基本的に指数関数型の曲線で幾何級数的に急拡大する形になていたが、「ボラティリティ型資本主義」ではそれが直線的に緩やかに一定率で上昇するグラフになっており、このことが将来的に重要な示唆を与える可能性があるのである。<(p.196-197)

指数関数型の曲線は「持続可能性」という点で大きな疑問符がつく(p.197)…とのこと。

JRF2016/12/85646

……。

p.238 ぐらいの議論…。

x を dx = A1 dt + B1 dw とトレンド(バイアス)要素の A1 とボラティリティ(ジグザグ)要素の B1 に分ける。

別の変数 y が y = F(x) または dy = F(dx) と書けるとする。この dy も dy = A2 dt + B2 dw といったふうにバイアス要素 A2 とジグザグ要素 B2 に分けられたら都合が良い。それが「できる」というのが伊藤のレンマだという。

JRF2016/12/80363

そして、x が債券で、y (= F(x)) が x を元にして作られる債券とすると、無リスクポートフォリオは、dy を一単位買って、dx を dF/dx (=金融用語ではデルタ)単位だけ売ることで構成でき、「絶対値ゲーム」的利益が (1/2)・(d^2 F / dx^2)・B1^2 dt だけ上がることになる。

こんな手品みたいなことが言えるらしい。

JRF2016/12/80777

……。

ブラック=ショールズ方程式を p.257 で導出し、その方程式の解を p.264 で載せているが、式の導出はするくせに、あまりその中身は説明しないのはあいかわらず、その辺は別の教科書を読めということだろう。

JRF2016/12/81161

権利行使価格の左右…

>(…)両者の確率が五分五分だった場合、全体的な利益はその平均で前者の利益を半分にした形になってしまうが、とにかく状況が左右どちらに動いても、一応損は発生せず利益だけが着実に拡大していくことになる。これはマイナス部分が存在しないという点では一種の「絶対値ゲーム」と言えるだろう。<(p.259)

ただ、その「絶対値ゲーム」を伊藤のレンマにどうあてはめているのかは私にはよくわからなかった。

JRF2016/12/82343

……。

……。

「確率統計 編」については、読みはじめたときは今さら確率・統計を説明されてもなぁ…結局、ブラック=ショールズ式なんて式に入れて計算できるようになれるかどうかだろうし…と思っていたが、存外、ためになった。

「マクロ経済学 編」については、ちょっと前に読んでいた本(『Strategic Asset Allocation』 [cocolog:86393544])と関連したりしたのに驚き、また、今の経済学の数学はとんでもなく難しくなってるんだなぁ…と驚いた。興味深かった。

JRF2016/12/89257

共に、ベースには難しいはずの数学があるのだが、「わかった気」にさせてくれる本だった。読みやすく一気に通読できる。

ただ、これらを用いて、何か(確率モデルのようなものとか)が私に作れるかというと否定的にならざるを得ない。教養を増しただけ、…まぁ、それも悪くはないんだが…ちょっと、むなしさが残った。

JRF2016/12/85570

……。

追記。

『Strategic Asset Allocation』の他に最近読んだ本としては森真『入門 確率解析とルベーグ積分』([cocolog:86301445])も内容が重なり、それを読んでいたのでこちらの理解が容易になった面もあるかもしれない。

JRF2016/12/89549

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