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長沼伸一郎『物理数学の直観的方法』を読んだ。メインの数学・物理学の秘訣については「なんか知ってる」という感じ。最後の「作用マトリックス」の話は興味深く読んだ。 (JRF 7147)
JRF 2016年12月 4日 (日)
理系の大学院試験で出るような範囲の勘所[かんどころ]を、わかりやすい「直観的」な言葉で書き出すのがこの本。
JRF2016/12/41465
でも、最初の面積分やテイラー展開は、逆にこの本のほうがわかりにくく感じたのは、私が集合論の(自己)訓練をしたことがあるからだろうか?
それ以外の例えば rot や複素数の議論は、なぜか「知ってるな」という印象を持ったのは、もしかすると、私が(北海道)大学工学部で習った90年代には、この本が出版されていたので、その影響がすでにあったからかもしれない。
ε-δ論法も集合論やつい最近やった関数解析([cocolog:86301445])の議論からすれば、あたり前のことを言ってるなという印象。
JRF2016/12/48863
解析力学については、以前私はランダウ&リフシッツの『力学・場の理論』([cocolog:82729771])と『量子力学』([cocolog:82774605])に目を通していて、そちらのほうがわかりやすかったような気がする。その来歴が最速降下線の議論からだという詳しい説明は興味深かったが。
JRF2016/12/49977
そういうことがあって、物理数学の直観的議論については私はあまり驚くようなことがなかった。もしかすると、大学院を修了してすぐのころなら、もっと驚いたのかもしれないが、40歳を超えて数学的感性が鈍りがちな今読んでも、何がすごいのか自体がわからなくなっていたということかもしれない。
JRF2016/12/45639
……。
この本には、そういう勘所とは異質な議論として「やや長めの後記」と題し、(天体の)三体問題がどうして解けないのかを「作用マトリックス」という考え方を使って説明している。
JRF2016/12/48390
そこでは第二版から割愛された部分があるらしく、それが、著者のサイト(↓)から、ダウンロードできるようになっていた。本に書かれたヒントを元にパスワードを入力してそのサイトからダウンロードできる記事も読んでみた。
《長沼伸一郎 presents パスファインダー物理学チーム 本部》
http://pathfind.motion.ne.jp/
JRF2016/12/48751
「作用マトリックス」は世界を行列の積で表してみるという発想で、「行列」というと線形代数だが、それよりは様々な作用素を行列の要素として持ちうるということなのだろうが、とにかく、そういった単純な行列にしてみても難しい(解くことが不可能な)問題が、もともと解けるはずがないという論理で、三体問題などの難しさを説明しようということだったと思う。
JRF2016/12/48957
ただ…
>そしてここで興味深いのは、人類の数学を支えてきた2本の柱が、世界史の中では両文明に分担される形で発展し、それが文明自体の歩みに大きく影響したということである。
その2本の柱は何かというと1本目の柱は微分方程式と関数から成る解析学の世界であり、そして2本目の柱は、一次方程式から始まって線形代数に至る代数学の世界である。
(…)
そして歴史的に見ると、前者の発展は西欧キリスト教文明が担っているが、後者の代数学の部分は(それが algebra と呼ばれるのを見てわかる通り)、イスラム文明によって確立されている。
<(p.272-273)
JRF2016/12/47939
…という文明論まで展開しているのは、人を選ぶ記述かもしれない。西欧は、作用マトリックスが相互作用をほとんど起こさないような、部分最適が全体最適になるような「ハーモニック・コスモス信仰」を近代・現代にかけて発達させ、それが行き詰まって「複雑系」のような議論が出てきているともいう。このあたり、ニュートンについて [cocolog:72139046] で>星の神々を磔[はりつけ]にして科学を得る錬金術のようであったのかもしれない。<と書いた私は、まぁ、好意的に読んだ。
JRF2016/12/43196
さらに…
>(…)複雑巧妙な相互作用の上にしか名り立たない系は確率的に駆逐されていく。そのため統計力学観点からは、一般に系は放置しておくと、まるで恒星がブラックホールに潰れていくが如くに、次第に相互作用の糸が狭まった形に「縮退」していくのである。<(p.286)
JRF2016/12/45442
…と述べ、「勝ち組の中でだけ経済が回る」ようなことを批判している。が、この部分、「星の神々を磔」にするごとく、わざと「縮退」させて、宇宙のチリから太陽系ができるように新しい時代を導こうとする無意識的コミットもあるんじゃないかという気がしないではない。
JRF2016/12/41307
ダウンロードできる pdf では、「作用マトリックス」で微分方程式をどう表すかなど説明している。ここでは、物理学(量子力学など)で、演算子と行列計算がつながるところを誤解していたというわけではないことが示されている。その中に行列で二乗演算子などの非線形要素を表すための「スイッチ演算子」という考え方があることが示され、興味を持ったが、この pdf では詳しいことまでは私には読みとれなかった。
JRF2016/12/45776
ダウンロードできる pdf のうちもう一方は、相互作用が起きる臨界を説明するものだった。私は↓を思い出した。
《口コミがブレークする数は - 小人さんの妄想》
http://d.hatena.ne.jp/rikunora/20080624/p1
>口コミがブレークする数は、それは自然対数の底、eである。1人が平均してe人以上に伝達すれば、その情報はブレークする。e人未満の場合、その情報はやがて自然消滅する。<
JRF2016/12/44669
私が作った『易双六』とか、何とか e 人以上に扱ってもらいたいとか思っていたんだけど、ググッても Togetter の1人しか見当らないのが悲しいところ。
JRF2016/12/40016
……。
今年、著者は、同じブルーバックス社から『経済数学の直観的方法』という二冊の本を出している。上の本を読んでる途中に、私はその二冊を買ったので、近々、読むつもり。
JRF2016/12/45085
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長沼伸一郎『経済数学の直観的方法』を読んだ。この本で、確率微分方程式の伊藤の補題(レンマ)の意味とスゴさが、恥ずかしながら、はじめてわかった。最適制御理論から出た動的マクロ経済学についても初めてその内容に触れることができた。ためになった。... 続きを読む
受信: 2016-12-28 17:20:29 (JST)
『物理数学の直観的方法 (普及版)』(長沼 伸一郎 著, 講談社ブルーバックス, 2011年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4062577380
http://7net.omni7.jp/detail/1106073771
元は、「自費出版」で、通商産業研究社より1987年に発行されたものらしい。
JRF2016/12/44006