cocolog:86756868
広井良典『定常型社会』を読んだ。それにことよせて、日本経済の現況について概観し物申す。 (JRF 6014)
JRF 2017年1月25日 (水)
2001年と経済の本としては少し古い本だが、年金破綻などの問題はすでに指摘されていて、私の経済に関する認識はここから大きくは更新されていないという印象。ただし、2011年の東日本大震災の影響は別。特に環境重視という立場から、2011年以前は、クリーンエネルギーとして原発を推す勢力が強く、脱炭素・CO2削減を目指しての成長というと、原発推進とほぼ同義だった。
JRF2017/1/259499
それが、日本では、CO2削減は声が小さくなり、原発事故の後処理を含め、原発からの廃棄物をどうするか、その負担をどう分担するかが環境問題のまっさきに解決すべき課題のようになってしまった。その負担は社会保障の増大とともに成長に寄与しがたいコストとしてのしかかるものと意識されるようになった。もちろん、原発事故処理対応の科学的革新・発明はありえないわけではなし、むしろそうあるべきだが、最近の「東芝」の苦境が示すのはその方向がうまくいっていないということではないか。
JRF2017/1/250656
原子力発電で出るプルトニウムなどは「ゴミ」ではなく「資産」だから、それが増えるのはむしろ「(経済?国家的?)成長」の方向だという議論も、「廃棄物」がまず大量に出ているのをどうにかしなければならない状況では虚しいものだ。陰謀論的に見れば、まずそういう議論がアヤしくなったから、別の「発展」の可能性が模索された、模索されやすい状況だったのかもしれない。まぁ、福島第一原発で、5号機や6号機までやられなかったのは、陰謀論的な観方まではあたらないということなのだろうが。
JRF2017/1/254048
現在の日本経済、金融政策は「禁じ手」以外はすべて使ったような状況で、>需要の実体がないところにマネー志向だけが拡大を続けた<(p.ii) のも限界をとうに超えており、現在になってみれば、「(経済)成長」を今でも強く主張する派閥はすなわち、財政において公共事業から増大する社会保障費へ(道路財源などの)財源を移すのに対する抵抗する物言いとほぼ同義になっている。もちろん、働く人が、高齢者を家族として支えるというイデオロギーはあるのだろうが、70歳までの定年延長も語られるとなると、その限界はすでに来ていると見るべきだろう。
JRF2017/1/253735
租庸調(参:[aboutme:127251])の調の部分になるか。今ではたまに批判されることもある海外でのバラマキだが、もしかすると海外に今少しでも貸付ておくことで、将来、財政がさらに苦しくなったときに、返してもらえたり、何がしかの借金ができて、それで、エネルギーや食料の輸入をまかなうことができるかもしれない…という算段があるのかもしれない。せちがらい国際政治の場で、そんなにうまく行くものと私には思えないが、官僚は優秀なのでその辺うまくやってるのかもしれない。(官僚の天下りが話題になっているので、官僚だけが助かるような道を模索してる危険もあるが、それは国内が許さないだろうとは思う。)
JRF2017/1/256794
AI で人が働かなくても良くなるからベーシックインカム…みたいな議論も見るが、そもそも、ディープラーニングは、データウェアハウス、ビッグデータといったサーバ屋の煽り文句の一つで、3D や VR・AR が煽りのわりに消費者に響かないように、売り文句のわりには効果が普遍的でないもののように私は考えている。もちろん、3D や VR・AR が少しずつでも発展しているように AI も発展しているのだろうが、PC が普及してもオフィスの仕事がなくならなかったように、AI が仕事をなくすというのも「働かなくてよくなる」方向にはならないと思う。
JRF2017/1/250710
ただ、AI という「資本」が仕事をよりするようになるのだから、そこに担税力を見出すという方向にしていくことは必要で、昨今のように法人税を減らすのではなく増やすという方向が本来は必要ではないかと私なんかは思う。
JRF2017/1/259085
土地を持っている人が税を払う=担税力のある者(会社)は土地を持つという前提の「地租」が、担税力のある者が株式で配当することを前提とする「法人税」に移りかわったように、法人税から知的財産課税に移行するなどしないといけないのかもしれないが…。アメリカ型の個人主義…個人を集めれば全体になるというイデオロギー(参:[cocolog:86465092])で所得税・消費税だけに頼るということはできないと思う。(まぁ、個人への相続税・富裕税の方向はあるが。)
keyword: 知財 課税
JRF2017/1/252705
AI が主に仕事をするようになったとしても、農業など 3K(キツイ・キタナイ・キケン)労働に誰かがつかなければならない。それが正当化されるよう他の人には(作り出された)仕事がなければならず、たまたまテレビなどの影響で「自発的に」就いた人が、借金などによって 3K 仕事を押しつけられるようにしているのではないか…とニート(年齢は40歳オーバーだが)な私は疑っている。
JRF2017/1/255030
…と、こんなことはこの本には書いていないのだった。このところ新書を中心に本をいろいろ読んでいて、どこかで上のような話も書いておきたいと思ったのだった。この本をダシに書いてみた次第。
JRF2017/1/253138
……。
>(…)「大きな政府か小さな政府か」という対立軸に正面から向き合わないことは、結果的に“一党独裁システムの継続”という形を導くことになり好ましいことではない(…)。日本はいわば二大政党制的な状況を一度もへることなく、いわば“(高度経済成長型の)一党独裁・マーク1”から“(低成長型の)一党独裁・マーク2”にバトン・タッチされることとなり(…)<(p.26)
JRF2017/1/252534
「大きな政府か・小さな政府か」は「信頼できる政府か・小さな政府か」と言いかえたほうが政治的に訴求力があると思う。できることなら財政的に軽い小さな政府がよいのは当り前で、それに対し「大きな政府」といってはわかりにくく、「大きな政府がいいのか」と詰め寄られたら「信頼できない政府がいいのか」と返せるほうが良いだろうから。
JRF2017/1/251598
まぁ、それは置いといて。2001年以降の日本は政権交替を経験し、自民党から交替した民主党政権で2011年の東日本大震災を迎える。私は当時の菅直人首相の政権はよくやったと思っているのだが「東京」の判断はだいぶ違うようだ。その前の鳩山首相のときの対米外交政策も私はその方向性が完全に間違っているとは思えない。どうしてあんなに非難されたのか私の中では謎である。
JRF2017/1/259295
「東京」は、被害者であるにもかかわらず、その「汚名」を受けたくないかのように見える。放射性物質という「目に見えるもの」であるかはわからないが、解決されない事故処理の累積的影響は、澱[おり]のようにホットスポットのように悪い物をもたらすのではないかと私は心配している。でも、そういう観方は「彼ら」にはないらしい。人口が減って土地が安くなっていくことが心配される中、それでも中央たる「東京」は集中が進んで「地価」が下がらないというのを既定路線として離れられないかのように見える…。それを否定するものをケガレとみなしながら、本当は自分達がケガレていっている…。
JRF2017/1/257594
これは「放射脳」の私の邪推に過ぎないかな。具体論は一つもないし。ただ、これが妄想でしかないことは皆さんには明らかでしょうが、私にはそうではないので…。
JRF2017/1/253438
……。
>今後の社会保障財源(のうち税の部分)については、「消費税→相続税→環境税」がその有力な財源となるものと考えている。<(p.63)
JRF2017/1/258932
消費税を上げたのなら、従業員の(必需的)生活費が上がるのだからその分、賃金(給料)を上げないといけない。それは仕入れの消費税額で相殺されるといったものではないのだから、消費者にとっては「便乗値上げ」と感じられるものが「必要」となる。実質賃金がどうとかいう議論は、ここ最近では具体的にはこの財政・金融的手当てがどうなったかというハナシなんだと思う。
JRF2017/1/251078
そして結果として現れたデフレの継続はそのコストが負担できない構造であるということを示すのだろう。それならいっそのこと消費税なんてやめてしまえばいいのではないだろうか。ちょっと昔は消費税の定率還付と定額還付とか私は唱道してたが、消費税をやめるというなら、それが一番いいかもしれないと考えはじめている。消費税のかわりは、トランプ大統領の保護主義にならって関税の復活でもいいし、専売と物品税の復活でもいい。(一般財源化はして。)まぁ、物品税というよりは(電力などへの)環境税みたいな言い方になるのかもしれないけど。
JRF2017/1/254876
昔、女性が農業を手伝っていたのが専業主婦化して、その後、女性の「社会進出」が起きて回帰が起こっているという議論が p.60 ぐらいであったが、消費税増税分を女性が稼ぐべく介護等を押しつけるべくした…というのが昨今だったのかもしれない。あとは厚生年金に政治的(行政的)に介入して、消費税増税でまかなうはずだった社会保障費増分を年金の「公平化」でまかなっているのかもしれない。官僚が仕事をしているという印象だが、私には本当かどうかわからない。
JRF2017/1/252701
相続税については、その増税のためには、私の未来というのを考えてみると、一人暮らしには広い家から、(精神病院内での集団生活など)生活保護よりの生活への移行をスムーズに行う支援…みたいなのがないといけないと思う。ただ、それだけすると市場に余った空き家が大量に出るみたいになって嫌われるだろうから、土地の再分配・再配置・効率化みたいな政策は必要なのだと思う。賃貸ルームに移民を望むような歪んだ政策は、これからの日本では無理というのは試してみてわかっていることでしょう。留学生に財政支出するよりは廃屋処理(接収・倉庫化(宅配のための?))に財政的手当てをするようになるのではないか?
JRF2017/1/251472
……。
>税・社会保険料体系を「労働への課税からエネルギー・資源への課税」へ転換していくことで、企業行動を「労働生産性重視から資源効率重視」へという方向に誘導・転換させてゆく効果をもつことが論じられている。(…)20世紀の税体系は資本・労働課税中心型のもの、つまり所得税と法人税を主たる柱とするものであったが、21世紀はこれを(消費税・資産税をへてさらに)環境・天然資源中心型にしていくという考えである。<(p.98)
JRF2017/1/255432
上でも少し書いたが、しかし、環境・天然資源中心型では財源として足りないのではないかと思う。コンビニや Amazon みたいな形態から税が取れるようになるといい…と考えると商圏の固定を認めて税を取るみたいな方向で、商圏の固定は、著作権がらみでつかわれる DRM と親和性があると考えて、そのあたり知財課税の文脈でできないかと思う。…というのはつまり地図情報(という天然資源)に課税するということなのかな?
JRF2017/1/250788
……。
>「成長」それ自体に(規模的な)価値があるわけではない。<(p.134)
JRF2017/1/253854
[aboutme:100794] で書いたが、>物の交換があるときは、相方に効用の上昇がある<から、交換があれば幸福の上昇がある。交換を積み上げた GDP が上昇すれば、外部経済とかいろいろあるかもしれないが、とにかく人々の幸福・厚生は増している。…と考える、ということだと思う。だから、「価値があるわけではない」は言い過ぎで、現在だと効果が薄くなっているぐらいに言っておくべきことのように思う。
JRF2017/1/259583
[cocolog:75599118] で>債権では社会の富は増えない。株式のみ社会の富を増やせる。<と書いたが、配当があって株価があがるのが資本主義経済の富の根拠で、だからそれを増やすことと連動する法人税という体系に意味があったんだと思う。法人税をほぼなくして別の税を基幹にすえるとなれば、それは資本主義というものの解体も含むかもしれない。その先にあるのが著者のいう「定常型社会」なのかどうかは知らないけれども。そこでは GDP というものも意味を失ってよいのかもしれない。
JRF2017/1/256678
……。
>「潜在的な自由」の保障<(p.141)
JRF2017/1/259691
[cocolog:73507080] などで潜在的生産力という話をした。潜在的生産力は生産性とは違う。>価格競争に参加する工場は、少なくともお互いに奪おうとするシェアの分だけ潜在的生産力を持つことになる。<>一方、サービスについて価格競争をする場合は、(…)潜在的生産力は低下する(…)。<…と。戦争や災害復興などの急な需要に対応できるのが潜在生産力で、それが増えるのが(別の計算のしかたでの)「成長」というのは、この本の「潜在的な自由」を増やすという方向と一致するかもしれない。
JRF2017/1/259249
……。
>「経済成長率」が落ちるということは、要するに「(生きていく)スピードをちょっとゆるめる」ことにすぎないのではないか。だとしたらむしろ歓迎すべきことではないだろうか。<
JRF2017/1/250465
財源としてはあまり意味がない…意味があってはならないと思うが、よりよい社会のための政治統制・罰則的に、「残業税」という考え方にこだわっていた時期が私にはあった。でも、空気を読むとその方向はいやがられているように感じる。
《名目賃金と実質賃金 - 失われた10年は残業に課税すべきだった》
http://jrf.cocolog-nifty.com/society/2006/03/post_4.html
keyword: 残業
JRF2017/1/258732
……。
本にことよせてはいるが、ほぼ関係ないことをつらつら書いてきた。
JRF2017/1/256714
少し前に [cocolog:86465092] で、日銀に、インフレターゲット…リフレ政策が機能しなかった責任を問うべきでは?…みたいなことも書いたが、気が早かったかもしれない。最近、新聞を読んでて、景気が上がっているかのような報道が、経済スジから多いと感じる。実際そうなのかどうか私にはわからないが、衆議院選挙も近そうだし、「さもあらん」とも思う。
JRF2017/1/258990
上で消費税増分の生活費を稼ぐために女性が社会進出を押しつけられるみたいな話をしたが、介護などの人手不足のピークはもう少し先のはずで、今は実験的な動きという面があるのかもしれない。猶予はあってそれほど急いでないので、「官僚」達も景気を上げることができるということかもしれない。今は過渡期ということか。
JRF2017/1/252099
そういう実験は、上で書いたような法人税を別の何かに組み替えるような大きな改革があれば無駄になる。でも、そういう改革には混乱がつきもので、そういう混乱を受け容れるだけの余裕はこの先ないということかもしれない。「改革」もありえないということなのだろう。
JRF2017/1/257195
2001年のころ 2015年を過ぎたらもっと混乱しているのではないかと思っていた。私が気付かないだけで混乱しているのかもしれないが、まだ静かなように思う。この先も静かでいられるのか。「静か」というのが何を意味するのか…。
JRF2017/1/254682
typo 「発明はありえないわけではなし」→「発明はありえないわけではないし」。
JRF2017/1/259166
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『定常型社会 - 新しい「豊かさ」の構想』(広井 良典 著, 岩波新書, 2001年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4004307333
http://7net.omni7.jp/detail/1102012555
JRF2017/1/259605