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cocolog:87083159

小林淳一&木村 邦博『考える社会学』と『数理の発想[アイデア]でみる社会』を読んだ。 (JRF 5081)

JRF 2017年3月22日 (水)

……。

『考える社会学』(小林 淳一 & 木村 邦博 編著, ミネルヴァ書房, 1991年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4623021262
http://7net.omni7.jp/detail/1101007463

JRF2017/3/228114

数理社会学の本だと思って買ったら、そうではなかった。様々な社会学の分野を紹介しながら、売り上げが下がりがちという「数理」に致る一歩手前でわざと立ち止まるといったふうの本。

JRF2017/3/229250

……。

数式はほとんど出て来ないのだが、(ほぼ)最初に出てきた数式である↓は意味がわからなかった。

JRF2017/3/221810

>いま、社会はN人の人々で構成されており、それぞれが協調的な選択肢 C と自己利益追求の選択肢 D という 2 つの選択肢の間で選択を行なうものとしよう。また、協調的な選択をした人数 (C 選択者数) を m とし、C を選択した人、D を選択した人の利得を、それぞれ C(m)、D(m) と表わすことにする。ドーズ (Dawes, R.) によれば、社会的ジレンマは次のように定義される。

JRF2017/3/228816

(…)

【定義 4】以下の 2 つの条件を同時に満たす事態は社会的ジレンマである。

D(m) > C(m+1)、ただし、0 <= m <= N-1 …… (1)
C(N) > D(0) …… (2)
<(p.35)

JRF2017/3/223339

効用が U(m, N - m) で定義されているとかいうならわかるが、D(m) と C(m) がどうして比較できるのかわからない。D(m) ってあくまで m 人協調してるときの残りの協調していない人々の効用の和なのか? じゃあ、C(N) > D(0) って意味があるのか? わからない…。

JRF2017/3/220719

……。

>そこでカルヴィニズムにおいては、つぎのように教えるようになった。つまり、いくら努力しても、それによって救済をえることはできないのであるが、救済の「証し」は努力すればえることができる、としたのである。いわばカルヴァンの教義を、水で薄めてしまったのである。<(p.54)

JRF2017/3/229512

言い回しの問題かもしれないが、少し違うのではないか。努力できるというのが「証し」になっている…失敗は試練だからほぼ関係ないとして…それは他者に対しての「証し」ではなく自己満足的なものでしかない…ということではなかったか。カルヴァンの予定説については↓で記事にしている。

《義認説と予定説》
http://jrf.cocolog-nifty.com/religion/2006/02/post_4.html

JRF2017/3/228724

……。

この本にもアクセルロッドの「しっぺ返し」戦略が強いという有名な実験が載っているが、↓は少し問題をずらしながらその結論に異議をとなえるつもりで書いた。([aboutme:138413] には同じようなことがやや詳しく書いてある。)

《モンティ・ホール問題または三囚人問題の拡張とその確率操作シミュレーション》
http://jrf.cocolog-nifty.com/software/2016/08/post.html

JRF2017/3/223374

>少し論を離れて、ジャンケンの対戦をするプログラムを考えよう。乱数だけのプログラムがかなり強いことが予想できるだろう。というか、学習とか無用で、最強かもしれない。しかし、負けるの覚悟で規則的に手を出すプログラムがあったとしよう。学習をするプログラムは、その規則的な相手には勝つことができる。乱数だけのプログラムは規則的な相手にもイーブンな戦いしかできない。

JRF2017/3/224718

(…)

ここで一回の勝ち負けではなく、複数の対戦でのポイントというのを考えよう。規則的に手を出すプログラムが多くあれば、乱数だけのプログラムより学習をするプログラムのほうが勝ち星を多く獲得できるだろう。一見、愚かな規則性が、学習の効果を発揮する余地を作るのである。

JRF2017/3/225215

……。

……。

『数理の発想[アイデア]でみる社会』(小林 淳一 & 木村 邦博 著, ナカニシヤ出版, 1997年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4888483604
http://7net.omni7.jp/detail/1101410077

JRF2017/3/228889

数学にかなりの部分を割いていて、数理社会学はボリュームのわりには少しとなってしまっている。しかし、その例には興味深いものが選ばれているという印象。

JRF2017/3/221057

……。

数学で、今さら微分や行列の話をされても…と思いつつ読んでいたら、マルコフ連鎖の話題を私は全々知らなかったことを思い知らされた。[cocolog:76226644] でマルコフ連鎖に言及したことがあったが、私が持ってるマルコフ連鎖の本は、私のレベルでは難しく、ほとんど読めてなかった。そこに今回の本は簡潔に、正則連鎖に関する不動点ベクトルが初期値がどんなものであってもそこに行くという事実を書いていたり、吸収連鎖を持つマルコフ過程の行列の計算について書いていたりして、目から鱗が落ちた。

JRF2017/3/226966

この本の最終章の第6章は吸収連鎖のあるマルコフ連鎖の例になっていて、とても興味深かった。

JRF2017/3/227069

……。

微分の例としてオルソンの議論を取り上げる第3章では、p.67 の (3.10)式をどうやって出すのかがわからず、さらに、(3.10)式 では T^* を S_g で微分してそれが 0 未満すなわち 0 でないとしているのに、(3.11)式では S_g を T の関数ではないとして微分していて、まず、混乱した。

しかし、すぐあとを読むとそれらはオルソンの論理の説明であって、それが間違っている場合があることを示していて一安心した。

JRF2017/3/222609

……。

第4章は「囚人のジレンマ」のゲームを複数回(無限回)やる「超ゲーム」が説明されていた。「囚人のジレンマ」もその「複数回」の議論も知ってるつもりだったが、どこかで読んだ([cocolog:80000470] かな?)のを忘れてしまったのか、その結果は驚くべきものだった。それは、しっぺ返し戦略と無条件非協力が囚人のジレンマ風になり、効用の割引率の大小によっては、しっぺ返し戦略同志でもナッシュ均衡になるという結果だった(p.95)。

JRF2017/3/223057

……。

第5章では、p.109 のコラムの部分の式が明らかに間違えていた。正誤表を探したが見つからないので、いちおう書いておくと、まず、「M'=」の式の Σ の上は n でなくて i、これは p.108 でも同じ間違いがあった。次に 「M=」と「M'=」の分母のところ m^{b-1} となっているのは、m b^{-1} の間違い。「M'/M」は近似なしで書いたら…

M'/M = ((m^L - 1)/(m^i - 1)) * (((m/b)^i - 1) / ((m/b)^L -1))

…となる。

JRF2017/3/229485

……。

……。

数理社会学の本では、ずっと以前に↓を読んでいた。今回読んだわけではないが、関連があるので挙げておく。

JRF2017/3/221709

『社会を〈モデル〉でみる - 数理社会学への招待』(土場 学 ほか 著, 日本数理社会学会 監修, 勁草書房, 2004年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4326601655
http://7net.omni7.jp/detail/1102094608

JRF2017/3/221047

『社会の見方、測り方』(与謝野 有紀 ほか 著, 数理社会学会 監修, 勁草書房, 2006年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4326601868
http://7net.omni7.jp/detail/1102327800

JRF2017/3/224829

『社会を〈モデル〉でみる』のほうが、数理社会学のカタログみたいな感じで、おもしろい。2009年5月1日ぐらいに少し言及している。

『社会の見方、測り方』のほうは統計社会学だが、『社会を〈モデル〉でみる』ほどにはおもしろくない。買って損したというほどのことではないが。必要な人には必要な本だろう。

JRF2017/3/229864

修正 「統計社会学」→「計量社会学」。

JRF2017/3/228394

……。

修正。

本のタイトルで、上では「発想」に「アイデア」とルビをしているが、実際の本は「アイディア」とルビしていた。訂正する。

JRF2017/3/290488

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