cocolog:89280989
ジェイコブ・ソール『帳簿の世界史』を読んだ。会計からリーマンショックに切り込みながら、時価会計の強制の問題にほとんど言及しないことに私は驚いた。複式簿記の世界史を知れたのは良かったが…。結局、会計には究極的には「プロテスタント的倫理」または「性善説」が必要なのだろう。 (JRF 5952)
JRF 2018年5月 1日 (火)
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この本の「時価」会計への言及はわずかなもので以下ぐらいである。
>(…インフレ時における…)取得原価主義会計のこうした歪みを排除し、企業の真の資産価値を財務諸表に反映させるため、時価主義会計の概念が導入された。企業が保有する資産の「公正価値」は、取得原価ではなく市場の実勢価格であるという考え方である。(…)ただし、時価評価を巡っては会計専門家の意見は一致していない。公正価格には裁量の余地があり、取得原価と異なり不確実な要素が入り込んでくるため、正確な監査がいっそうむずかしくなる。<(p.346)
JRF2018/5/10430
ただし、時価という言葉は使わなくとも、「不良債権の処理」や「損切り」のためには再評価が必要で、そのとき時価のようなものを計算しなければならない。そういう点での言及は、この最後のほうのページだけでなく、全編にあったとは言えるかもしれない。
JRF2018/5/16536
「時価」は簡単に測れるとは限らない。オランダの東インド会社は「要塞」を持っていたらしいが、例えば、それをどうやって測るのだろう? 戦争をしかけて「要塞」を奪ったとき、戦費(の一部)が取得原価ということにはできよう。しかし、その時価はどうなる? 維持費ばかりかかるから資産価値はマイナスになるのか? 取り返されたときの損から逆算して何とかプラスの価値を見出すのか? その「価値」が他の将来得るべき軍事目標があってはじめて出てくる場合、「皮算用」することは本当に悪なのか?
JRF2018/5/16041
>「ある商人が 100 ポンドの胡椒の在庫を持っているとしよう。年間の販売量は 50 ポンド、年間の生産量は 50 ポンドだとしたら、倉庫に保管されている 100 ポンドの胡椒の価値はどれほどか?」。答は「ゼロ、それどころか保管料その他の経費を考えたらマイナス」だと(…オランダ東インド会社支配人の…)フッデは言う。<(p.163)
JRF2018/5/18044
しかし、他国に船や倉庫が被害にあって、胡椒の値が上がった場合はどうなるか? そのあたりの「皮算用」まですると話は違うのではないか? 血の流された「要塞」についてもフッデはその冷徹な計算を完遂できただろうか?
JRF2018/5/15562
>このようにオランダは会計や政治責任に関してヨーロッパの模範となる国だったが、それでも政権運営と財務の透明性を維持するのはつねに困難な課題だった。<(p.161)
>こうしたわけで、オランダ東インド会社から学べる教訓はいささか微妙である。17世紀に誕生した世界初の株式会社では、組織的な複式帳簿はついに根付かなかった。会計慣行の重要性を十分認識し、専門家がたくさんいたにもかかわらず、である。<(p.164)
JRF2018/5/15514
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「要塞」に「市場価格」はない。逆に客観的な市場価格があれば、それを評価に適用すべきか…と言われるとそれも難しい。「営業秘密」はどこにでもあり、市場よりも適切な価格を知っている可能性が高い場合も往々にしてあるだろうからだ。
私はよく言及するのだが、「モンティホール問題」というのがある。詳しくは↓を参照して欲しい。
JRF2018/5/14262
《モンティ・ホール問題または三囚人問題の拡張とその確率操作シミュレーション》
http://jrf.cocolog-nifty.com/software/2016/08/post.html
>扉 A, B, C があり、二つの扉の後ろにはハズレが、一つの扉の後ろにはアタリがある。プレイヤーが最初に扉 A を選択したあと、司会者が、残った扉 B, C のうちハズレとわかっているほうの扉 B を開けた。プレイヤーは、再選択を許され最初に選択した A か、司会者が残した C かを選べる。どちらを選んだほうが有利か。<
JRF2018/5/15969
このとき、C がアタリである確率が 2/3、A がアタリである確率が 1/3。直観とは異なるかもしれないが、そう答えがわかっている。
ここで、この問題のシチュエーションで、扉 B を開けた段階で突然、宇宙人がやってきたとする。宇宙人はそれまでのいきさつを知らない。宇宙人に扉を選べと行ったら、宇宙人は、A と C を等確率 1/2 で選ぶだろう。それが合理的になる。
JRF2018/5/18896
重要なのは、「いきさつ」という情報を知っているか否かなのである。それだけで、実際の確率が変わるのだ!
JRF2018/5/15154
時価を確率論を用いて評価するというとき、この問題が出てくる。つまり、情報を知っているか知っていないかで、評価額が変わるのは合理的だということだ。そして、「営業秘密」があることで、「秘密主義」をとることで、有利な展開もあることが是認される。
JRF2018/5/19534
自分はゴミだと知っている債権を外に出して自分から見て確率的なものに加工して市場価格を付けてもらうと、少しマシな時価が出てくる。そのスキームはサブプライムローンを思わせる…。時価だったらとにかくよいとなるから、そういうスキームを使っていく側面があったのではなかろうか? リーマン・ショックの前に会計の勉強をしていた私は、時価会計を「無理」に適用しようという変更が進行中だったことが今も気にかかっている。
JRF2018/5/12848
もちろん、取引の証拠があるだろう取得原価だったら良いのかと言えば、実質からの乖離の問題の他に、先のサブプライムローン的なものだと、外に出して再び受け容れるという操作があるのだかからそこで取得原価ということにすることもできる。そういったことに意味があるのか?…という問題はある。
JRF2018/5/17432
もちろん、これは会計そのものの無意味さを意味するものではない。普通の商売をしている限りは、会計を付けるというだけでより信頼できるとは言える。しかし、金融商品を高度に扱うような究極的なところまで視野に入ると、「プロテスタント的倫理」または「性善説」を仮定しなければ、会計に信頼を置くことはできないのだと思う。まぁ、それは、どこも「フロントライン」というのはアヤシゲであるというだけのことかもしれないが。
JRF2018/5/13036
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keyword: 罪価
何人か(ベーコンとかフランクリンとか)が「心の会計」「罪価計算」をしていたと言及があって、その方法が知りたいと思った。そういう書は日本語に訳されているのだろうか?
JRF2018/5/12426
>アウグスティヌスは信者たちにアリストテレスの本など捨ててしまえと言ったが、フィチーノは『ニコマコス倫理学』を大いに引用した。神の創造物である自然を支配するには、自然を「知の基盤」とみなすべきだという。<(p.86)
私は以前、ドーキンス『利己的な遺伝子』を読んだとき次のようなことを書いていた。
JRF2018/5/18909
[cocolog:87123943]
>聖書に書かれた創造論は真実かどうか…難しいところだが、大きな意味があるはずだと思う。そして、同じように進化論が成り立つように見えることにも「神の意志」、大きな意味があるはずだと信じたい。<
この「自然から学ぶ」という姿勢そのものをアウグスティヌス…そしておそらくカトリックは否定しがちなんだろうな。それは私はキモに銘じておくべきだな。
JRF2018/5/18481
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蛇足的に…。
安倍政権の外交を評価する人が多いようだが、私にはその理由がよくわからない。大きな達成というのは何があるのだろう? あくまでも仮定の話だが、上の本の第7章でウォルポールが減債基金を流用したように、外貨に関して何か「魔法」を使ってできないことをしたとすれば、日本側の外交官などは感謝する場面が多かったかもしれないという予想はできるが、それが今後に与える影響、相手方に与えた印象はどうだったかというと…心胆を寒からしめる感じが私にはある。
JRF2018/5/17280
金融に関しても「野放図な拡大」をしたが、それは、今後どこかで続けられなくなることがわかっている。しかし、破綻が目に見えるようになったとき、当然、安倍政権ではなくて、誰も責任は問われないのだろう。それが悔しい。仮に今、破綻が起きたとしても、首相を交替したからそうなったのだとなるだろう。虚しい。
JRF2018/5/17921
国際金融の世界は複雑怪奇。日本では解散風が吹いていて、今度もある程度勝って、その後すぐに、「破綻」が明らかになれば少しは反省もありうるのだろうが、そういうことがありうるなら、この前の解散のときにあってもよかったので、次回だけわざわざ「破綻」させ日本を痛めつけるというのは是非とも回避して欲しいところ。
JRF2018/5/19796
本当に未来が厳しいものなら、すでに株価等にも反映されてないといけない。そういうのがないのだから、安心はしていいのかもしれない。私は弱く、もう、それを信じるしかない。
JRF2018/5/15991
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受信: 2018-09-28 18:51:45 (JST)
『帳簿の世界史』(ジョイコブ・ソール 著, 村井 章子 訳, 文春文庫, 2018年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4167910608
https://7net.omni7.jp/detail/1106861898
原著は、2014年、日本語単行本は 2015年刊。あるブログで絶賛されていたのに興味をもって買った。
JRF2018/5/18324