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cocolog:90630253

袁珂『中国の神話伝説』を読んだ。気になる「神話」がないか探すため、図書館で借りての流し読み。それらはなかったが、興味深いことをいくつか知れた。 (JRF 1610)

JRF 2019年2月 2日 (土)

『中国の神話伝説 上・下』(袁 珂 著, 鈴木 博 訳, 青土社, 1993年)
https://www.amazon.co.jp/dp/479175221X (上)
https://7net.omni7.jp/detail/1101100875 (上)
https://www.amazon.co.jp/dp/4791752228 (下)
https://7net.omni7.jp/detail/1101100873 (下)

JRF2019/2/28762

気になっている神話が二つある。一つは以前にも述べたもの。

[cocolog:82677859]
>確か黄帝だったか神農だったか、それ以外の皇帝だったかで、皇帝の健康のために、医療のために、「実験動物」的に人口を増やすといった中国神話があったように記憶していたのだが、ググっても見つからない。記憶違いだったのかもしれない。<

JRF2019/2/24239

『列子』を読んでいるとき([cocolog:83935116])にそれらしき記述もあったが、もっとはっきりとした記述だったように記憶している。ただ、もちろん「実験動物」という言葉が使われているわけではなく、示唆するにとどまることは変わらないのだけど。

JRF2019/2/21448

もう一つが、人類起源に関する神話で中央アジアあたりのものだったと記憶している。それは、洞窟に男(猿?)が住んでいて、「人」を食う妖怪の女がやってきて、その男女が結婚して人間の祖になったというもの。何かの本で読んだはず。

JRF2019/2/23043

ネットで、チベットに「観世音菩薩が、神が変化した猿に戒律を授けて、その猿が洞窟で修行していたところ、女魔がやってきてなんだかんだあって妻になり、その子孫から人間が生まれた。」という伝承があるということはわかった。

《チベットの人類起源神話 | Eastasian in peninsula. - 楽天ブログ》
https://plaza.rakuten.co.jp/eastasian/diary/200804220000/

JRF2019/2/29782

ともに「中国」の話なので、今回の本を読んでみた。

結果、この本にはどちらの伝説も書かれていなかった。残念。

以下では、流し読みした中で気になった部分を少しだけ書き出す。ちなみに、中国語から訳した本の常として字が難しく読み方や意味がわからないまま、よく読み飛ばした。申し訳ない。

JRF2019/2/24992

……。

>原始共同体の瓦解と私有制の誕生に伴い、社会に階級分化と人が人を搾取する現象が現れた。そのとき、人類は長期にわたる新しい時代 -- 階級対立の時代 -- を迎えた。<(上 p.29)

>(…)原始人が自然現象を解釈する神話を考え出したのは、実際には強烈な知識欲によるもので、それこそ科学の萌芽にほかならなかったことがうかがえる。<(上 p.59)

JRF2019/2/24201

>神話は空想で作り出したものではあるが、虚妄やデマではなく、唯物論とリアリズムにもとづく積極的ロマンティシズムであることがわかる。現実に対して「革命的態度」を取り、幻想的な事物を徐々に現実的な事物に変えることができ、その結果、「世界を実践的に変革する」ところに、ロマンティシズムの意義がある。<(上 p.60)

JRF2019/2/28631

序論篇はかなり「イデオロギッシュ」で、共産党の「唯物論的歴史観」に沿った主張がなされる。無神論的な共産党支配化で、「神話」の本を出すにはそういう準備が必要だったのかな…と思う。序論篇以外はそこまでイデオロギッシュではない。

JRF2019/2/23288

……。

>炎帝(…神農のこと…)は、農業の神であるだけでなく、医薬の神でもある。(…)炎帝が(…)神鞭でさまざまな薬草をひとたたきすると、有毒か無毒か、寒か熱かなど、薬草のさまざまな性質が明確になる(。…)また、みずから薬をなめて性質を見きわいたが、そのために一日に七十回毒にあたったとも(…いう。)<(上 p.176)

JRF2019/2/20134

神農が嘗[な]めて調べて、やがて毒にあたって死んだという話は知っていたが、鞭で調べるという話は私は覚えがなかった。

JRF2019/2/28832

……。

>(…黄帝の部下の「風后」が…)どこに行こうといつも同一の方向をさすことができるようなものを発明(…)「指南車」を造り上げた。<(上 p.205-206)

羅針盤やコンパスみたいなもの。(おそらく)古代からすでにあったんだね。

JRF2019/2/22404

……。

>帝俊のこれらの後裔のなかで特に触れる価値があるのは、義均である。(…)尭のときの有名な工匠であり、有用なものを多数発明して人びとに大きな幸せをもたらした。(…)しかし、どうしてであるかわからないが、周代(…)になると、鼎(…)に手の指をくわえている義均の姿を描いて、義均はすばらしいあたまと手段を役だてるところがなく、人を邪道に引き込み、人にいかなる利益ももたらさなかったと訴えるようになった。

JRF2019/2/22435

(…)

それが真実であるかどうかわからないが、ほんとうにそういうことであったとすれば、おそらく当時の支配階級が、さまざまな工芸品を作るうち、人びとが日ごとに聡明になり、自分たちの支配を維持するのに不利になることを恐れたからであろう。
<(上 p.252-253)

戦争がなくなると工人は虐げられがちなのかもしれない。直近で『墨子』を読んだ([cocolog:90609108])ときも、私は似た考えをした。

JRF2019/2/28117

……。

>甲骨文では「昔」という字は(…)であり、太陽の上か下に波が逆巻く光景を描いている。かつて恐るべき洪水に襲われたときがあり、けっして忘れてはならないという意味である。<(上 p.332)

洪水伝説が各地にあるのは有名だね。でも「昔」が洪水をそのまま意味するというのははじめて知った。深いな…。

JRF2019/2/20836

……。

>さらに南に行くと、丈夫国である。この国の人はみな男性で女性は一人もいない。(…)この国の人は生涯独身であるが、どの人も子どもを二人ずつ生むことができる。その二人の子どもは、生まれたばかりのときは単なる影にすぎず、その影が凝固して形をなすと、生んだ親は死んでしまう。二人の子どもは腋の下の肋骨の間から生まれるという説もある。<(上 p.389)

JRF2019/2/26408

『旧約聖書』の『創世記』でエヴァが「肋骨」から作られたことを思い出す。また「影」に近い言葉も関係していた。はじめ男しかいないというのにも近い。これは偶然なのだろうか?

他に、ヤマトタケルを思わせる女装をしたという二郎神(灌口二郎)の話(上 p.397)や、ヨセフのように無実で不倫の疑いをかけれた杜伯の話(下 p.96)もある。もっと知っている人は似た話というか、いろんな物語の元型を見出せるのだろう。

JRF2019/2/25425

……。

下巻はほとんど言及しないことになってしまった。ちなみに下巻の夏の「歴史」を読んでいると、その実在を疑う「学問的姿勢」には逆に信がおけなくなってくる。

いろいろな原典に基づいているとはいえ、多少、元小説家の著者の創作も入ってはいるのだと思う。そのためか読みやすくわかりやすい。それは混乱した中国神話の実情に必ずしも沿うものではないかもしれないが、私のような興味本位の読者にはちょうど良い感じだった。

JRF2019/2/21018

修正 「気になる」→「気にしている」。

JRF2019/2/27866

……。

……。

追記。

上で『創世記』に言及したところに関して、以前に↓でブログ記事にしている。ただ、ヘブライ語の単語において、3語根のうち2語根が同じだから「似ている」という判断は、今ではしないかな…。

《『創世記』ひろい読み − 神の像・似像》
http://jrf.cocolog-nifty.com/religion/2006/01/post_1.html

JRF2019/2/76719

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