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井原西鶴『西鶴諸国話』の『大晦日は合はぬ算用』、または太宰治『新釈諸国噺』の『貧の意地』。これ「美談」じゃなく、小判一枚取られたのを知ってとりつくろいで二枚出したのを、さらに一枚とられたという話じゃないのか? (JRF 3812)
JRF 2019年4月28日 (日)
《太宰治 新釈諸国噺 - 青空文庫》
https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/2269_15103.html
私はこの話を知ったのは 2019年3月21日 の NHK FM ラジオ『浪曲十八番「西鶴諸国話より武士気質」松浦四郎若』にて。
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話を要約すると…、
酒の席に小判10枚が置かれていたが、1枚なくなった。服を脱いでまで探すことになったが、一人の貧乏侍が脱ぐのを拒否する。小判1枚持っているが、それは別のところで手に入れたものだ、身の潔白を示すため切腹するとまで言い出す。
そんなこんなのうちに、1枚、行灯[あんどん]の影から出てきた。と同時に台所からも1枚出てきた。合計11枚、増えている。誰かが増やしたのだということになったが、名乗り出ない。
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小判10枚の主人は、1枚を一升枡[いっしょうます]に入れて隠し、そう述べて出口に置き一人づつ帰した。あとで確かめると、その1枚は消えていた。浪曲では最後に帰ったのが切腹しようとした者だった。
…というもの。
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見るに見かねて小判が二枚出てきたところと、名乗り出ない奥ゆかしさが「武士気質」と読める形にはなっている。
このとき可能性がいくつかある。
JRF2019/4/283274
1. 主人やおかみさん以外の誰か一人だけが一枚出し、その本人が一枚を取っていった。
2. 主人とおかみさんさんが一枚ずつ(計二枚)出し、「どろぼう」が二枚取っていった。
3. 主人かおかみさんが一枚だけ出し、切腹しようとした者が一枚取っていった。
4. 主人とおかみさんが二枚(別々に)出し、「どろぼう」が一枚、切腹しようとした者が一枚取っていった。
JRF2019/4/282981
1 がもっとも穏当で、パッと見、こう読めるようにはなっている。しかし、そうではないという示唆がある。一枚出したものがどうして名乗り出ないかというと、二枚ともが後から出したものかもしれないと出した本人(達)が疑っているからだろう。
JRF2019/4/288586
一枚を枡に隠した主人は、その一枚が取られないことも予想したはずである。が、取られた。主人が一枚を出したなら、そのような申し出をしないはずであるとして、最後に帰った者が、自分のために残されたと解釈し、かたじけなくももらっていったということもありえるだろう。これが 3, 4 の解釈になる。浪曲はこれを示唆していた。
JRF2019/4/286143
しかし、これは公開の「ゲーム」のため、2 の可能性は皆が疑っている。その 2 を示唆するかもしれないことを、切腹しようとまでした者が選ぶだろうか? 「どろぼう」が一枚取ったが、さすがにこうなって二枚取るのは恥じるだろうと信じるなら、一枚は残るはずである。切腹しようとした者を最後に行かせなければ、そうなるはずである。しかし、恥をかいた切腹しようとした者を最後に行かせるという選択自体が、その者に一枚残っていれば取れ…と促すものであったということではないか?
JRF2019/4/285284
切腹しようとした者が取ったか「どろぼう」が取ったかはわからない。だから、切腹しようとしたものは取っても何ら恥ることはない。そう促したということは、二枚出したものは実は通じあっていたと解釈すべきで、それは主人とおかみさんということになるのではないか。4 が正解ではあるまいか?
JRF2019/4/283478
「通じあっていた」と書いたがそれはそれほど明らかでなかった。「どろぼう」がもしいなくて、最後に11枚残っていれば、主人かおかみさんのどちらかが一枚出したことを告白して済んだであろう。しかし、二枚なくなったことで、主人とおかみさんは、それぞれが一枚出したことを悟り、「そうかもしれない」と通じあっていたことがわかったということになるのではないか?
JRF2019/4/288240
…もうちょっとちゃんと分析できればいいんだけど…、品性卑しい私程度のものはこれぐらいでお茶をにごしたい。
JRF2019/4/283113
《高等学校古典B/西鶴諸国ばなし/大晦日は合はぬ算用 - Wikibooks》
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JRF2019/4/286694