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マルクスの「無限蓄積の原理」とは、(構造成長がない場合、)資本家たちが優位性を持続するため、または、貯蓄以外に使い道がないため、毎年さらなる資本を蓄積したがる場合、収益率の低下で競争を激化させ苦しむか、労働者の取り分をゼロに近付けるかしかなくなる…というものである。 (JRF 1172)

JRF 2021年12月18日 (土)

おそらくこのページをググって辿り着いた方はおそらくピケティ『21世紀の資本』(参: [cocolog:93195641])を読んでいるのではないか。マルクスの「無限蓄積の原理」とは、その本に載ってるピケティの造語のようなものらしい。最初のほうのページで出てきて、それで気になってググってこのページに辿り着いたのであろう。そういう人は、236 ページまで読めば詳しい説明が出てくるのでそこまで読めばよいだろう。

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『21世紀の資本』(トマ・ピケティ 著, 山形 浩生 & 守岡 桜 & 森本 正史 訳, みすず書房, 2014年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4622078767
https://7net.omni7.jp/detail/1106469850

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ただ、もしかすると、この本の読者が別の文脈でこの言葉を使っているかもしれず、そういうときのこの本を持ってない人のために、ピケティの言葉の部分を大きく引用して示しておこう。

JRF2021/12/181205

……。

まず「はじめに」から。

>マルクスの主要な結論は、「無限蓄積の原理」とでも呼べるものだ。つまり、資本が蓄積してますます少数者の手に集中してしまうという必然的な傾向だ。これがマルクスによる資本主義の破滅的な終末予測の基礎となる。資本収益率がだんだん下がってくるか(そうなると蓄積の原動力がなくなり、資本家同士の暴力的な紛争が起こる)、国民所得における資本の比率が無限に上昇するか(そうなると遅かれ早かれ労働者たちが団結して反乱を起こす)。いずれにしても、安定した社会経済的、政治的な均衡はあり得ない。<(p.11)

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……。

次にメインの部分に必要な二つの法則について。

>資本主義の第一基本法則 -- α = r × β <(p.56)

α は「国民所得の中で資本からの所得の占める割合」… 30% とか。
r は「資本収益率」… 5% とか。
β は「資本/所得比率 (総資本ストックが国民所得の何年分に相当するか)」… 600% とか。

これは定義のようなもので、常に成り立つ。

JRF2021/12/189466

>資本主義の第二基本法則 -- β = s / g <(p.173)

β は「資本/所得比率 (総資本ストックが国民所得の何年分に相当するか)」… 600% とか。
s は「貯蓄率」… 12% とか。
g は「成長率」… 2% とか。

これは常に成り立つわけではないが、経済はこれを満たす方向に動くと想定できる。

JRF2021/12/183446

……。

では、メインの部分をちょっとはしょって引用する。

JRF2021/12/184220

>マルクスにとって「ブルジョワが墓穴を堀る」おもなメカニズムは、私が「はじめに」で「無限蓄積の原理」と称したものに起因するメカニズムだ。資本家たちがかつてない量の資本を蓄積したことが、結局は否応なく収益率(すなわち資本収益)を低下させ、最終的には投資家自身の転落を招くということになる。マルクスは数学モデルを使わなかったし、かれの散文は必ずしもわかりやすくなかったので、マルクスの考えについて断言はしにくい。だが論理的に一貫性を持ってマルクスの思想を解釈する方法がひとつある。動学法則 β = s/g を、成長率 g がゼロ、あるいはほぼゼロである特殊な例の場合について検討することだ。

JRF2021/12/186306

g は長期的な構造成長率で、生産性の成長率と人口増加率の和なのを思い出そう。マルクスの脳内では(…)産出が増加したのは、個々の労働者を支える機器と設備が増えるからで、(一定量の労働と資本に対する)生産性自体が増加したからではない。現在では長期的構造成長は、生産性の成長がないと無理だとわかっている。だがマルクスの時代には、まだ時間も十分にたっておらず、優良なデータもなかったので、これは明らかでなかったのだ。

JRF2021/12/187664

構造成長がなく、生産性と人口の成長率 g がゼロの場合、マルクスが述べたものととてもよく似た論理的矛盾が出てくる。貯蓄率 s がプラス、つまり資本家たちが権力を増して優位性を持続させるため、あるいは生活水準がすでにやたらに高い(だから貯蓄する以外使い道がない)という理由で、毎年さらなる資本を蓄積したがる場合、資本/所得比率は際限なく増加する。

JRF2021/12/189632

もっと一般的に言うと、g がゼロに近い場合、長期的資本/所得比率は β = s/g は無限大に向かおうとする。そして β がきわめて大きい場合、資本収益 r はどんどん下がり、ゼロにいっそう近づく。そうでなければ所得の資本シェア、α = r × β が最終的に国民所得すべてを食い尽くす。

JRF2021/12/183908

つまりマルクスが指摘した動学的矛盾は、たしかに本物の困難を示すのだ。唯一の論理的な出口が構造成長であり、それが資本蓄積のプロセスを(ある程度)均衡させる唯一の方法なのだ。β = s/g の法則が明示しているように、生産性と人口の永久的な成長のみが、永続的に追加される新たな資本と釣り合いをとれる。

JRF2021/12/182492

そうでなければ資本家たちはまさに墓穴を堀る。収益率の低下と必死で戦おうと互いに苦しめあうか(たとえばドイツとフランスが1905年、1911年のモロッコ事件で行った、最も優れた植民地投資をめぐる戦いのように、最高の植民地投資をめぐって戦争を引き起こしたりする)、あるいは労働に対して、国民所得のシェアがますます減っても我慢しろと強要するか(これは最終的にプロレタリア革命や資産強制収用につながる)。いずれにせよ、資本は内部矛盾によってそこなわれる。
<(p.236-237)

JRF2021/12/180312

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