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技術系電子本。Python による仏教社会シミュレーション( https://github.com/JRF-2018/simbd )の哲学的解説です。令和4年3月11日発売。

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cocolog:93323618

乾&阪口『脳の大統一理論 - 自由エネルギー原理とはなにか』を読んだ。統合失調症の説明などがあった。感覚減衰が起こらないことによる自己主体感の喪失、予測信号の精度が高まりで事前の信念が修正できず「奇跡」が起きてると見える…など。 (JRF 3509)

JRF 2022年2月20日 (日)

『脳の大統一理論 - 自由エネルギー原理とはなにか』(乾 敏郎 & 阪口 豊 著, 岩波科学ライブラリー 299, 2020年12月)
https://www.amazon.co.jp/dp/400029699X
https://7net.omni7.jp/detail/1107152120

帯に相当する部分には「見る、走る、喜ぶ、考える…。すべての脳機能は推論である。天才神経科学者フリストンの理論を解説。」…とある。

JRF2022/2/207685

最近、仏教に関心を持っていて(↓)、私がわざと見落としているその唯心論的であることと、内観していく方向との関係から、たまたま、この本を発見し、脳のコンピュータシミュレーションに興味を持って、読んでみた。私は統合失調症で入院したことが何度かあり、その病いにも言及があるというのも、興味を持ったポイントだった。

《JRF-2018/simbd: シミュレーション仏教 - Buddhistic Philosophical Computer-Simulation of Society》
https://github.com/JRF-2018/simbd

JRF2022/2/209153

……。

現状でも、脳はコンピュータに勝っている部分がある。それはきっと並列処理にとても有利なアルゴリズムがあるはずだからだと私は思っている。そういうのが書いてあるかと思ったら、そうではなかった。

目は平面で像を捉え、それを脳は脳内で三次元のものだとして扱う。そういうのをこの本では「推論」と言っていて、論理学的な推論はまた別の話として出てこないようだ。ただ、目的地に向かうまで途中のポイントまでの小目標に分ける…ような「推論」は出てくる。

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感覚で得られた刺激について、それを s などとして表すが、それが刺激内容なのか強度なのか、その複合なのか、その辺は、この本の限りではあいまいだったように思う。

載ってる数式に難しいものはない。付録の数学的記述についても数式は簡単なものにおさえられていた。

JRF2022/2/206298

……。

本の議論の雰囲気を伝えるために、ところどころ少し長く引用する。

>私たちの脳は、観測した感覚情報に基づき、事前確率分布、条件付き確率分布を利用して、最大事後確率推定によって外環境の状況である(…)「隠れ状態」を無意識的に推論しているということになる。自由エネルギー原理に基づく議論によると、脳はこの推論を非常に単純な方法で行っている可能性がある。

JRF2022/2/200960

(…)

推論を始めるとき、脳はまず、隠れ状態について何らかの想定(これを信念と呼ぶことがある)をおく。そして、その想定が正しければこんな感覚信号が得られるのではないかという予測信号を生成する。そして、この予測信号と実際に受け取っている感覚信号を比較して両者のずれを計算する。このずれを「予測誤差信号」という。(…)予測誤差がある場合は、その予測誤差が小さくなるように隠れ状態の想定を更新する。(…)このような計算を繰り返して、最終的に予測誤差がゼロになったときに、隠れ状態の推定結果として、知覚が得られると考えるのである。
<(p.16)

JRF2022/2/205553

>-log p(s) は、感覚信号 s が観測される確率 p(s) が小さいほど(つまり、信号 s がめったに観測されないときに)大きな値をとり、「シャノンサプライズ」と呼ばれる。<(p.20)

JRF2022/2/204200

世界の生成モデルによって決まる「事後確率」。似せようと作った確率の元の確率との「距離」的なものを「ダイバージェンス」と呼ぶが…

>(ヘルムホルツの自由エネルギー) = (認識確率と真の事後確率のダイバージェンス) + (シャノンサプライズ)

(…)

この式こそ、自由エネルギー原理に基づいて知覚の仕組みを理解する上でもっとも重要な式である。

JRF2022/2/208940

(…)

ここで、シャノンサプライズは感覚信号のみで決まり、推論を行う知覚の過程では定数とみなせることに注意すると、二つの確率分布のダイバージェンスを最小にする認識確率を求めるには、自由エネルギーを最小にするような認識確率を求めればよいことになる。(…)自由エネルギーを最小化するように推論を行うこと、これが自由エネルギー原理である。

JRF2022/2/207728

(…)

自由エネルギーを小さくするには、第1項のダイバージェンスだけでなく、第2項のサプライズを小さくするという手もある。サプライズを小さくするためには感覚信号 s を変化させなくてはならない。そのままでは感覚信号は変化しないので、感覚信号を変化させるためには自分が動く必要がある。このことから「どのように運動すれば自由エネルギーを最小化できるか」という新しい問いが生まれる。

JRF2022/2/202759

言い換えれば、自由エネルギー原理は、感覚信号から知覚をもたらす過程を説明するだけでなく、運動を生成する過程を説明する理論としても機能するのである。具体的には、予測された感覚信号を再度観察することにより、生起確率の高い感覚信号が観察されるので、サプライズが低下するのである。このように世界から受け取る信号を自分が予測する信号に適合するように自分の身体を動かすことを、フリストンは「能動的推論」と呼んだ。
<(p.21-23)

JRF2022/2/203179

>たとえば、視野の周辺に何か虫がいるのではないかと推論したとする。すると、その虫を見ようとして視線を移動させる。これによって、(推論内容である)虫の網膜像がより観測しやすくなる。したがって、虫が視野の周辺にぼんやり映っていたそれまでの網膜像を観測する確率よりも、虫がはっきりと映っている網膜像を観測する確率が大きくなるため、その結果として、感覚信号に関するサプライズが小さくなるのである。これが能動的推論の典型例である。<(p.24)

JRF2022/2/200584

上が、基本的なファクターだが、他にも理論には重要な考え方がある。そのいくつかが、予測または感覚の「精度」のコントロールと、自分が起こす動作に対する「感覚減衰」である。

JRF2022/2/201675

>目標に向かって手を伸ばす到達運動、コップなどを手でもつ把持運動(アフォーダンス)、自己の行為の生成と他者の行為の理解(ミラーニューロン)(…)さらに高いレベルでは、今日は休みの日であるとか、誕生日であるといった文脈も考慮した、認知的な意味も含めた動作の決定の問題も、同じ枠組で議論される(…)。自由エネルギー原理では、このような階層的な運動処理過程すべてを「予測誤差の最小化」と「精度制御」という同じ原理で説明するのである。なお本書では割愛するが、最適な精度の制御は自由エネルギーの経路積分(ファインマン積分)を最小化することによって実現される。<(p.51)

JRF2022/2/209407

>能動的推論では制御状態に対する事後信念から行為が決められ、行為を通じて環境から成果が観測される(第4章)。外環境と内環境からなる世界の隠れ状態(外部状態)は、それぞれ外受容感覚と内受容感覚の感覚信号に基づいて推論され、その結果として得られる予測は、自己受容感覚反射と自律神経反射を働かせて、それぞれ好ましい外環境と内環境を実現する。この過程において望ましい感覚情報を選択するうえでも精度は重要な働きを担う。<(p.121)

JRF2022/2/209734

……。

>データから仮説やモデルを作り出すことを「アブダクション(仮説生成)」という。<(p.83)

JRF2022/2/202468

>アブダクションは自然科学に限った話ではない。私たち、そして、私たちの脳は、さまざまな現象に対して仮説を立て、それによって現象を理解しようとする。それでは、私たちの脳はどのように仮説を生成するのだろうか。

自由エネルギー原理によれば、その答えは「人間は世界に関する不確実性の最小化を目指して仮説を立てる」である。脳は、世界で起きる現象の特性を表すさまざまな生成モデル(仮説)を作り、その生成モデルが正しいことを閉めす証拠をかき集めようとするのである。ある哲学者はこのことを「自己証明する脳」と呼んでいる。

JRF2022/2/209650

自由エネルギー原理では、このような理解のプロセスは二段階で実現されていると考える。具体的には、第一段階で現象を説明できる生成モデルを学習する。そして第二段階で、得られた生成モデルをできるだけ単純な形にすることを試みる。
<(p.84)

JRF2022/2/206494

アブダクションに関しては、たまたま仏教論理学の「因明」を考察する [cocolog:93262667] の中で出てきた。

そこでは、「因明」は、ある述語 Q の可能性を論じる価値があるかを判定する第一段階と、必然領域を決める P について、P(x) である限り Q(x) の可能性があることを示す第二段階を要するものと今の私は考えるに致っている。

JRF2022/2/204841

これを上のアブダクションと重ねるとするとどう考えれば良いのか。いろいろな述語について意味のある必然領域 P を選び出すのが、「生成モデルの学習」になり、「単純な形にする」のは、Q を単純な可能性で捉える…そう捉える価値があると判定すると同時に…という感じだろうか。

JRF2022/2/206196

>ベイズモデル縮約(モデルに含まれる変数(状態や感覚信号)から冗長なものを取り除いて、元のモデルを縮約したモデルを構成すること)<(p.90)

「因明」を考える際、可能性の論理を考えていったのだが、そこでは「P ならば Q」のとき P を落として「Q の可能性がある」とだけ言っていいのでは…つまり、前提の縮約をしていいと考えた。そことここに関連はあるだろうか?

JRF2022/2/204542

……。

統合失調症について。

>神経科学の研究においてドーパミンがニューロンの活動を促進することはこれまでに知られていたが、ドーパミンが信号の精度を変えるという観点は自由エネルギー原理の理論において新しく提案されたものである。このような提案により、ドーパミンと脳内信号処理の関係が明らかになっただけでなく、ドーパミンの過剰や欠乏が精神疾患を引き起こすメカニズムに対して合理的説明を与えることができるようになった。そして、フリストンらの研究によって2014年頃から計算論的精神医学という分野が生まれ、同名の国際誌も創刊されている。<(p.32-33)

JRF2022/2/208245

>統合失調症は、幻覚や妄想などの陽性症状や意欲の低下などの陰性症状が見られる精神疾患である。統合失調症の患者では、自分が行った行為であるにもかかわらず、他人にさせられたと認知する妄想、すなわち「させられ体験」が生じることが知られている。

(…)

(…健常者の場合…)感覚減衰が起こると自己主体感が生じ、(…患者の場合…)感覚減衰が起こらないとさせられ体験が生じるのである。
<(p.100)

JRF2022/2/207294

>以上で述べたことに基づき、統合失調症の症状は次のような二階層のモデルによって説明できる(Adams, et al., 2013)。まず第一階層では感覚減衰の低下により感覚信号が支配的になり予測信号の影響が薄まる。その結果、力マッチング課題における力の過小評価が生じなくなるほか、能動的推論に失敗して無道が生じる。

JRF2022/2/206378

次に第二階層(上位層)では、この失敗を補って運動を起こすために、ドーパミンの働きにより精度の高い予測信号が生成される。こうして予測信号の精度が相対的に高くなると、図21に示したように予測信号による信念の修正はほとんど起こらなくなり、その結果、事前の信念のみに従った、現実から乖離した知覚や認知を得ることになってしまう。

これが統合失調症で見られる幻覚や妄想の原因であると考えられる。
<(p.102)

JRF2022/2/202131


私の経験から言えば、主観では、「させられ体験」には別の「神」などの要素が絡んで来たのだった。無動はいろいろ考えてまたは絶望感からそう見えるだけ。自己主体感が減じていると言われればそうかもしれないが。

「奇跡」が生じているという感覚は、「第二階層」の失敗なのだろうか。予測と違うことを無意識に排除しまくるので、予測通りの「奇跡」が起こっているという認識になる。…と。

JRF2022/2/202072

主観的には納得しがたいが、説明はできているのかもしれない。(こう書くと、貧乏ゆすりが生じて、「説明できてない」という抗議が、自己主体性薄く、今でも生じるのであるが…。)

JRF2022/2/205403

……。

自閉症について。

>自閉症の諸特性は、予測信号(事前の信念)の精度が低いことに起因しているのではないかと言われている。(…)予測信号によって常にサプライズが起こっている(…)。<(p.103-104)

「自閉症」と言われる子、予測は自分の中では結構している感じなんだけどね…。確信度が低いのだろうか…。

JRF2022/2/200262

……。

生物の進化などについて。

>感覚エントロピーを最小化するためには、個体がそれぞれの生態的ニッチの特性を反映した生成モデルをもち、それに応じて最適な行動をとらなくてはならない。そして、このように感覚エントロピーを最小化した個体においては、その個体に特有の環境における規則性が埋め込まれることになる。<(p.115)

JRF2022/2/204905

サプライズがないようにする。単純でいて正確になる。…機械のようになることが生物の目標ということだろうか? それは違う気がする。それだけではないように思う。ただ、もしかすると、脳というのはそういうものに特化することでできはじめた器官なのかもしれない。それ以外の機能は脳以外のところに集中しているのかも。脳は個体の存続や、継承に関心があるが、例えば、腸はそれ以外の原理を受け容れてる…みたいなことはあるのかもしれない。

JRF2022/2/207910

……。

>フリストンらは、精度が向上することが意識に上るきっかけと考える。(…)外環境の感覚入力に対する意識は、外受容性の知覚から生じるのではなく、その知覚と同時に内受容感覚から生じる信号の精度が向上したときに生まれるのではないかと考えている。<(p.122)

体調を維持するホメオタシスに対し、環境が変化したときに次のホメオタシスに向かうのを「アロスタシス」というらしいが、「アロスタシス」的なものが内臓で稼動してはじめて「知覚」が生じるということだろうか…。

JRF2022/2/205527

……。

今回は、いつも以上に引用が主になってしまった。ただ、書かれている内容の一部を紹介したに留まるので、興味を抱いた方は是非、本書を購入していただきたい。

JRF2022/2/208076

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