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長沼伸一郎『世界史の構造的理解』を読んだ。「直観的方法」シリーズで理系に有名な著者だが、読む前はとうとう陰謀論にはまって奇書を書くよう利用されたか…と思っていたが、読んでみると大変な「預言書」だった。 (JRF 1131)
JRF 2022年7月 1日 (金)
最近、ブルーバックスの長沼伸一郎『経済数学の直観的方法 マクロ経済学 編』と『経済学の直観的方法 確率・統計 編』と『物理数学の直観的方法』を再読した。読み終ったころ、長沼氏の新刊が出ていることを知った。これも何かの縁かと思って買って読むことにした。
読む前は、「直観的方法」シリーズで理系に有名な著者だが、とうとう陰謀論にはまって奇書を書くよう利用されたか…と思っていた。そういう著者はわりといるから。しかし、読んでみると大変な「預言書」だという感想になった。
JRF2022/7/15863
理数系武士団の話などは、理数系の者を鼓舞したいというだけのことで、割り引いて読むべきだろう。これまでの本にも出ていた話題と重なりもある。しかし、トクヴィルの紹介などは見るべきところだと思った。
JRF2022/7/16839
……。
長期的願望より短期的願望が重視され、社会の上のほうだけで物事が回るような「縮退」・「コラプサー状態」は、それに移行するときエネルギー…金の流れを生むが、それは破壊的過程なので良いものではない。歴史的に何度かコラプサー状態になってきたが、今回はグローバルな規模でそれが起こりかけている。そういう危機にある。…という。
それは映画『マトリックス』のような「快楽カプセル」に人々が入るような状況を目指しているといったようなことらしい。
JRF2022/7/10999
>そしてここで大きな皮肉は、「快楽カプセル」は環境問題の面ではむしろプラスに働き、それへの究極的な解決策としての一面をもっているということである。(…)それだけではない。これは感染症対策としても究極的に優れたシステムであり、そしてそこでは民族対立や領土問題なども意味をもたなくな(…る。…)格差社会に対する究極的な解答(…ともなる。)<(p.125-126)
JRF2022/7/16955
私も年齢はいってるが「ニート」でその選択にはそのほうが「効率的」だからという側面がないではない。つまり、それ以外のことをして、果たして本当に社会に環境に給料分の貢献ができるか疑問である…というような考えもある。
JRF2022/7/13041
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短期的願望がより集まればそれは長期的願望になるというのがアメリカの基本的なスタンス…現代の「見えない皇帝」に連なるもの…で、それといやいや長期的願望は別に必要だと考える勢力は未来に衝突する危険があるようだ。
それを WW2 の状況に比す。
JRF2022/7/17807
>当時のドイツには二つの軍組織が並立していて、一方は「国防軍」、そしてもう一方はいわゆる "SS" すなわち「武装親衛隊」でる。両者は外からみれば似たようなものだったが、(…)もし国内を二分する内線が起こったならば、そのときはこの二つの軍隊は敵となって戦うこともあり得たはずである。<
そして、米国の国防軍などと、GAFA は未来においてちょうどそのような関係にあるかもしれないというのだ。
JRF2022/7/10846
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著者は第2次大戦後のタイムスパンは経済戦争のためか、1/10 の時間進行と見なすと「予言」ができるようになると見る。その10倍のタイムスパンで見ると冷戦は第1次世界大戦の膠着状態の再現だし、今は、アジア金融危機などを含む今の経済戦争は第2次世界大戦に比すべきなのだという。そして、宇露戦争と新型コロナの今は WW2 のスターリングラード攻防戦に当たるそうだ。
そこからすると、この後、再び世界全体の戦略が本流に復帰するには 5年から10年かかりそうだということである。このとき何が起こるか。
それについて、私が奇妙な「予言」を Twitter などでした。
JRF2022/7/12468
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○ 2022-06-29T10:03:34Z
核ハンデでロシアがウクライナに勝利すれば、それを咎めるために核(テロ)でロシアに報復し共倒れになる国を国際社会は欲するかもしれない。その開発能力があり材料がある国は限られるがそこに日本は入ってくる。原発再稼働は今後、そのリスクも睨まねばならなくなると思う。
<
意外に宇露戦争では核は使われずむしろ5年か10年して核が使われるような状況になるのかもしれない。
JRF2022/7/12476
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西欧世界は何度か「コラプサー状態」の危機に直面してきたが…。
>ところが、ここでこの泥沼のサイクルに終止符を打って、結果的に西欧世界をコラプサー状態から脱出させたのが、イスラム勢力の台頭だった。イスラム文明は宗教の力によって商業的退廃に対する強い耐性を備えており、西ローマ帝国の廃墟に残っている商業文明に接触しても、その退廃に染まって軍隊の腐敗や弱体化を起こすことなく、腐ったゲルマン人の軍隊を一掃してたちまち地中海全体を勢力圏に収めてしまったのである。<(p.180)
JRF2022/7/16278
イスラムは西欧が流布しがちな「常識」と違い、現代によく似た自由な商業国家の時代にそれに対する「ワクチン」的なものとして登場している。
JRF2022/7/14090
>(…現代の…)世界の国家は、富裕層への課税を行おうとしても、それが「タックスヘイブン」へ逃げてしまうために国が貧乏になってしまう恐れがあってそれができない、ということに悩んでいるが、意外なことに砂漠という特殊環境のもとでは、(…イスラム誕生時の…)二千年も前にそれとよく似た問題が発生してしまっていたのである。<(p.188)
女性への厳しい態度も、元は自由だった女性がむしろ望んで受け容れた可能性すらあるのだ。
JRF2022/7/18147
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商業の盛えたところで誕生したユダヤ教もキリスト教もイスラム教も一神教である。
>なぜかというと、(…一神教の逆の…)多神教というものはとくに金の力と結びつくと厄介で、極端な話、ある金持ちが自分に都合の良い神様を「スター発掘」の要領でフィーチャーし、金の力で巨大な神像などをつくって庶民をその壮麗な演出に誘い込んで虜にしていけば、法律以上に強大な力を自分のほうに引き寄せてしまうことが可能になる。<(p.209)
JRF2022/7/11726
keyword: 相続税 ソドム
同性愛と相続税とソドムとゴモラの話をたまに私はするが、税から逃れることが「美徳」となるような自由な環境では相続税を逃れるための幼児同性婚の強制なども起きかねなかったと思う。この部分、それは宗教的・多神教的文脈でこそ起こりうるという話だろう。
JRF2022/7/18060
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士大夫、紳士、ウラマーなど短期的願望よりも長期的願望を維持しやすい下級貴族が活躍するような格差社会のほうが良いのかもしれないようなことを著者はほのめかす。それを上と合わせて宗教と格差社会の再導入を支持するのか…というと著者のスタンスに関してはそのようなことは必要ないと考えているらしい。
JRF2022/7/12804
>(…トクヴィル…)彼はこのように言う。まず現代の合理的な無神論的社会では、科学などが宗教の代替物としてその代わりを務めており(十九世紀の一時期には国家もそういう存在で、日本も昭和の国家主義の時代には愛国心が宗教の代替物となっていた)、それによって人々はある程度まで神なしですませることができている。そのため一見すると科学などは宗教の対立物なのだが、ところが(…)そうしたものを重視して社会の上位に置くという態度を貫くことが、(…)「本来の信仰の世界」に戻っていくための唯一の道(…なのである。)<(p.232)
JRF2022/7/11147
要は、「信仰」を取り戻すかもしれないが、それが容易でない者は「科学信仰」を促せばよいということで、これなら著者も可能だということだろう。
私は思いっきり宗教に軸足を置いているのだが…。
『「シミュレーション仏教」の試み』(JRF 著, JRF 電版, 2022年3月11日)
https://www.amazon.co.jp/dp/B09TPTYT6Q
JRF2022/7/11534
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そういった世界史的状況で日本は中国などと陸軍的に戦っても勝てる見込みはないが、理系普遍的発想に基づく海軍的戦いなら勝機はあるらしい。さしあたり日本がすべきなのが…
>日本人の戦略的思考の弱点の一つは、「予備戦力」という概念がないことであるが、身につけることはおそらく可能である。<(p.283)
JRF2022/7/14066
「予備戦力」は普通の日本語の語感とはちょっと違うようである。そこは本を読んで知っていただきたい。
それに限らず、この本は良い本なので読んでいただきたい。上で私が語ったアウトラインは全然この本の核心には触れられていないと思う。この「ひとこと」では私の意見と混ざってよくわからなくなった部分もあると思う。その夾雑物で満足せず、ぜひ原著に当たっていただきたい。
JRF2022/7/13714
『世界史の構造的理解 - 現代の「見えない皇帝」と日本の武器』(長沼 伸一郎 著, PHP 研究所, 2022年7月)
https://www.amazon.co.jp/dp/4569852254
https://7net.omni7.jp/detail/1107308070
JRF2022/7/10331