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cocolog:93653643

小野善康『資本主義の方程式』を読んだ。流動性プレミアムとは別に資産(選好)プレミアムがあるとして区別し、強い資産選好がデフレギャップを大きくし、昔の成長経済と今の成熟経済の違いをうむとする。 (JRF 5844)

JRF 2022年8月 2日 (火)

『資本主義の方程式 経済停滞と格差拡大の謎を解く』(小野 善康 著, 中公新書 2679, 2022年1月)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121026799
https://7net.omni7.jp/detail/1107261407

この本を読んだキッカケは、小島寛之 氏のブログで「絶賛」されていたから。

JRF2022/8/24229

《酔いどれ日記15 - hiroyukikojima’s blog》
https://hiroyukikojima.hatenablog.com/entry/2022/02/24/040233

>多くの人必読の経済学書だと思うので、本格的な紹介は後日、「酔いどれ日記」ではなく、ちゃんとしたエントリーをするつもりだ。

JRF2022/8/21932

この本は、たった一つの方程式を使って、不況やバブルや格差や円高不況について一刀両断にするものだ。「一刀両断」本というのは、たいてい、勢いだけの目も当てられないデタラメ本にすぎないものだ。でもこの本は、きちんとした整合的な経済モデルにのっとっているので、そういうまがいものとはぜんぜん違う、ということを(経済学者のはしくれとして)太鼓判を押しておく。

JRF2022/8/20113

《資本主義の方程式 - hiroyukikojima’s blog》
https://hiroyukikojima.hatenablog.com/entry/2022/03/10/152553

《ケインズ消費関数のどこが間違いか? - hiroyukikojima’s blog》
https://hiroyukikojima.hatenablog.com/entry/2022/03/19/202736

JRF2022/8/20892

《国際経済の方程式 - hiroyukikojima’s blog》
https://hiroyukikojima.hatenablog.com/entry/2022/06/30/024226

JRF2022/8/27861

……。

この本の基本は、流動性プレミアムとは別に資産(選好)プレミアムがあるとして区別するところにある。強い資産選好がデフレギャップを大きくし、昔の成長経済と今の成熟経済の違いをうむとする。

JRF2022/8/26025

……。

……。

ここからはいつもどおり、「引用」しながらコメントしていく。

JRF2022/8/26905

……。

日本は巨額の財政赤字を積み上げている。その反面には(ゆうちょなどで間接的に)国債を保有する国民が多くいる。…

JRF2022/8/23088

>政府が公共サービスの充実を図るために、必要な増税をしようとすれば、国民の多くは無駄だ非効率だと騒いで反対する。カネはもっと欲しいし減税も給付も大歓迎だが、公共サービス充実のための税金負担は嫌だ、ということだ。背景には、モノよりカネが欲しいという資産選好がある。日本政府は、公共サービスを減らすとともに巨額の財政赤字を積み上げて、国民がもっとも欲しがるカネを大量に提供しているという意味で、民意を忠実に反映した非常に民主的な政府であるとも言えよう。<(p.15)

JRF2022/8/24201

2009年 [aboutme:108296] で>日銀も金利を上げれるなら上げたい<…と書いたが、そうではなく、「老人たち」の資産選好のため、低利でとにかく金利がなくても貸出額だけは増やしたい…みたなものがあったのだろうか?

JRF2022/8/25814

……。

>成長経済では、人々が貯蓄を行うのは、今の消費を減らしてでも将来買いたいモノがあるからである。そうであれば、将来時点では、人々が貯蓄した分を必ず消費すると見込めるから、企業は将来の生産設備拡充のために、安心して現在の消費を増やす。こうして、貯蓄による消費の減少は、同時点での企業の投資増加によって補われ、総需要が不足することはない。(…)そのため、成長経済では「貯蓄は美徳」とされてきた。

しかし、このシナリオは成熟経済では成り立たない。

JRF2022/8/28542

成熟経済では大きな生産能力を備えて大量消費を実現しているため、人々の消費意欲が低下して資産選好が相対的に強まり、貯蓄の目的が将来の消費ではなく、具体的な使い道のない単なるカネの保蔵になっている。貯蓄が将来の需要増加に結びつかなければ、企業にとっては設備投資をする意味がない。そのため、貯蓄意欲が高まっても設備投資は増えず、カネの倹約がそのまま消費の減少だけをもたらし、総需要不足になって働きたくても働けない非自発的な失業が生まれ、労働力が無駄になって経済は不況に陥る(…)。

JRF2022/8/28032

さらに消費意欲が減退しているから、物価下落が起こってカネの実質量が増えても、消費は刺激されず、総需要不足が続いて不況は長期化する。
<(p.16-17)

総需要不足の原因は資産選好にある…ということで、それがデフレを生んでいる。…と。

JRF2022/8/21370

……。

日銀の金融緩和について。

>実質貨幣 m が増えれば、取引への必要性(流動性選好)が下がってくるとともに、資産の総量 a も増えるから、資産をさらに増やしたいという欲望(資産選好)も減ってくる。<(p.35)

JRF2022/8/24856

ここはよくわからなかった。資産は持っていてもさらに持ちたいという話ではなかったか。ただ、資産プレミアム δ(a, c) は a の関数で a が増えれば減りはする…という話だったようにも思う。ちょっと、齟齬があるように思った。(私の思い違いだろうが。) まぁ、δは減るけどプラスであり続けるといったところか。

JRF2022/8/21972

……。

>資産選好が作り出す資産価値の膨張は、実は、本来の意味のバブルではない。バブルとは、根拠がないのに膨れ上がる価値であり、存続し得ないものだからである。ここで示した資産価値の拡大は、資産選好を満たすというサービスの価値を反映しており、れっきとしたファンダメンタルズである。これは、ただの布切れと絵の具っと木枠の塊にすぎない名画が芸術的な感動を与え、その感動に見合って高価値が付くのと変わりはない。

JRF2022/8/24991

(…)

しかし、金融資産への単なる信用が形作るファンダメンタルズであるため、根拠が脆弱で、信用が失われれば、いつ値崩れしてもおかしくはない。そのため本書では、これをバブルと呼ぶことにする。
<(p.61-62)

JRF2022/8/21580

資産をすべて生産供給に回せば需要されるというものではない。資産選好に基づく価格は、原理的にそうなので、ある意味根拠はないのだが、しかし、確実に「需要」にはこたえている。…ということなのだろう。

JRF2022/8/25647

……。

>新消費関数は、人々は物価変化率を見ながら、消費と貯蓄の便益を比較して消費を決めることを示している。さらに、物価変化率を決めるのは生産能力に比べてどれくらい売れるか(= 総需要)であり、人々がそのときいくらのカネを受け取ったか(= 可処分所得)ではない。そのため、新消費関数は税金 t や補助金 s とは無関係である。<(p.80)

>したがって、景気刺激のために民間にお金を配るなら、対象は資産の少ない貧しい人たちに限定すべきである。ある程度の資産を持っている富裕層に配っても、まったく効果はない。<(p.84)

JRF2022/8/22006

経済を貧困層と上層の二部に分けた場合、貧困層の部分は成長経済に近い様相を呈していると思われる。だから、貧困層に補助金をバラまくのは効果があるだろう。一方、上層は資産所得から税を取っても、消費には無関係ということになろう。こういうバラマキ型なら許されるということらしい。

JRF2022/8/29907

ただ、じゃあ、上層と貧困層をどう分けるかというと技術的に難しい。資産を持っていても実質使えないような人間などもいる。そこで、いったん、すべての人に配って、あとで納税のときに「上層」の人には返してもらえばいい…といった議論が、新型コロナの際、国民民主党とか、Twitter とかでなされていたように思う。その辺は著者はどう考えるのだろう?

JRF2022/8/26538

……。

>人々の資産選好が強まっている成熟経済では、総需要不足によっていくら物価が下がっても、人々は消費を増やすよりも資産を増やしたいという欲望を持っているため、カネが消費に回らず、不況が長期化する。そのような経済では、カネを増やしても消費にも投資にも回らず、金融資産だけが実体経済と無関係に膨れあがって、過剰流動性や株価の膨張、政府債務の拡大を生む。そのため、大幅な赤字財政や金融緩和によって、貨幣や国債や株式などの金融資産がさらに増大し、GDP の数倍もの規模になっても、消費は思うように増えず、景気も回復しない。

JRF2022/8/24857

もし本当に、それだけの量の金融資産拡大に応じた総需要の増大があるなら、経済全体の生産能力をフル稼動させても、とても総需要を満たすことはできないので、金融資産の信用は崩壊する。しかし、人々の金融資産への信用が揺るぎないものであり、資産選好によって、カネを使うよりも保有することに喜びを見出すなら、モノと交換できるはずという信用だけで膨張してきた金融資産は、実際には、ほんの一部しかモノの購入に回されない。

JRF2022/8/26049

そうであれば、金融資産にそれだけの価値がないことが永久に露見しないため、皆が殺到してモノに交換しようとすることもなく、金融資産の信用は維持されてバブルは崩壊しない。インフレが起こらない理由も、赤字財政によってカネをばらまいても、資産選好によって人々は貯めるばかりで需要にむす、総需要不足が続くからである。
<(p.94)

JRF2022/8/25769

金融緩和をいくらしても「日本の」景気はよくならなかった。しかし、世界に目を転じれば、この間、大きな成長があったのではないか!…みたいな議論も(私の中に)あったように思う。総需要の拡大もないわけではないのだろうが、それでも金融資産拡大を説明できないということだろうか。留学等を通じた国別のリスクプレミアムの張り直しとか…そういう理屈で説明は不可能なのだろうか。

JRF2022/8/26508

……。

>このように、成長経済では経済を活性化させる投資促進政策や市場調整の改善は、成熟経済では、デフレを悪化させて消費を抑え、景気を悪化させてしまうのである。<(p.111)

これは驚きの結論だ。

ところで、高度成長期の終身雇用は、サービス残業の調整によって、実は雇用の市場調整の機能は高かったとも言える。それを非正規雇用に変えることで柔軟性をなくして、それがダメだったんじゃないか…という議論もありえたわけだが、それは、むしろ成熟経済においては望ましいものだった。…ということになるのかもしれない。

JRF2022/8/25428

……。

>慢性的な総需要不足に陥っている成熟経済にとっては、環境規制の強化とは、よりよい環境という便益を生み出す政府需要の拡大と捉えることができる。環境の改善は民間で生産される製品の代替品ではなく、生産性を引き上げるものでもなく、純粋に生活の質を引き上げるものである。すなわち、長期不況に陥った成熟経済で行うべき公的サービスの要件をすべて備えている。<(p.120)

ということで、著者の一番のオススメは環境対策にカネを使うことになる。

JRF2022/8/24376

ただ、環境対策の混乱は、個人に選択させる…環境に良い製品とそうでない製品を選ばせると、どうもうまくいかないという点で、そこでうまくいかないものを上から決めて環境対策することがなぜ良いのかを説明する必要があることにあるように思う。まぁ、それは別の本の領域ということだろうが。

JRF2022/8/25970

……。

資産の再分配を著者は肯定するが、その際、いくらでも借りられるようにする…みたいな対策は良くないという。

>借り入れ制約を緩めても、結局は貧しい人の助けにはならず、それどころかかえって苦しい状態に追い込むことになる。景気も一時的にはよくなるが、長期的には以前より悪くなってしまう。景気を本格的に回復させるためには、資産の再分配が不可避である。<(p.149)

JRF2022/8/24473

……。

成熟経済での対外資産の増加が自国の消費を増やすのではなく抑えてしまう…という驚きの結論も示していた。

JRF2022/8/21532

>成熟経済での対外資産の増加が自国の消費を抑えてしまうという結論は、成長経済の場合とは反対であるとともに、通念とも大きく異なる。個人の立場から見れば、資産保有が増えれば豊かになって消費も増えるように思う。しかし、これが成立するのは、貧しく消費水準が低いために、人々が資産を持っていれば、いずれそれを消費に回すことになる成長経済においてだけである。成熟経済では、資産保有そのものに満足して消費を増やさないため、対外資産からの収入分だけ経常収支が黒字化して円高を生み、国内製品への総需要を減らして不況が悪化してしまう。<(p.163)

JRF2022/8/24374

……。

>このように日本製品と外国製品が競合するとき、外国企業の生産性の上昇は日本経済の脅威となり、他方、日本企業の頑張りは日本経済を活性化させるという主張は、日本経済が総需要不足のない成長段階にあるなら正しい。しかし、消費意欲が低く総需要が不足している状態では、効果はそれぞれ反対になる。それなのに、高度成長期の感覚で外国企業脅威論を振りかざしても、的外れである。<(p.178)

韓国経済がうまくいっていると言われる昨今、韓国はそういうところを活かしてるということなのだろうか?

JRF2022/8/28243

……。

……。

追記。

小野善康『貨幣経済の動学理論』に目を通した。以前から買っておいた本で上と同じ著者の本ということで関心を持った。

JRF2022/8/73014

『貨幣経済の動学理論 ケインズの復権』(小野 善康 著, 東京大学出版会, 1992年3月)
https://www.amazon.co.jp/dp/4130401211
https://7net.omni7.jp/detail/1101037421

JRF2022/8/70108

上の『資本主義の方程式』の理論をガッチリやったのがこの本ということになり、年代的にそういう理論的枠組みの「原点」的な本なのだろう。数式は大して追えず、検算もまったくしなかったことから、私はこの本も「読んだ」というよりは「目を通した」にすぎないことになる。

出版念は1992年でその後の日本の「失しなわれたン十年」を予見するかのような記述がある。著者自身は当時は、日本よりもアメリカを想定していたりしたのかもしれないが。

JRF2022/8/72807

>財政政策による景気の刺激は、貧乏人の定常状態の資産および消費を引き上げ、そのため効用も増加する。他方、金持ちの消費も増大し、資産も相変わらず増大し続けるが、その増加率は減少するため、効用はかえって低下してしまう。このように、不平等経済の財政政策は、不況が長引いた後では資産の再分配政策と同様に、貧乏人には良く、金持ちには悪く作用する。したがって、慢性的な不平等不況経済においては、金持ちによって牛耳られている政府が、真剣に財政政策によって景気を回復させる動機は少なく、そのため政治経済的に見ても、景気回復措置が積極的に取り入れられる可能性は絶望的なのである。<(p.148-149)

JRF2022/8/72308

アベノミクスの三本の矢のうち、なぜ財政政策が十分なされなかったかの説明になっている…といえよう。

新古典派がなぜ均衡経済にこだわるかというと、実は、経済学には予言の自己実現効果みたいなものがあるからではないか? …どうして自己実現効果があるかの理論的根拠は私は知らないが、小野氏の日本で、予言が実現していることを見ると、そう思えてしまう。

JRF2022/8/74647

その上で、何をすればいいのか預言すべきということなのかもしれない。民主主義の側から何かアプローチできないか…例えば革命・戦争をこころざせばどうなのか…とかが(例えば国際的な学会などから)問われているのではなかろうか。

JRF2022/8/73859

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