cocolog:93831542
レオナルド・サスキンド『ブラックホール戦争』を読んだ。空間内の情報の最大値は体積でなくその表面積に比例するというホログラフィック原理。それを読んで、仏と菩薩の違いから考えたフラクタル次元に関する私の妄想はある意味、合ってる面もあるのかな…と解釈した。 (JRF 6962)
JRF 2022年11月 6日 (日)
フラクタル次元と華厳経・仏教的宇宙論との関連について最近関心があり、ひとことしていた([cocolog:93701863] など)。そして先日、ホログラフィック原理という単語を知って、それでググって見つけたのがこの本だった。さっそく取り寄せて読んでみた。
読んでいる最初のころに次のようにメモした。これが私の基本的な関心ということになる。
JRF2022/11/63954
○ 2022-11-04T09:46:16Z
仏と菩薩の差。一つの世界への全放射と、転生した世界での放射。放射は法射。
量子は一つの世界の放射の像だが、それを世界に適用するには転生した世界での放射のように繰り込む必要がある。
ただし、リアル世界のフラクタルが連続で「繰り込み」を実施しているように、量子も連続に存在しうるはずとなる。
JRF2022/11/66448
ここに不確定性原理を盛り込むには、そのような連続な繰り込みに終わりがあるとするか、繰り込みの次元と普通の三次元にギャップがあるとするか。
三次元とにギャップがあるとする方向にはなぜギャップがそれ以上以下ではないかの説明がいる。そこに光速の有限さが出てくるだけならまだいいが、結局は不確定性原理を必要とするなら、それはトートロジーとなる。
JRF2022/11/60901
繰り込みに終わりとする方向は、始原の存在、キリストの一回性みたいなものにつながるのかもしれない。
まぁ、こういう物理学と宗教的宇宙論をあわせるような考え方は、端的に妄想…というか間違いなんだろうけど。
JRF2022/11/69118
……。
……。
では、関心のある部分を中心に引用していこう。
JRF2022/11/63958
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1983年、EST会議で、スティーブン・ホーキングが、ブラックホールについて「重大」なことを述べた。著者の他、数人しかそのインパクトを理解しなかったが。
ホーキングは、ブラックホールが蒸発することを証明していたが、そのとき、ブラックホールに吸い込まれたビット(つまり情報)は蒸発とともに消失すると述べた。
JRF2022/11/64742
>スティーブンの主張はさらに続いた。彼は、真空(空っぽの空間)は「仮想の」ブラックホールで満たされていて、そのブラックホールは生成と消滅を非常に短い間に繰り返しているので、私たちがそれらに気づかないという仮説をたてた。近くに「現実の」ブラックホールがまったくなかったとしても、これら仮想のブラックホールの影響によって情報が消去されるのだと彼は主張した。<(p.24)
JRF2022/11/65766
>ブラックホールの内部で1ビットの情報が失われることの何がそんなに不都合なのだろうか? しばらくして、わかってきた。情報の損失は、エントロピーを生成するのと同じことである。そしてエントロピーの生成は熱を出すことを意味する。スティーブンがいとも簡単に仮定した仮想ブラックホールは空っぽの空間に熱を発生させるだろう。
JRF2022/11/68444
もうひとりの同僚のミカエル・ペスキンと一緒に、私たちはスティーブンの理論に基づいて推計した。もしスティーブンが正しければ、空っぽの空間は1秒もたたないうちに10億×10億×10億×1000度まで熱くなることがわかった。私はスティーブンが間違っているとわかっていたが、彼の推論に欠点を見つけることができなかった。たぶんそれが私をいちばんいらだたせたのだ。
<(p.25)
JRF2022/11/66815
素粒子はそらはそれで小さなブラックホールみたいなものではないのか…とか思うことはある。ホーキングのは、そういう素朴な妄想とは違ったということなんだろうね。
JRF2022/11/65479
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>それは、私たちが発見した中でもっとも深遠で意味のある自然法則のひとつである。すなわち、ある空間の領域に詰め込むことができる情報の最大値は、その領域の体積ではなく表面積に等しい。<(p.168)
これは入出力から内部の情報を予想できるかどうかを決めるので、その境界における値しか問題とならない。…ということではないんだろうな。私は理解できない。
JRF2022/11/63243
……。
>ここで、もしブラックホールがホーキング放射を出して蒸発したら、何が起こるか考えてみよう。質量が減ってブラックホールが小さく縮むにつれて温度が上がっていく。そのうちにブラックホールは熱くなる。それが巨石ぐらいの質量になるまでに、温度は10億×10億度ほどに上がる。プランク質量に達するまでに、温度は 10^32 度まで上がっているだろう。宇宙のどこかがそんな温度になったのは、ビッグバンの初めだけだったろう。
JRF2022/11/69382
ブラックホールがどのように蒸発するかを示したホーキングの計算は、すばらしい離れわざ以上のものだった。その意義が完全に理解されるときが来たら、物理学者はそれが科学の大革命の始まりと認めるだろうと私は考えている。その革命がどのように展開するか正確にわかるのはまだ先のことだ。だが、それはもっとも深い問題に関連している。つまり、空間と時間の性質、素粒子の意味、さらに宇宙の起源という謎である。
<(p.213)
JRF2022/11/68644
宇宙の起源はブラックホールにある…と。著者は多宇宙を認める人らしいのでそういう解釈もあり…と。
JRF2022/11/64974
……。
ブラックホールでの情報の消失問題について、情報が保存されるとすればどういうモデルが考えられるか? 著者は、4つほど可能性を述べ、「風呂桶オプション」のモデルを有望とする。そこで否定される三番目のものに「ベビー宇宙が生まれる」というものがある。多宇宙を許せば、これもありうるのではないかと私は思うのだが、それは素人がよく考えつく「間違い」だとされる。
JRF2022/11/68830
>ベビー宇宙というアイデアはまったく話にならないというわけではない。ベビー宇宙が大きくなると考えた場合は特にそうである。私たちの宇宙は膨張している。そのベビー宇宙も膨張し、十分に大きくなって、ついには銀河、星、惑星、犬、猫、人びと、そしてそれ自身のブラックホールを持つようになるかもしれない。私たち自身の宇宙だって、このようにして生まれたのかもしれない。しかし、情報の損失という問題の解決策として見た場合、単に論点をうまく避けただけである。
JRF2022/11/61905
物理学は観察と実験を行うものだ。ベビー宇宙が情報を運び去って観察できなくなるとしたら、私たちの世界の結末は情報が破壊されるのと同じことになってしまって、情報の破壊による不幸な結果が生じるだろう。
<(p.227)
「不幸な結果」とはありえないほどの熱…ということらしい。
JRF2022/11/65238
ただこの後でてくる相補性の話を考えると、ブラックホールの外に情報は出てくるが、同時にベビー宇宙が生まれてるみたいな解釈は可能なのではという気がする。その際、ベビー宇宙の時間の進み方は、ブラックホールの外側と大きく違い、そこはそこで無限に近い時間が流れる…ある意味外側でたってる時間以上の時間が流れる…みたいなこともあるのかな…とか私は妄想してしまう。
JRF2022/11/65098
ところで、「風呂桶オプション」のモデルでは、ブラックホールにとって1ビットは量子ゆらぎのように現れるということだろうか?
JRF2022/11/66722
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ブラックホールの温度は本来かなり低く、今の「密」な宇宙ではエネルギーはブラックホールのほうに流れていく。その間、ブラックホールは蒸発しないだろう。しかし…。
JRF2022/11/62971
>かつて宇宙は今よりはるかに熱かった。そして将来、宇宙は膨張するにつれていっそう冷たくなるだろう。1000億年後、宇宙はついに星からできるブラックホールより冷たくなるところまで冷える。それが起こるとき、ブラックホールは蒸発しはじめるだろう (それを見る者は近くにいるのだろうか? だれにもわからない。しかし楽観的に考えることにしよう)。それでも蒸発は非常に遅い。ブラックホールの質量や大きさが変化したと感じられるまでに、少なくとも 10^60 年かかるだろう。
JRF2022/11/61609
そんなわけで、ブラックホールが小さくなるのをだれかが見るのは、とてもありそうにない。私たちが首尾よくずっと世界に存在できたとしても、ホーキング放射に含まれる情報を解読できる可能性はまったくない。
<(p.244)
JRF2022/11/64335
私の統合失調症の長い発作において、情報を入れ銀紙をまるめたボールと、他のボール風のオブジェクト2つをとって、それが星を現し、それが冷たくなった誰もいない宇宙をさまようというイメージを持った。それが実は原子であったりクーパーペアであったりするのかもしれない。そのものでなかったとしても、原子などはその反映・記念なのだ。…と考えた。(まぁ、結局そのボール類はゴミ箱に捨てるのだが。…と思う。)
JRF2022/11/60195
それがブラックホールの新しい世界に流れつけばいいのだろうか? いや、ブラックホールの「バーチャルな世界」をあくまで避けて、それはそれで新しい世界が築ける…と考える方向だろうか。
JRF2022/11/65931
……。
>(…)ブラックホールの内部の世界はホログラムに似ているかもしれないということである。実際の情報はずっと遠くの2次元の地平線にある。ひも理論を真剣に受けとめるなら、もっとすごいことが起こる。ブラックホールの中のものであれ、真っ黒な新聞紙であれ、すべての情報のビットは宇宙の遠くの端、あるいは宇宙に端がないなら「無限」の遠くにあることになる。<(p.355)
JRF2022/11/60862
>トフーフトと私が達した結論はこういうものだ。普段経験している3次元の世界、つまり銀河、星、惑星、家、巨石、そして人びとで満された宇宙はホログラムである。すなわち宇宙は、達く離れた2次元の面にコード化されたものから生じる画像なのだ。この新しい物理学の法則をホログラフィック原理という。それは「空間の領域の内部にある一切のものはその領域の境界の情報だけで表せる」というものだ。<(p.360-361)
JRF2022/11/61471
エントロピーという「コード化」…詳細を確率的にフラクタル次元ふうに繰り込めば、ホログラフィック原理が成り立つということではないのか?
JRF2022/11/60411
……。
死体…地球…太陽系…銀河…
>それぞれのレベルでは、囲まれたものはすべてホログラフィーの画像として記述されるかもしれない。しかしそのホログラムを探そうとすると、それは必ず次のレベルにある。
ホログラフィック原理は不思議なものだ。とても不思議だがそれは理論物理学の主流の一部になっている。それはもはや量子重力についての単なる推測ではない。それは量子重力だけでなく原子核のような平凡なものに関する問題を答えるためにも日常的に利用される道具になっている(第23章参照)。
<(p.363)
主流になってるのか…。
JRF2022/11/62079
……。
>無限小という問題は量子力学においては特にやっかいだ。量子力学ではゆらぐことができるものはすべてゆらぎ、「禁止されないことはすべて義務である」。絶対零度の空っぽの空間でさえ、電場や磁場のような場は変動する。こうしたゆらぎは、何十億光年というもっとも大きな波長から、数額的な点ほどの寸法にいたるまで、あらゆるスケールで起こる。量子場のこうしたゆらぎのせいで、どんなにちっぽけな空間でも無限の情報を持てるのだ。これは数学的な惨事を引き起こす。
JRF2022/11/66348
どんなに小さな空間でも無限に大きな情報のビットを持ちうることの問題は、ファインマン・ダイアグラムのサブダイアグラムを際限なく作りつづけるときに現れる。
<(p.399)
「禁止されないことはすべて義務である」とは、確率的にありえないほど小さなことでも、量子力学にとっては「十分に長い時間」を経ることになるので、かならず起こることになるということ。
JRF2022/11/68547
……。
シャッター速度を速くして、>原子核を細かく見ると、陽子と中性子があることがわかり、さらに細かく見るとクォークがあることがわかる、という風に(…)速い写真が示してくれるのは、ロシアのマトリョーシカ(入れ子人形)のように、深い階層ほど小さくなっていく粒子である。このようなやり方では粒子が(…ブラックホールの…)地平線の近くでどのようにふるまうか説明できない。<(p.434)
JRF2022/11/64857
>ひも理論の方がはるかに有望である。ひも理論の主張はきわめて非直観的なので、物理学者は何年もの間理解できなかった。ひも理論によって表される素粒子はひもの小さなループとされていて、それは複合プロペラにとてもよく似ている。遅いシャッターから始める。素粒子はほとんど点のように見える。それをハブだと考える。それからシャッターを速くして、プランク時間より少し長く開くようにする。写ったイメージは、粒子がひもであることを示しはじめる。
シャッターをもっと速くする。ひものすべての部分がゆらぎ振動しているのが見えるので、新しい写真ではもっともつれて広がっているように見える。
JRF2022/11/62494
しかし、そこで終わりではない。その過程は繰り返す。
<(p.434-435)
ブラックホールに落ちていくものは、ハブの状態がずっと見えているだけだが、ブラックホールの外にいるものは、ひもがどんどん大きく広がって見え、やがてブラックホールの地平線全体に広がるように見える。…そうだ。
JRF2022/11/68342
スローモーションでとらえても小さい物が小さく見えるだけでなく、大きく広がって見えると考えられるのが「ひも理論」の特徴ということだろう。私は量子力学の無限をどう繰り込むかとか前に考えていたけど、それがひも理論なのかな?
ところで、ブラックホールにさえ「相補性」、あちらの世界とこちらの世界で在り方が違うということが成り立つ。ということは、キリスト教とイスラム教で啓示が(やや)違うといったように、宗教には矛盾のある啓示があるが、それも(バーチャルな世界が現実で重なった)相補的な現象とできるのだろうか?
JRF2022/11/60962
……。
>マルダセナはこう主張した。フラットランドの QCD (…量子色力学, quantum chromodynamics…)は (3+1) 次元の反ド・ジッター宇宙と互い双対の関係にある。さらにこの3次元の世界では、実際の世界と同じように、物質とエネルギーは重力を働かせる。言いかえれば、QCD は含んでいても重力のない (2+1) 次元の世界は、重力のある (3+1) 次元の宇宙と同等である。
JRF2022/11/67675
なぜそうなるのだろうか? なぜ2次元しかない世界が3次元の世界と正確に同じになるのだろう? 空間の余分な1次元はどこから来たのだろう? 鍵になるのは反ド・ジッター空間のゆがみだ。それは境界近くの物体を、空間の中心近くにある同じ物体に比べて小さく見せる。ゆがみは想像上の悪魔に影響を与えるだけでなく、実在する物体が空間の中を動くときにそれらにも影響を与える。
<(p.497)
JRF2022/11/68596
よくわからないが、これがホログラフィック原理の説明にもなっているらしい。
p.484 でエッシャーの絵「サークルリミットIV」を出しながら、「無限のフラクタル」という言葉を使って、反・ドジッター空間(ADS) を説明する。
これが私の最初に述べた仏と菩薩の差を思わせる。反ド・ジッターがフラクタル次元だから菩薩の次元で、それが繰り込まれているが、結局、仏の転生のない一つ下の次元と同じような価値がある…といった感じで。ある意味、私の妄想は合ってたのだな…と思った。
JRF2022/11/65002
ただ、菩薩には力の制限があるのだった。それを繰り込みの影響ではないかと私は考えていた。ホーキングのいう情報の消失は繰り込みに似ているかもしれない。普通の繰り込みでは情報が何かしらなくなる。ホログラフィック原理は繰り込みによる本質的な情報の消失を隠しているだけではないか?
JRF2022/11/67433
あと、私はフラクタル次元からプランク定数のようなものが出てくる…またはフラクタル次元に必要な定数があってそれをプランク定数みたいなものを入れるといろいろツジツマが合う…とかできればいいな…とか思っていたのだが、それは言える感じじゃなさそう。フラクタル次元があるから不確定性原理が言えるというよりは、不確定性原理はまた別に仮定する必要があるのかな。…と、この本を読んで思った。
JRF2022/11/65578
……。
>現在では、核流体の持つそのほかの性質も同じようにブラックホールの物理と関連があるかどうかを見極めるために、綿密に研究されている。こうした研究が続くということは、すばらしい機会を与えられたということだ。つまりサイズが拡大して速さが低下することで量子重力を調べる可能性が開かれて、プランク距離が陽子よりはるかに小さなものではなくなるので、ホーキングとベケンスタインの理論や、ブラックホールの相補性や、ホログラフィック原理を検証する機会だということだ。<(p.516)
JRF2022/11/64745
こういうひもの特徴がより上のレベルでも見られる…原子が恒星系に似ているとかも…というのは、それはそれで繰り込み的話題がありそうに思う。そういう上の反ド・ジッターとはまた別のフラクタルの考え方が成り立つ気がする。それは「また別」なのかどうかもハッキリとはわからない。それが最初に述べた「連続な繰り込みに終わりがあるとするか、繰り込みの次元と普通の三次元にギャップがあるとするか」の両方がありうるということを示すのか。それとも「また別」が別でなければ、私の考え方も両方が一致することもありうるということなのか…。
JRF2022/11/66885
……。
>私たちひとりひとりは宇宙の地平線(ものが光速で遠ざかっている球面)によって囲まれている。そしてその地平線の向こうからは決して信号は届かない。星が帰還不能点を通過すると、星は永久に消え去る。遠く約150億光年のかなたで、私たちの宇宙の地平線が銀河、星、そしてたぶん生命まで呑み込んでいる。まるで私たちはみな自分だけの裏返しのブラックホールの中で生きているようだ。<(p.523)
JRF2022/11/65194
>宇宙の地平線の内部にいる観察者には、地平線は地平線原子でできた熱い層であって、それがすべての情報のビットを吸収して、かき混ぜて、送り返す。自由に運動して宇宙の地平線を通過する観察者には、地平線を通過するときに何も起こらない。
<(p.525)
裏返しのブラックホール…。多宇宙だが、この宇宙には限りがある…と。
この世界とあの世界に量子暗号のようなつながりがたまたま遺っていて、それを使って「転生」できるとかはないのだろうか?
JRF2022/11/61650
『ブラックホール戦争 - スティーブン・ホーキングとの20年越しの闘い』(レオナルド・サスキンド 著, 林田 陽子 訳, 日経 BP 社, 2009年10月)
https://www.amazon.co.jp/dp/4822283658
https://7net.omni7.jp/detail/1102804583
原著は Leonard Susskind『The Black Hole War』(2008年)。
JRF2022/11/63088