cocolog:93859137
長谷川修司『トポロジカル物質とは何か』を読んだ。超伝導・量子ホール効果から、省エネの電子の純スピン流を使ったスピントロニクスなどにつながろトポロジカル表面状態などについてのわかりやすい解説。最新の物質科学をわかった気にさせてくれる良い本だった。 (JRF 8648)
JRF 2022年11月20日 (日)
雑誌『数理科学 2022年2月号 特集「テンソルネットワークの進展」』に目を通したとき、「ホログラフィック原理」・「トポロジカル秩序」・「量子誤り訂正」という言葉を知った。「ホログラフィック原理」については、レオナルド・サスキンド『ブラックホール戦争』を読み([cocolog:93831542])、続いて「トポロジカル秩序」について知ろうとしてたぶんこれのことだろうと当りを付けたのが、今回の本になる。
JRF2022/11/208775
単にトポロジカル物質のことだけでなく、超伝導など物性・物質のトピックから説明していて、知ってるものもあったがかなり忘れていたので、大変、ありがたかった。グラフはあるが、数式はなく、大変、読みやすかった。わかった気にさせてくれた。
JRF2022/11/201678
いつものごとく「引用」していくが、あとで私が読んでトポロジカル物質が何かわかるようにぐらいはメモしておきたいので、「引用」部分が大きくなり、私のコメントが主とは言えないぐらいになる。それはマズイので、このページが役に立ったという方がもしいるとすれば、ぜひ、今回の本を買っておいていただきたい。
JRF2022/11/206796
……。
……。
>さまざまな生命現象も、実は生体物質の量子現象に起因しているらしいことが少しずつ明らかにされはじめています。植物の光合成や渡り鳥が正しい方向に飛んでいけるのも葉や眼のなかで起こる量子現象がもとになっているとのことです。遺伝情報の伝達の誤り確率や突然変異の確率なども量子物理学の理論を使って計算できるという研究も進んでいます。<(p.14)
JRF2022/11/201824
ドーキンス『利己的な遺伝子』を読んだ([cocolog:87123943])とき、>鳥の本能などが、獲得形質の遺伝は完全にないというモデルから導ける、その時間的余裕が常にある、というのは私には信じがたいというのもある。<…と書いた。渡り鳥が地図を覚えて「遺伝」させているらしいことが、獲得形質の遺伝なしに本当に言えるのか私はずっと疑問に思っている。その点、量子現象がもとになってると今回知り、そこはまだ明らかになってるわけではないのだな…とわかった。
JRF2022/11/204964
……。
道路の右側通行の国と左側通行の国がつながっていたとすると、その境界には立体交差のような必ず特殊…異常な状態が起こる。そして、それは境界が移動したとしても、その異常はどこかに現れなければならないという点で「安定」になる。…
>物質の端にできるトポロジカル表面状もそのようなものです。物質のなかが、外の世界と「左右逆」ならば、物質の表面や普通の物質の境界には、道路の左右の交差に相当する何か異常な状態が出てきます。それがトポロジカル表面状態です。<(p.19)
JRF2022/11/209296
ここで直近で読んだマンデルブロ『フラクタル幾何学』の血管の話を思い出す。血管は組織の境界にあるという考え方。血管がトポロジカル表面状態に似ているのではないか…とか思った。
JRF2022/11/203566
……。
>超伝導体では電気抵抗がゼロなので、(直流の)電流を流してもジュール熱が全く発生しません。ですので、送電線を超伝導体で作れば、長距離の送電でもエネルギーをロスすることもありません。そこに着目して、「サハラ・ソーラー・ブリーダー計画」と呼ばれる計画が日本から提案されています。アフリカのサハラ砂漠に巨大な太陽光発電設備を作り、そこで発生した電気を超伝導電線で、日本をはじめとして世界各地に送ろうという夢の計画です。計算すると、サハラ砂漠の4分の1程度をソーラーパネルで覆って発電すれば、世界中で使われる電力を賄えるとのことです。<(p.72)
JRF2022/11/202845
[cocolog:93155097] で、 (宇宙から取ってきた物質で行う原子力発電などで)上がった地球の気温を下げるために風力や太陽光発電を使う話を私はしている。太陽光発電では、洋上太陽光発電パネルで海を覆って温度を下げる話をしているが、そこまで大規模になると、地球環境に大きな影響が出るだろうから、どうなのか…ということを述べている。
サハラ・ソーラー・ブリーダー計画もそこまで巨大になると、地球環境に大きな影響が出るのでは?
JRF2022/11/204238
……。
超伝導のしくみ…
>一定エネルギーをもっていてエネルギー状態が変わらない、クーパー対を作る2つの電子の拡がった波、これは普通の金属のなかの自由電子の波よりはるかに広範囲に拡がっており、ミリメートルやセンチメートル・サイズの超伝導体全体に拡がっています。そのような「大きな波」が「音もなく」(つまりエネルギーをロスすることなく)スーッと流れているのが超伝導状態です。<(p.79)
JRF2022/11/202241
クーパーペアのペアをつなぎ直して、そのつなぎ直しが流れる波になるというイメージを持った。しかし、つなぎ直しだけでは電子は流れない。…しかし、波として電荷は流れるということか?
つなぎ直しが、パーコレーションのように起こるとすれば、臨界では途中の島から前後に発して要素がつながって始点と終点がつながり、電荷が高速で移動したように見なせるのではないか。そしてそれは、もしかすると光速を超えることもありうるのではないか。
JRF2022/11/206947
ただし、そのような超光速は、パーコレーションによるため、思ったように達しないことが確率的にあることになるだろう。誤りを含みうる。しかし、いくつか同時に信号を送り出せば誤り訂正ができるのかもしれない。信号も、正専用と負専用の信号線を用意し、次の時点の信号線も用意しておく、そして、一度、信号が届いたら、そこから次に信号が届けられる状態になるため乱雑な状態に向かわせる…エントロピーが増えるようにする…みたいなことをすればいいのではないか。
JRF2022/11/201430
でも、超光速になると何がうれしいのだろう?
あと、これはクーパーペアでなくてもいい話だな。
…とすると、脳の中でもそのようなことができるとはできないだろうか?
そこで↓のようにメモした。
JRF2022/11/202505
○ 2022-11-18T19:29:23Z
あれ、ググってもパーコレーションと臨界に関する話がサッと出てこない。うろ覚えで話を作ることになるのか。orz
超光速があれば因果が逆転し…みたいな話もハッキリとした説明が見つからない。
《光速を超えると、因果関係が逆になって、「結果」が先で「原因」が後に来るそうで... - Yahoo!知恵袋》
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1372826398
JRF2022/11/208252
>超長距離から,超光速の鉄砲で撃たれた場合,相手が鉄砲を撃つ所を観測できるより前に,その超光速の鉄砲玉があなたを打ち倒すように観測されます。あなたから見た場合には「鉄砲を撃つ前に打ち倒された」様に見える訳なので,因果律が破れた「様に」見えます。
ですが,実際には単にそのように見えただけの話なので,鉄砲を撃ったからあなたが撃たれたという「原因と結果の関係」は変わっていません。そう言うことです。
<
JRF2022/11/205515
…か。
パーコレーションで(確率的な誤りを含みながら)超光速になるのが過去を思い出す(過去を走査する)脳の仕組みに関係してるのではとか思ったのだが、無理筋か…。
JRF2022/11/205475
……。
……。
電子のスピンの違いが磁場などから受ける力の違いにより、それをうまく利用すれば、スピンが同じもののみを回路に流す…といったことも可能になる。この…
>純スピン流に信号を載せれば、ジュール熱の発生なしで計算や信号伝達をすることができるはずです。
JRF2022/11/206845
このようなアイデアを利用した電子デバイスを作ろうとする研究分野が「スピントロニクス」という分野であり、省エネ研究の花形として今、世界中で盛んに研究されています。純スピン流を使えばエネルギー消費ゼロの夢のようなデバイスができるかもしれません。それが実現すれば、パソコンやスマートフォンは熱くなることもないし、バッテリーの保持時間が劇的に伸びるかもしれません。(…)実はこの純スピン流を作り出すのに好都合な物質の一つが本書の主題であるトポロジカル物質なのです。
<(p.118)
JRF2022/11/207964
トポロジカル物質をうまくつかえば、純スピン流の「電池」みたいなものが作れるはず…ということだろう。
JRF2022/11/206011
……。
グラフェンやトポロジカル表面のような二次元や、カーボンナノチューブや表面のまわりの一次元といった低次元系…
JRF2022/11/200695
>低次元系にすると、電子のスピードが上がる効果と、不純物や欠陥による散乱のために電子の流れが妨げられる効果の重大さの兼ね合いで、実際には、電子のスピードが上がる場合もあれば下がる場合もあります。電子をできるだけ速いスピードで流したければ、できるだけ高純度で高品質の物質を作り、電子が流れる部分には不純物や欠陥がなく、なおかつ低次元電子系を作ればいいのです。その意味で、グラフェンに代表される2次元物質は好都合なのです。<(p.130)
JRF2022/11/203791
……。
量子ホール効果について…
>この量子ホール効果およびグラフェンのノーベル賞は、本書の主題である「トポロジカル物質」の、いわば前奏曲になっています。グラフェンにおいて、質量ゼロのディラック電子が実験で実際に検出できる「実在」であることが示され、普通の物質のなかの電子と著しく性質が違うことが示されました。実は、トポロジカル物質の結晶表面にも、このディラック電子が現れます。
JRF2022/11/202207
また、量子ホール効果は、上述のように、試料の内部と端で性質が違うこと、しかも、それは、原子間の化学結合やポテンシャル障壁といった局部的な性質に起因するのではなく、単に試料の内部か端かという「グローバル」な視点で見ることによって決まる性質です。これは、いままでの物質の性質とはかなり違ったキャラクターと言えます。序章で述べた「国境」の話を彷彿とさせます。
<(p.136-137)
JRF2022/11/200455
量子ホール効果…昔、解説を読んだこともある気がするが、この本のようにわかりやすいのははじめてのように思う。
JRF2022/11/208373
……。
>原理とは、なぜそうなるのか何かを根拠にして説明することがでいない原理原則だという意味です。自然界の法則のなかには、不確定性原理、等価原理、相対性原理、光速度不変の原理、変分原理など、原理という名前のついているものがいくつかあります。<(p.150)
[wikipedia:等価原理] は、重力と加速度に関するもの…か。ふむふむ。
変分原理…「変分」も「原理」だったのか! 驚き。
JRF2022/11/209519
《変分原理 [物理のかぎしっぽ]》
https://hooktail.sub.jp/analytic/VariationalPrinciple/#id5
>作用と呼ばれる量 I をラグランジアンを用いて(…定義すると…)ラグランジュの運動方程式と δI = 0 は同値になっていることが分かります.(…)作用 I が停留点を取るとき,その運動が実現するということを積極的に認めて力学を考えていくという 立場にたったとき,基本法則となるのが変分原理 δI = 0 なのです.<
JRF2022/11/205585
……。
時間反転対称性や空間反転対称性は特に磁場に関して様々な様相を見せる。そして電場しか見てないはずの「仮想磁場」も、それらと絡んで、実在の意味を持つ。
JRF2022/11/209231
>上述のビチュコフ=ラシュバ効果やドレッセルハウス効果は、常磁性体で起こります。つまり時間反転対称性が保たれているのにスピン縮退が解けるというのです。これは次節で説明する「仮想磁場」のためです。強磁性体でないのに、強磁性体のように上向きスピンと下向きスピンが違った振る舞いをするということは、物性物理学の常識からすると驚きの性質なのです。それが次節で説明する相対性理論に由来する効果に起因しているというのですから驚きです。これがトポロジカル物質の基礎になる不思議な現象なのです。<(p.209)
JRF2022/11/203207
「スピン縮退が解ける」とは、「強磁性体のように上向きスピンと下向きスピンが違った振る舞いをする(…つまり異なるエネルギーを持つ…)ということ」。
JRF2022/11/209868
……。
「仮想磁場」は本物の磁場ではないので、電子の軌道を変えるようなことはない。しかし、スピンには関係してくるというから驚きである。
JRF2022/11/205561
>仮想磁場について、もう一つ注意点。仮想磁場は電子スピンと相互作用することはわかったが、リアルな磁場のようにローレンツ力を生み出して電子の軌道を曲げないのか、と疑問に思うかもしれません。しかし、図6.9と図6.10に戻って考えれば、そもそも仮想磁場は電子の静止系で出てくるものなので、電子が静止していれば磁場中のローレンツ力はゼロになります。よって、仮想磁場は電子の運動の軌道を曲げませんが、電子のスピンの向きを決定づけると言えます。<(p.221-222)
JRF2022/11/206045
……。
>このような一風変わった電子状態になっているトポロジカル絶縁体では、どんな現象が現れるのでしょうか。実際に観察される現象として、スピン偏極電流が表面で流れることはすでに説明しましたが(図7.5(d))、次に説明するように、伝導電子の180度後方散乱が禁止されたり、純スピン流が流れたり、スピンを注入すると自発的に一方向に流れる電流が生みだされたり、といった現象が起こります。そのような現象は、いろいろ役立つ機能として利用できそうだと期待され、現在、基礎研究とともにトポロジカル絶縁体を使った高性能トランジスターや光センサーなどのデバイスへの応用研究も盛んに行われています。<(p.247)
JRF2022/11/202666
21世紀期待のもうすぐそこにある技術。
JRF2022/11/206770
……。
>2次元のトポロジカル絶縁体や磁性トポロジカル絶縁体表面では、図3.12(c) に示した量子ホール効果のように物質の端にだけ電流が流れるエッジ状態ができますが、それは1次元の伝導の通路です。そこでは、180度後方散乱禁止のため、欠陥や不純物があっても後方散乱が起きずに電流(やスピン流)が高速道路を走る車のように何物にも邪魔されることなくスーッと流れることになります。<(p.249-250)
これはロバスト(頑健)な現象で、実用に近い。
JRF2022/11/208950
……。
>薄いシート状の2次元トポロジカル絶縁体の場合には、3次元トポロジカル絶縁体の表面状態に相当するものとして、図7.5(f) に示すように、1次元的なエッジ状態が試料の端にできます。つまり、2次元電子系の中と外でトポロジカルに違っている状態なので、その境界であるエッジに金属的な電子状態ができるのです。トポロジカル表面状態と同じ考え方です。
JRF2022/11/201188
このエッジ状態でも、スピン・運動量ロッキングと時間反転対称性のために、特定の向きのスピンをもつスピン偏極電流と、それと逆向きスピンの偏極電流が逆向きに流れているので、全体として電流はゼロになるのですが、純スピン流が流れていることになります。この逆向きの2つの電子の流れも、上述の180度後方散乱禁止のために混じり合うことはありません。
この薄いシート状の2次元トポロジカル絶縁体のエッジ状態は、「ヘリカルエッジ状態」と呼ばれ、量子ホール効果のカイラルエッジ状態とは似ていますが、本質的に違っています。
<(p.252)
JRF2022/11/204206
カイラル(chiral)は鏡像異性、ヘリカル(helical)は螺旋を意味するようだが…。
JRF2022/11/205782
……。
2016年のノーベル物理学賞の発表記者会見では、クロワッサンとドーナツが持ち出された。クロワッサンは単連結空間、ドーナツはそうではないということを表している。…
JRF2022/11/203602
>穴が開いているものと開いていないものでは本質的に違い、これは数学でいうトポロジーが違うのです。穴は、特異的な領域、あるいは特異点とみなせ、電子波の波動関数が入れない領域であり、その周りを電子波が周回すると幾何学的位相を獲得するのです。トポロジカル絶縁体での伝導バンドに入っている電子は、このベリー位相をもっているため、普通の絶縁体と本質的に違う性質をもっているのです。<(p.273-274)
電子の波の位相の話が、トポロジー=位相幾何学と絡んでくる。
JRF2022/11/209475
……。
あるトポロジカル物質においては、仮想的にモノポール(磁石の片方の極のみある単極子)ができていると見なせる。…
>物理学の理論上、モノポールが存在してはいけないわけではないのですが、現実にはまだ発見されていません。しかし、図8.4(e) が意味するところは、モノポールが仮想的にできていて、それが実際にトポロジカル表面状態の電子のスピンを特定の方向に向かせているのです。<(p.275)
JRF2022/11/208073
……。
トポロジカル超伝導体の端や表面にできる電子のアンドレーエフ束縛状態。…
>マヨナラ粒子 - トポロジカル量子コンピュータの主役
5.2節で説明したように、正孔とは電子の抜けた穴でした。ですので、正孔は見かけ上、正電荷をもって負の質量をもつ「電子の海のなかの泡」であり、まるで「水中の泡」のようなものだと説明しました。ところがアンドレーエフ束縛状態では、電子とその抜けた穴である正孔が同じだというのです。正孔は一般に電子の「反粒子」とみなせますので、このように粒子と反粒子が同一視できる粒子を「マヨナラ粒子」と呼びます。
JRF2022/11/200026
(…)
この性質を使うと、「トポロジカル量子コンピュータ」という全く新しい概念のコンピュータがえきるかもしれないと理論的に考えられており、世界中で盛んに研究されています。アンドレーエフ束縛状態で動く2個のマヨナラ粒子の位置を入れ替えると違った量子状態になり、第3のマヨナラ粒子と位置を入れ替えるとさらに違っった量子状態になり、いわゆる「量子もつれ状態」を作ることができます。しかも、それはトポロジカルに保護されているので、ノイズによって壊されることがないのです。それを利用して量子状態を「演算」するのがトポロジカル量子コンピュータです。
<(p.292-293)
JRF2022/11/204369
「マヨナラ粒子」という言葉、雑誌『数理科学』などで特集されていて私は気になっていたが、こういう意味だったか。
次は量子コンピュータについて学ばないとダメか…。
JRF2022/11/200646
『トポロジカル物質とは何か - 最新・物質科学入門』(長谷川 修司 著, 講談社ブルーバックス B2162, 2021年1月)
https://www.amazon.co.jp/dp/4065222672
https://7net.omni7.jp/detail/1107157883
JRF2022/11/205950