cocolog:94528860
篠田謙一『人類の起源』を読んだ。iPS 細胞を使った古代 DNA から組織を復元する技術は、人間への遺伝子組み換えの際に、その事前のテストとして必要になるのだろうな…などいろいろ思った。 (JRF 9549)
JRF 2023年11月18日 (土)
現在、私は『宗教学雑考集』(仮題)を書いていて、その過程で最近の古代 DNA による考古学革命に関心を持ち、デイヴィッド・ライク『交雑する人類』([cocolog:94524505])をまず読んで基礎的な知識を得たあと、日本寄りの最新の成果を知ろうとして買ったのがこの本になる。
いつも通り引用しながらコメントしていくが、デイヴィッド・ライク『交雑する人類』([cocolog:94524505])のほうに載っていたことは基本的に素通りする。
JRF2023/11/187106
……。
>初期の猿人から現在の私たちに至るまでに、脳容積はおよそ三倍に増加しました。ただし、脳の容積は順調に増大したわけではありません。脳容積は新しい種が生まれたときに急激に増大し、やがて安定期を迎えるというパターンを取ります。<(p.23)
そうなのか。脳が大きくなる変異が現れたあと、その後、いったん小さくなるというのは、単純に脳を大きくするのは、最初は精神病とか妄想体質みたいになる…ということかな?
JRF2023/11/186901
……。
>ミトコンドリア DNA の多様性が高いことから、ネアンデルタール人は女性が生まれた集団を離れて、異なる集団の中に入っていくという婚姻形態を取っていたことも示唆されています。<(p.37-38)
それなりに複雑な(婚姻)システムへの理解は、ネアンデルタール人ぐらいになると当然あった。…と。
あと、近親婚を避けるシステムもあったらしい。
JRF2023/11/183857
……。
>ホモ・サピエンスの持つ言語能力に関係するといわれている FOXP2 遺伝子を取り囲んでいるゲノム領域では、ネアンデルタール人由来のものがまったく見られないことが判明しており、そこから言語に関する遺伝子領域が、ネアンデルタール人と私たちの違いを生み出している可能性も指摘されています。遺伝子の発現を制御する調節領域では、ネアンデルタール人由来の遺伝子が排除される傾向が強いことも明らかになっています。<(p.65)
JRF2023/11/180470
デュルケム『宗教生活の原初形態』([cocolog:94474286])を読んだところで、話せない者への配慮のようなものを持つ集団が出てきたが、関係あるのかもしれない。ネアンデルタール人と現生人類の混血が何度もあったということは、言語ではないもので、接触していたのだろうか?
JRF2023/11/186882
[cocolog:94474286]
>>
>彼女たちは絶対的な沈黙を二ヵ年も続けることのある服喪期を課せられる。(…)彼女たちは、それを慣習としているので、服喪が満期になった後でも、進んでことばを語ることをやめ、所作による言語を用いる。なおまた、彼女たちはこれをひどく巧妙に操る。スペンサーとギレンとは、二十四年間以上も話をしないでいた老婆を知っていた。<(p.280)
JRF2023/11/188729
上で、言葉が社会・概念・霊魂を作ったと述べたが、文盲が今もいるように、最初は、話せない者も、わりと同じ集団にいるという社会が長かったのかもしれない。ここの話さない彼女たちは、話せない人類が多かったことを記念しているのかもしれない。
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JRF2023/11/186250
……。
脳に関する遺伝子 NOVA1 について、ネアンデルタール人とデニソワ人は同じだが、ホモ・サピエンスでは違う。この点を確かめるために iPS 細胞を用いて培養し、その違いを確かめることに成功した。
JRF2023/11/182257
>ヒトに遺伝子編集技術を用いることは重大な倫理的問題を孕んでおり、現状ではそのような研究が進むとは考えられませんが、少なくとも培養細胞のレベルでは研究が行われるようになっているのです。<(p.71)
JRF2023/11/184462
ライク『交雑する人類』([cocolog:94524505])をまず読んだときもデザイナーズ・ベイビーが問題になったが、デザイナーズ・ベイビーをいざ作るというとき、陰性変異などの連想から、意外な遺伝子の作用が起こることも考えられる。そのような作用が実験室レベルでは起きないことをまず確かめるため、iPS 細胞の技術が使われることもあるのだろうな…と思った。
JRF2023/11/181685
……。
サハラの北と南では状況が違い、ホモ・サピエンスの進化に関して痕跡を残すはずであるが…。
>ただし、化石証拠から考える初期のホモ・サピエンスの進化では、アフリカの全域で化石が発見され、サハラは大きな障壁とはなっていないようにも見えます。これは、10万年を超えるような長いスパンで歴史を考えるときには、地球の寒冷化と温暖化のサイクルの影響で砂漠が湿潤化する時期を含むので、その影響が見えなくなるということを示しているのでしょう。<(p.84)
気候も学ばないとダメか…。
JRF2023/11/188695
……。
ブルガリアのバチョ・キロ洞窟…
>同じ洞窟から出土した人骨が、これだけ多様なミトコンドリア DNA の系統を含むことは驚きです。おそらく複数の集団が別々にこの洞窟にやってきて、合流することで地域集団として成立したのだと思われます。このような母系の多様性が見られること自体が、ホモ・サピエンスの世界展開を可能にした特徴を反映したと考えることもできます。<(p.121)
JRF2023/11/184637
上で述べたような婚姻システムが、著者の見解では実際、世界展開を可能にする大事な要素だった…ということだろう。近親婚を避けることが、遺伝的多様性をもたらし、後の様々な適応を用意したということか。
近親相姦のタブーについては最近では、そうしても遺伝的異常がそれほどないことから、見なおす動きもあるように思うが、長い目で見れば問題があるのかもしれない。
JRF2023/11/182635
橋爪大三郎『はじめての構造主義』([cocolog:94448858])を読んでレヴィ=ストロースの近親婚に関する考えを知った。
JRF2023/11/180665
[cocolog:94448858]
>>
モースには「贈与論」という論文があって、そこでは「交換のための交換」が論じられる。交換をしあうことが社会を維持する。そのため交換のための交換をするのであり、貨幣を用いた経済は、そういった社会のあとに現れるものだ…というものらしい。交換される主なものはある意味価値がないもののほうがいいということだ。
JRF2023/11/182151
そして、このような社会を維持するための交換としてレヴィ=ストロースが挙げたのが婚姻による「女性の交換」という概念で、これにより長年の謎だった複雑なインセスト・タブー(近親婚の禁止)のシステムに説明が付けられたのだった。
JRF2023/11/184381
>女性そのものの価値を、直接味わうことができるようだと、交換のシステム(つまり社会)が成り立たなくなる。だから親族(すなわち、女性の交換システム)が成り立つためには、それが否定されなければならない。同じ集団のメンバー(男性)にとって、女性の利用可能性が閉ざされなければならない。これがインセスト・タブーだ! 近親相姦は、女性が交換される「価値」であることの、裏側の面(反価値)である。近親相姦が否定されてはじめて、人びとの協力のネットワーク(つまり社会)が広がっていくのだ。<(p.91)
JRF2023/11/185146
私は近親婚のタブーについては、↓で、支配層で近親婚は離婚において憎しみが広がるのが国政において支障があるから、あらかじめ近親婚を禁じるのではないかという説を唱えていた。
『「シミュレーション仏教」の試み』(JRF 著, JRF 電版, 2022年3月)
https://www.amazon.co.jp/dp/B09TPTYT6Q
https://j-rockford.booth.pm/items/4514942
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JRF2023/11/181494
……。
ロシア西部のスンギール遺跡の墓、3万4000年前ぐらいの旧石器時代のホモ・サピエンスで、マンモスの牙などの副葬品があったが、その狩猟採集民は、200〜500人程度の集団の中で婚姻を行なっていた。
JRF2023/11/187006
>現代の私たちの社会で同様の検討をしてみると、千人以上のグループで婚姻が行われていることがわかっており、狩猟採集民の婚姻のネットワークは小規模だということもわかります。狩猟採集民がテリトリーを拡大していく際には、このような婚姻のネットワークを維持しながら、進んでいったのでしょう。ホモ・サピエンスの拡散は、少人数の集団が母集団から離れて、退路を断った形で行われた冒険的な性格のものではなかったことが推測されます。<(p.134)
JRF2023/11/187974
でも、この後、南米に太平洋から辿り着いていたという話が出てくるが、罪人なのかもしれないし、飢えがあったのかもしれないが、退路を断った形のものも、しばしばあったのではないだろうか。
JRF2023/11/182396
……。
7000年前のスペインの狩猟採集民…
>狩猟採集民と現在のヨーロッパ人のゲノムは大きく異なっていますが、免疫系の遺伝子の中には、そのまま保存されたものもあるのです。長期にわたって集団の中に保持されている遺伝子は、ヨーロッパの環境に適応的なものである可能性があります。<(p.149)
免疫系の遺伝子がそこまではっきり残るということは、逆に言えば、それに関する病気でかなり死んできた…ということなんだろうな。
JRF2023/11/184462
……。
>青銅器時代に続く鉄器時代には、異なる集団の動きも始まります。これ以降の時代では、中世に至るまで、中央アジアでは徐々に古代東アジア集団に由来すると考えられる遺伝的な要素が強くなり、逆に東ヨーロッパの狩猟採集民の遺伝的要素が減少していきます。つまり、この地域では東ユーラシアからの集団の進入が続いたと考えられているのです。<(p.167)
銅に比べて鉄はどこにでもあったから、炉の技術の伝播の影響が大きかったのだろうか。
JRF2023/11/186671
……。
太平洋から南アメリカへの到達。2020年のポリネシア人と南米太平洋岸先住民とのゲノムの研究で…
>過去の時代のポリネシア人と南米先住民の混血の痕跡が見出されているのです。
JRF2023/11/186153
両者の接触は13世紀のごろのことと考えられており、南米大陸にもっとも近いラバ・ヌイへのオーストロネシア語のオーストロネシア語集団の到達よりはやや早い時期になります。2014年に行われたラバ・ヌイの27名の先住民のゲノム研究では、その8パーセントが南米大陸に由来することがわかっていますが、この研究では、それより前にポリネシア人と南米先住民のファーストコンタクトがあったことが説明されました。
<(p.186-187)
JRF2023/11/189096
ラバ・ヌイとはイースター島のこと。まず南米に流れ着いて、そこからイースター島に帰って来た…みたいな解釈になる。もちろん、今後の調査によって、方向等は変わるかもしれないが。
JRF2023/11/185054
ところで、ライク『交雑する人類』([cocolog:94524505])にあった記述でこちらにないものとして、「集団Y」がある。南アメリカに太平洋から帰た系統…と私は感じたもの。1万年単位でかなり古い系統になる。ヨーロッパ人による発見を重視するアメリカにとって、センシティブだから、なくした可能性もあるのかな…とは思うが、ただ、太平洋から南アメリカへの到達については上のラバ・ヌイのものが語られているので、問題はないのだろう。
JRF2023/11/189279
もちろん、集団Y について、太平洋を渡れる舟が1万年以上前にあるとは思えないというのはわかるのだが、その時代の海流によってはありえたのではないか…などと非常識にも私は妄想する。
JRF2023/11/186677
……。
日本の弥生時代早期の大友遺跡…
>形態からは縄文系と考えられる個体も、ゲノムは縄文系から渡来人の混血の影響を受けている個体までさまざまだったのです。この大友遺跡人は、朝鮮半島に見られる支石墓という石棺の上に大きな石の蓋を持ったお墓に埋葬されていました。それは、北部九州で縄文人の子孫が朝鮮半島の文化を受け入れていたことを示す証拠です。<(p.218-219)
石棺についてはエリアーデ『世界宗教史 1』([cocolog:94505557])を再読したとき↓のように書いた。
JRF2023/11/189864
[cocolog:94505557]
>石の棺の文化は、侵略を受けた文明が、石を切り出す技術を平和時に維持するために、死後自然に帰るのではなく、死後も霊界で生きるという解釈のもとできてきた…と考えるほうがもっともらしいように思う。<
縄文時代の石棺については、渡来人ではないかと予想したのだった。
JRF2023/11/182410
ところで、縄文人と朝鮮の関わりについて、ちょうど Twitter で議論があった。朝鮮には縄文人が米作を伝えたという者に対し、学者筋がそれを否定するという議論である。この本の学者も、朝鮮の方向から、縄文文化に…という方向であり、それが正しいのであろう。
《巫俊(ふしゅん):2023-11-17》
https://twitter.com/fushunia/status/1725173875648934192
JRF2023/11/182307
>弥生時代早期の水田稲作伝来時に、東北地方の縄文人がその動きに素早く反応して、既に存在してた日本海の海路で北部九州に移動してきてたことが、明らかになってます。しかもその結果、九州の土器や銅鐸の一部文様に、東北の亀ヶ岡式縄文土器の文様が採用されました。
*小林青樹『倭人の祭祀考古学』
<
JRF2023/11/180335
巫俊 さん は、ロビン・ダンバー『宗教の起源』([cocolog:94517420])のとき紹介した すきえんてぃあ (@cicada3301_kig) さんと並んで、古代のことを多くつぶやいてくれていて、私のこの方面での関心を維持してくれている方の一人である。
JRF2023/11/187705
……。
>弥生の中期以降にも大陸から多くの人びとの渡来があったと想定しないことには、現代日本人の遺伝的な特徴を説明できません。<(p.220)
巫俊さんや すきえんてぃあ さんの話では、日本から朝鮮への動きもかなりあったということらしい。
JRF2023/11/181428
……。
「最初のアメリカ人」とされるモデルよりも古い、メキシコのチキウィテ洞窟の2万6500年前という人間活動の報告もある。
>これらの年代が正しいとすると、ゲノムの証拠から考えて、現在のアメリカ先住民につながらないまったく別のホモ・サピエンスの系統が新大陸に進出していたことになります。今後の研究の進展によっては、現在の学説も大きく書き替えられる可能性が残っています。<(p.245)
集団Y とはまた違うのかな?
JRF2023/11/188161
……。
ニューヨークの北東コネチカット州グリスウォールド…
>19世紀半ばのグリスウォールドでは、結核の黄疸による淡い黄色の皮膚や腫れた目、血痰によって口の周りに血がつくことなどが、ヴァンパイアの特徴とされるものと一致することから、結核の患者をヴァンパイアとみなす偏見があったことが知られています。
家族内で発症したり、周辺に結核患者が増えたりすると、ヴァンパイアの仕業と思われてしまいます。人目を避けて行動していた様子が、太陽の光を避けているように見えたのでしょう。
<(p.250-251)
JRF2023/11/182587
バンパイア(吸血鬼)=結核患者 説
JRF2023/11/189836
……。
>もともとはヒトの生物学的な研究から導かれた区分である「人種」ですが、現在では自然科学の学術論文で用いられることはありません。もし使っている研究があるとすれば、それは科学的な価値の低いものと判断できます。<(p.257)
これも「人種」と同じ避けるべき「予断」ではないのか。私のような素人研究者はそういう言葉遣いの事情を知らず、使ってしまうものだろう。確かに、そういう層の論文の信頼性は、層の平均としては劣るものかもしれないが、個々には科学的価値が高いこともありうるのではないか?
もちろん、私のやることは科学的価値が低いことは認めざるを得ないとしても。
JRF2023/11/180184
『人類の起源 - 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」』(篠田 謙一 著, 中公新書 2683, 2022年2月)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121026837
https://7net.omni7.jp/detail/1107265386
JRF2023/11/186502