cocolog:95358180
大久保 潤『確率的シミュレーション』を読んだ。良書。もっと若い時にこの本が出ていれば…と思う。例えば、確率微分方程式をシミュレーション側からラクに理解できただろうに…と。 (JRF 6917)
JRF 2025年4月 4日 (金)
今年度あたりに経済シミュレーションや感染症シミュレーションで、何か実験をやりたいと思っている。それに参考になればと前に買っていたこの本を読みはじめた。
確率を使ったシミュレーションは、私は何度かいじってきた。micro_economy_*.py のような経済シミュレーション、シミュレーション仏教のようなもの、確率分布に関する実験…。でも、こう何か基礎がわかってないという感触があった。
JRF2025/4/49453
「確率的シミュレーション」といってもそういう雑多なものを含めればいろいろある中、この本の著者は化学系出身で、粒子の結合などからなる確率モデルが語られていく。ただ、特殊分野なのかというとそうではなく、ギレスピーアルゴリズムのイベント発生を指数分布でとらえる考え方は他でも応用が効きそうだし、ミクロを「メゾ」に積み上げる確率微分方程式の議論などは、他の分野にも応用が効くと思った。もっと若いときにこの本と出会っていればと、今の若い人がうらやましく思った。
JRF2025/4/49254
ちなみに「メゾ」というのはミクロとマクロの間のことである。粒子1個2個のふるまいがミクロ。化学系はそれが大量に集るとほぼ決定的に滑らかに計算できるものとなりそれがマクロ。その中間で、グラフに描くと一定の傾向性が見出せたりするがギザギザが出てくるようなものが、メゾになる。平均株価の変化などはメゾになるようだ。
JRF2025/4/47080
……。
第2章、式(2.34)、マスター方程式の一般形は美しい。動的計画法のベルマン方程式にやや似てると思った。あれも美しかった。私はここで「マスター方程式」という言葉をはじめて知ったのだった。恥ずかしい。
JRF2025/4/42857
……。
第3章、p.67 あたりを読んでるときにやっとそれ以前について思ったこと。ロトカ-ヴォルテラ系など、イベントを記述してマスター方程式を導き、それにギレスピーアルゴリズムを適用するところに来ていた。
このとき質問が浮かんだ。イベントの同時発生というのは考えなくてよいのだろうか? 同時発生が起きそうな場合は、発生時間が一方が速いなどとすることで、想定内になっているということなのだろうか?
Grok3 さんに聞いてみた。
JRF2025/4/48858
Grok3:>通常のギレスピーアルゴリズムでは、イベントの同時発生は考えなくてよい、つまり想定外として扱われています。これは、指数分布の性質と連続時間モデルにより、同時発生が確率ゼロとみなされるためです。質問にある「発生時間が一方が速いなどとすることで想定内」という理解は正しく、アルゴリズムが逐次的にイベントを処理する仕組みによって自然に解決されています。<
こうやって、AI に聞きがら読めるというのはいい時代になったものだ。この本が私の若い頃になかったのは残念だが、私も AI への質問の時代には間に合ったわけで、若者をうらやんでばかりはいられないな。
JRF2025/4/44833
……。
ギレスピーアルゴリズムは、粒子系から導かれているが、イベント発生が指数分布の乱数を使って表現できるというのは、それ以外のシステムでも「使える」はずだ。時間が「まちまち」というのをこう表現すればいいんだという驚きがあった。これは今後私が経済シミュレーションや感染症シミュレーションをやる上で使える考え方では…と思う。
ただ、経済シミュレーションで最適化と組み合わせて…という場合はどうすればいいかわからない。結局、これまでどおり定区間で区切るしかないのでは…とも思う。でも、どこかに使えるかもしれないので頭のスミには置いておこう。
JRF2025/4/40793
……。
第3章の参考文献紹介で、「テンポラル・ネットワーク」という言葉が出てきて、少し興味をもった。
Grok3 さんとの会話。
jrf:> テンポラル・ネットワークという概念を知りました。
コロナ禍では感染モデルが予想するほどの盛り上がりがなかったと言われていたと思います。それは暗数が多かったからだという解釈が一般的でしたが、テンポラル・ネットワークを考慮すると、感染スピードが遅くなることが予想されるそうで、その影響もあったのかと思います。
いかがでしょう?
JRF2025/4/40135
Grok3:>
テンポラル・ネットワーク(時間的ネットワーク)という概念を踏まえたご質問、非常に興味深い視点ですね。確かに、コロナ禍での感染拡大が従来の感染モデル(例えばSIRモデルなど)で予測されたほど急激に進まなかった背景には、複数の要因が絡んでいる可能性があります。暗数(報告されない感染者)の多さが一つの解釈として広く受け入れられていますが、テンポラル・ネットワークの影響も無視できない要素として考えられるのは鋭い洞察だと思います。
JRF2025/4/44547
テンポラル・ネットワークとは、接触ネットワークが時間とともに変化するモデルで、静的なネットワーク(常に同じ人々が同じ頻度で接触する前提)とは異なり、現実の人間関係や移動パターンをより忠実に反映します。例えば、コロナ禍ではロックダウンやソーシャル・ディスタンシングにより、接触の頻度やタイミングが大きく制限されました。これにより、感染が広がる「機会」が時間的に断続的になり、感染スピードが遅くなる効果があったと推測されます。
JRF2025/4/43447
具体的に言うと、テンポラル・ネットワークでは、感染が起こるためには「適切なタイミングでの接触」が必要です。もし接触がランダムかつ断続的であれば、感染経路が途切れやすくなり、指数関数的な拡大が抑制される可能性があります。研究でも、時間依存的なネットワークを考慮すると、感染のピークが低くなり、拡散速度が遅延することが示唆されています(例えば、疫学やネットワーク科学の分野でのシミュレーション研究)。
JRF2025/4/40261
暗数の影響とテンポラル・ネットワークの影響は、実は相互に補完的な説明になり得ます。暗数が多かったことで実際の感染者数は見かけより多かった一方、テンポラル・ネットワークの効果でその感染が社会全体に広がる速度が抑えられた、というシナリオは十分に考えられます。特に日本のような、自主的な行動変容が強く働いた社会では、テンポラル・ネットワークの効果が顕著だったかもしれません。
JRF2025/4/48498
結論として、おっしゃる通り、テンポラル・ネットワークを考慮することで、コロナ禍での感染スピードの遅延をより深く理解できる可能性があります。暗数だけでは説明しきれない部分を補う視点として、非常に合理的かつ興味深い仮説だと思います。もしさらにこのトピックについて深掘りしたい場合、具体的な研究やデータについても調べてお答えできますので、ぜひお聞かせください!
<
JRF2025/4/47703
……。
第4章で、確率微分方程式が出てきた。確率微分方程式は、長沼伸一郎『経済数学の直観的方法 確率・統計編』第2章4「教養としてのブラック・ショールズ理論」の議論(参: [cocolog:86465092](2016年12月))とか少し思い出す。その本の議論がわかりやすかった。
この本ではそれを密度関数で表すフォッカー-プランク方程式なども説明されている。
JRF2025/4/40757
第5章のオイラー-丸山法という確率微分方程式を元にしたシミュレーションがわかりやすかった。というか、こういう基本的なことが、意外に他書に載ってなくて、PC で実現したくてどうすればいいかまごつくことがあったのだった。これはありがたい記述だよ。
大事なのは、p.123 の √Δt ね。Δt は微小だから、√Δt は Δt より普通大きくなる…というのがミソ。でも、√Δt は、ミクロからメゾの式を出すときに、システムサイズの逆数(のルート)がかけられる(ことが多いだろう)から、システムが大きくなるごとに考える必要もなくなる…というのが示されてた(式 (4.34) とか)のは、参考になった。
JRF2025/4/40421
……。
>レヴィ過程をウィーナー過程とポアソン過程などに分解できることも数学的に知られている。<(p.99)
金融危機とか扱うには、ウィーナー過程ではダメでレヴィ過程がいるらしい。で、レヴィ過程とはなんぞや?というと Wikipedia にも詳しく載ってない orz。
JRF2025/4/42573
レヴィ過程との関連は私は知らないがレヴィ分布なら、上限があって下に(または下限があって上に)突き抜けることがそこそこある分布で、資産価格の変化を表すのにいいと思って、後述の四辻さんの本を参考に、シミュレーション仏教で導入したことがあった。これもやっと辿り着いた「真理」だったのに、この本にはちゃんと書いてるんだもんな…。
JRF2025/4/43360
……。
第6章では、データのマッチングが問題になり、最小二乗法が話題になる。このとき、機械学習でもよく用いられる L2 ノルム(を使ったリッジ回帰)と、事前分布を正規分布とするベイズ推定とを、つなげる話が出てくる。これはどこかで見た気がするが、ここで事前分布をラプラス分布とすると L1 ノルムの LASSO 回帰がつながる…という話は、はじめて知ったかもしれない。
JRF2025/4/41436
ベイズ推定の事前分布に(共役事前分布に) Beta 分布を使ったりするのは、John K. Kruschke 『ベイズ統計モデリング - R, JAGS, Stan によるチュートリアル 原著第2版』([cocolog:91888253](2020年5月))などで私はやったのかな? 見覚えがあった。でも、大久保さんの説明のほうがわかりやすい気がする。
JRF2025/4/42679
……。
1〜6章はだいたい式も追えて読めたが、データをモデルにマッチングする7章・8章、数学的補遺を語る付録は、数学が難しくて目でザッと眺めるだけになった。
そんな中でも、確率に従った乱数を生成するための逆関数法は、四辻哲章『計算機シミュレーションのための確率分布乱数生成法』という名著で知っていたり、カルマンフィルタは蓮見 亮『動学マクロ経済学へのいざない』([cocolog:93532297](2022年6月))などでちょっと学んだことを思い出したりした。
JRF2025/4/47674
……。
8章の、カルマンフィルタを「拡張」したものにあたる(はずの)粒子フィルタも興味深く、いずれ経済シミュレーションや感染症シミュレーションを私が作るときに、それと実データのマッチングを考えれば、マッチングもいずれちゃんと学ばないとダメだよな…。深層学習で十分とはならないよな…。とは思った。
JRF2025/4/47291
『確率的シミュレーション』(大久保 潤 著, 森北出版, 2023年12月)
https://www.amazon.co.jp/dp/4627097212
https://7net.omni7.jp/detail/1107462769
JRF2025/4/40513